第28話 捕食衝動
ミーファが死亡理由を語りだしたあたりからちーちゃんの様子が変だ。
「ちーちゃんどうした? 具合でも悪いのか?」
「いえ、ごめんなさい。大丈夫です、少し嫌な事を思い出しちゃって……」
ナビーが言っていた死亡理由がどうこういうやつかな?
それならあまり込み入って聞かない方がいいな……ちーちゃんの方から話を振ってくるまでは黙っていよう。
「ミーファが毒が効かなくて良かったよ。基本俺って毒使いの部類なんだよね。数種混合の麻痺系の毒と神経毒が種族特性なんだ」
「ふーん。わたくしを襲ってたサメも倒しちゃったんだよね? その毒って凄いの?」
「うん。でも俺の1番凄いのはユニークスキルの【カスタマイズ】ってやつだと思う。パーティーメンバーのステータスをいじることができるんだ。普通、熟練度は反復練習や、それこそ練度を日々の精進で上げていくんだろうけど、俺はAPという本来表示されていないポイントを使用して好きな場所に熟練値を割振れるんだ」
「え!? 練度を上げなくても、上げたい箇所にポイント振ったらそこが強くなるって事?」
「うん。今回は相談しないでミーファのステータスを勝手にいじらせてもらったけど、将来どういう風な感じになりたいか言ってくれたら次からはそういう風に振るからね」
「凄い! ええ! じゃあ、お願いしますね!」
「ちなみに今回は【隠密】Lv1→Lv3【身体強化】Lv1→Lv5【物理耐性】Lv1→Lv3にしてあるからね。【身体強化】は五感も含めた体機能全てが上がる最強パッシブなので、これをとりあえず真っ先に上げるね」
「凄い! 普通耐性を強化するには、何度も攻撃を受けてやっと強度が増していくのに、ヤクモがいじっただけでもう物理耐性が3になっているんだね」
「それとちーちゃんが持ってる【経験値増量】これがあるおかげでレベルも普通の人より上げやすくなっているので、うちのパーティーはかなり美味しいよ」
「そんなズルいパッシブスキルがあるんですか!?」
「さっき、このスキルの熟練度をレベル7にしたので、今後得られる経験値は70%増し状態なんだよ。レベル10にしたら100%増しだから、通常の2倍だね。それと俺が偶数レベル時だけ発生するという変なパッシブスキルを持っていて、その時は得られる経験値やレベルアップ時のレベルアップボーナスも2倍入るんだ」
「レベルアップボーナス?」
「ああ、言い方が悪かったね……レベルが上がるときに各基本ステータスも少し上昇するよね? 例えばレベルアップしたときに、基本攻撃力が5増えるのだったら、俺が偶数レベル時の時は倍の10得られるんだよ。今はレベルが低いのでその差を感じることができないかもだけど、レベルが50とかになった時のステータス上昇が2倍得られたらかなり一般の者と差が出ると思うんだ。その恩恵もパーティーメンバーに付くようで、俺が偶数レベル中にレベルが上がれば倍のステータス値が得られるよ」
「わたくし、このパーティーに入れて良かった! 転生してもらったのにサメに襲われすぐ死んじゃうのかと思ってたけど、運命的出会いの試練だったんだわ! じゃないとあんなタイミングで助けなんか来るはずがないですもの」
「あはは、こじつけすぎだよ。ただの偶然だよ」
「そうでしょうか? たまたま近くに転生者がいたとしますよね? その方が運よく良い人で助けてくれてくれる可能性って凄く低いと思うのですよ。なにせ、相手がこの周囲では最強種のサメ種の魔獣です。逃げるのが正解でしょう。それに普通弱ってる転生者を見つけたら、良いカモがいたと思って食べちゃうと思います。そして回復魔法です。この世界では回復魔法は貴重だとチュートリアルが説明してくれました。それを助けてくれた方が習得していて、瀕死の私を回復してくれた? あまりにも出来過ぎではないでしょうか?」
「そう言われたら、またアリア様の仕業のように感じてきた。ちーちゃんのようにミーファも俺に巻き込まれたのかもしれないね」
「ああ~……それありそうね。私たちのように、騙され気味ではないみたいだけど、意図して同時期に近くに産み落とされた可能性はありそうよね」
「え!? アリア様? この世界の主神のアリア様のことですよね?」
ざっくり掻い摘んで俺とちーちゃんがこの世界に転生したきっかけを説明してあげた。
「わたくしの転生の時はアリア様ではなくて、御爺ちゃんの神様でした。名を聞いたのですが、ふぉふぉふぉとか言ってごまかすように笑って教えてくれませんでしたけど。でも転生時の去り際に、『良い巡り会わせがあるじゃろう。善き縁を大事にするのじゃぞ』とか言っていたので、やはりアリア様の意図的なモノがあるのだと思います。ヤクモには何か定め的な使命があるのかもしれませんね……」
ちーちゃんも頷いで同意しているけど、そんな面倒なのは迷惑だ。後でアリア様が何かしろとか言ってきても無視だな。そもそも転生時には何もしなくていいと言っていたしね。
「ミーファの血の匂いが残ってるだろうから、もっと離れようか? それとちーちゃん、拠点どうする? ミーファじゃあの拠点の入り口は潜れないよね? どっか他に探して場所変えようか?」
ミーファは体長7cm、横幅は4cmほどの楕円形をしている。あの拠点で1番大きな入り口に使ってる穴でも2cmしかない。軟体生物の俺と違ってミーファじゃ入れない。拠点を変えるしかないだろうな。
「そうね、周辺に食料が多かったから良い場所だったのだけど、そうしようか?」
「ごめんなさい。わたくしのせいで今の場所は使えないのね? なんならわたくしは外でいるから――」
「夜ならともかく、昼はあの場所は危険だよ。食料があるってことは、それを食べにくる捕食者も多いってことなんだからね。幾ら甲羅が硬いといっても、まだミーファは赤ちゃんなんだ。ブダイとか石鯛のような強靭な顎の捕食者や俺のようなタコ種やイカ種、サメやウツボだったら簡単に食べちゃうよ? ヤバ!……意識したらミーファが凄く美味しそうに見えてきた!」
「「えええっ!?」」
「あっ! 意識しちゃうと、わたくしもヤクモやちーちゃんが美味しそうに……」
「「えっ!?」」
「ちょっと八雲君! ミーファはベジタリアンだから安心だって言ってたじゃん! 全然違うじゃない!」
「いや? ちょっと待って! ナビーに聞いてみる」
『♪ アオウミガメは元々雑食です。幼体の時には目に付いたものは何でも食します。ミーファも幼体のうちは何でも食して体を大きくする必要があるのです。それと成体になっても全く動物性のモノを食べないわけではありません。ですがほぼ植物性のモノのみ好んで食すようになります』
『つまり今は何でも食べちゃうんだね?』
『♪ はい、ですが理性があるので大丈夫でしょう。マスターも反射的にミーファを食べたりしないでしょ?』
「ミーファの種族は雑食だそうだ。大きくなるにつれて植物性のモノを好んで食べるようになるけど、全く食べないわけでもないらしい……ナビーは理性があるのでお互いに大丈夫だと言ってるけど、どう? 捕食衝動でパクッとしちゃいそう?」
「お腹が減ってないからかもしれませんが、それほど酷くはないです」
「俺は結構空腹だけど、我慢できるレベルだね。ちーちゃんは?」
「さっきの話を聞くまでは何とも思っていなかったですが、攻撃手段の無い餌のエビ種の私は、いつ不意に捕食者の2人に食べられちゃわないか、今は恐怖でいっぱいです!」
「あはは、変な話してごめんね。でも、ちーちゃんは大丈夫だから安心して。俺、ちーちゃんのGのキモイ姿見ちゃってるから、間違っても食べたいと思わないから」
「んまぁ! あなた最低! 何度も何度もキモイって! そもそもあなたのせいでこの世界に巻き込まれちゃったんですからね!」
「うっ……ごめん。そんなに怒んないでよ」
種族が違う捕食衝動はなんとか抑えられそうだ。
この場は危険だとナビーが警告するので、狩りをしながら新たな拠点を探しに俺たちは移動することにした。
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