第31話 ミミックシェル

 周辺の『スティンガー・ウーチン』という魔獣を大量に狩って魔石を沢山得た。

 その数36個。当然ミーファのレベルが上がっている。


 俺なのだが、後数匹狩ればレベルが上がるだろうという時にナビーに制止された。

 どういうことかというと、レベルが上がると【ちゅうちゅうたこかいな】のパッシブが切れるので、高レベルの魔獣をレベルアップ前に狩った方が良いそうだ。少しでも偶数レベル期間を長くし、奇数レベル間は少なくした方が良いと進言してくれたのだ。


 なにせ俺のパラメーターが全部半分に落ちてしまうので、危険度が上がってしまうのだ。


 現在ちーちゃんが2つ上がってレベル7、ミーファが4つ上がって同じくレベル7だ。

 レベル5を超えたあたりから上がりにくくなっているみたいで、下位魔獣といえど36匹も狩ったのに俺は1レベルも上がらなかった。


 ちーちゃんとミーファのレベルが揃ったが、同じレベルでもかなりの開きがある。

 ちーちゃんは俺と同じく後数体でレベル8に上がるが、ミーファはついさっきレベル7に上がったばかりだ。


「魔石一杯確保できたね?」

「そうだね。次の町に入れるほどの量だよね」


「魔石1個の価値はどれくらいなのか分かるかな?」


「ナビーが言うには、屑魔石は1個1000ジェニーぐらいだって。ジェニーはこの世界の共通通貨の単位ね。価値は円と同じくらいだけど、物によっては日本と物価が違うそうだよ。卵や牛乳なんかの生ものは高いみたい」


「町には卵や牛乳が売っているんだね。日本も実は卵の値段ってそう昔と変わってないのよね。養鶏技術が向上して、安く手に入るようになったから今の値段だけど、昔は高かったそうよ。畜産業も同じね」




 ちーちゃんには先に教えていたが、ミーファにも母さんが教えてくれた【亜空間倉庫】の情報を教えてあげた。


「成程……町に入った時に裸になっちゃうんですね。そのための服でしたか。倉庫内に『初心者の服』『初心者の靴』と、元からあったけど装備できないので何なのかと思っていたのですよ。捨てなくて良かった……」


「でね、母さんが言うには、その服は麻のズタ袋に頭と手を出す穴を開けただけな感じの、簡易なモノなんだって。貫頭衣ってやつ? 大昔の囚人に着せるような……」


「私たちの国では現在も囚人はそういった服ですよ? 囚人に綿で出来た良い服は与えません」

「へ~そうなんだ。【亜空間倉庫】内にはその貫頭衣と硬い革靴だけしかないので、すぐに服を買いに行った方が良いって教えてもらったんだ。下着も入ってないから、横からおっぱい丸見えで、丈も短いので屈んだり俯いたりしてだけで全部見えちゃいそうになるから、多少の資金は用意して行った方が良いって母さんのアドバイスだよ。入場料しか持たないで行ったら宿屋にも泊まれず、イヤらしい目でニヤニヤした男たちの衆目に晒されるだけだって言ってた」


「それは、絶対嫌ですわね……幾らほど服を買うのに必要なのでしょうか?」

「安価なモノで1人分揃えるのに、大体2万ジェニーだって」


「じゃあ、今現在1人分の衣装代金しかないのですね……」

「いや、例のサメの魔石が10万ジェニーぐらいで売れるそうだから、なんとか全員分買えるかな。でも、できれば武器や防具も買っておきたいよね。町の中は基本戦闘行為は禁止になってるそうだけど、それでも襲ってくる者も結構いるって母さんが言ってた」



 ミーファはエルフだそうだから、嫌でも注目を集めるだろう。

 好奇な視線に晒されるのは嫌だと俺の話を真剣に聞いていた。




「この後はどうしようか?」


「八雲君が良いなら、そのミミックシェルって魔獣を狙ってみない?」

「あ、私も賛成! ヤクモなら余裕でしょ?」


 役物狙いみたいだけど、どうせなら一発勝負に出るのも良いかもね。


「ちょっと調べてみるね……」


『ナビー、頼めるかな?』

『♪ ハイ、ではMAPに☆マークを入れますね。ミミックシェルの中は亜空間倉庫になっていますので、中の魔石まではナビーでも分かりません。ユグドラシルの過去ログを精査すれば調べられますが、それだと面白味が全くないので、そこまでしてあげません』


『確かに中身の分かってる宝箱なんか面白くないよな。よし、じゃあ開けてみるまで中身はお楽しみということで取っておくよ』


「200mほど離れた砂場に分散して5匹いるようだけど、どうする? ちなみに中身はナビーが教えてくれなかった」

「どうして教えてくれないの? 分かっているのなら教えてくれればいいのに」


「分かってはいないそうだけど、ミミックシェルのこれまでの過去ログを全部見れば分かるらしいけど、そこまでさせたくないし、宝箱なんだから中身は開けてのお楽しみってことで良いんじゃないかな?」


「中身が分かるのであれば、魂石持ちを狙ってリスクを減らしたい気もするけど、全部ナビーちゃんにお任せも良くないわよね」


「MAPにナビーが☆を付けてくれたので、どれか選んでくれないか?」


 クリックすればある程度の情報が得られるので、それを参考にして後は勘頼りだ。


「このレベルの低い3体は無視しましょうか。で、レベル8のオスとレベル9のメスってなってるけど……なんとなくだけど、メスの方が光物を集めてそうだよね?」


「わたくしも、ちーちゃんの意見に賛成かな。同じくなんとなくだけど、メスの方が魔石や魂石を持ってそうな気がする……」


「魔獣というより魔物っぽいのに、雌雄があるとかびっくりだね。じゃあレベル9のメスを狙ってみようか?」


 レベルの低い魔獣は、転生者を食べていない可能性の方が高いと判断し、高レベルのメスを狙うことになった。



  *   *   *



「アレ、どう見ても貝だよね?」

「貝ですね」

「ええ、貝です」


 ナビーがマーキングしてくれた地点に向かうと、ハマグリの様な二枚貝がいた。

 只、大きさが30cmもある。


 如何にも喰ってくださいという風に砂の上に出て、美味しそうな身を貝の隙間から少し覗かせている。


「アレ、おかしいわよね?」

「うん、おかしいね」


「え~と、ごめんなさい。わたくしには何がおかしいのか分からないわ……」


「そっか、森の中で暮らしてたエルフのミーファには分からなくて当然か」

「どういうことですか?」


「え~とね、二枚貝は普通砂の中に隠れていて、目のような管を砂から少し出して覗いているのよ。体の本体は普通砂中なの」


「成程……だからおかしいのですね?」

「うん。普通なら姿を隠して、近くに来たら不意打ちで襲うのがセオリーなのに、アレだと如何にも誘ってる感がするんだよね」


「どう? 八雲君、倒せそう? 無理はしなくていいからね?」

「ヤクモの判断で少しでも不安があるなら、止めようね?」


 2人とも俺の安全を第一に考えてくれている。ちょっと嬉しい。


「ナビーが言うには絶対はないそうだよ。でも、多少の危険を恐れていては、人族には至れないって釘を刺されてる。でも、勝率が9割以下ならナビーは反対するだろうから、多分勝てる相手だよ」



 という訳で狩りの開始だ。


 ミーファとちーちゃんに支援魔法を各種貰う。潮の流れの上流に回り込んで【麻痺毒】を流す。


「アッ! 貝殻、閉じちゃったよ!」


「気付かれちゃったみたいね?」

「ヤクモどうする? 一旦撤退したほうがいい?」


「う~ん、貝殻硬そうだよね。貝だけあって守りも堅いのかな?」


『♪ マスター、あまり近付きすぎてはいけません。前にも言いましたが、貝に擬態しているだけで、凶悪な宝箱型の魔獣です』



 そうだった、ゲームでは宝箱型でギザギザの歯が上下についていて、宝箱だと思って近付くと、いきなりパックンチョしてくる魔獣なんだよね。よく地下ダンジョンの隠し部屋で待ち伏せしてたりするイヤらしい奴らだ。


「ちーちゃんとミーファは下がってて。【墨吐き】で様子を見てみる」

「「了解!」」


 完全に守りに入った貝に近付いて、【墨吐き】でブラインド効果を発揮し、目を奪った。


 完全に視力を奪ったので、後は俺の腕力で貝をこじ開け噛みついて【テトロドトキシン】を流せば勝利だ。



 完全に俺の油断だった。


 50cmの距離に入った瞬間、宝箱の姿に戻って蓋を大きく開けてそのギザギザの口でパクッとやられてしまったのだ。箱からはみ出していた俺の脚が3本海中に舞う。


「八雲君!!」

「ヤクモ! イヤ~ッ!」


『♪ あれほど言っておいたのに、マスターは何をしているのですか? ダメダメです。5点です!』

『アゥ……ごめん』


 はい、まだ何とか生きています……。

 今、ミミックシェルの腹の中です。


『ナビー、外の2人に近付かないように言ってくれ』

『♪ そうですね。救出しようとミーファが特攻しそうです。マスター名でメールを送りました』




 ナビー経由で2人を止めてもらった。

 足が痛い……手かな? どっちでもいいや……とにかく痛い。

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