第24話 脱皮
ステータスをお互いに開示し、今後の方針を決める。
「八重樫君はもうレベル6なんだね。『初心者の町』はレベル5~10までの入場制限があるなら、ひょっとしたら次の町まで入れないかもしれないね?」
「そうなんだよね。レベルの条件がクリアされても、『魂石』を1個捕食していないとダメだから、戎吉さんの分を考えると、最低2人殺さないといけない。2個確保する前にレベル10超えちゃいそうだよね? 戎吉さん『魂石』の為に自分から相手を襲って殺せる?」
「う~ん。どうでしょう? でも、必要なことなのでしょう?」
「うん。それに『魂石』の捕食が1番経験値を稼げるそうだよ。そうしないことには町にも入れないからジョブにも就けないんだよね」
「ああ、そうなるのですね。神殿が町の中にあるのでジョブを得るには、どうしても誰かを殺さないといけないんですね? ジョブか~、私ならどういうジョブがあるんでしょうね?」
「ゲームなら僧侶とか神官? とかかな?」
『♪ 回復師というジョブがあります。ヒーラー自体がこの世界には少なく、滅多に就けないレア職ですが、彼女は条件クリアです』
「回復師ってジョブがあるそうだよ? 戎吉さんのチュートリアルは教えてくれない?」
「あの、それがですね? AIのように喋ってくれませんよ? 聞いた事に答えてはくれますが、最初のシステム音声と同じ無機質な声のままです。八重樫さんが言うような思念体のようなものも居ないです」
「え!? どうして?」
「それは私の方が聞きたいぐらいです。本当に八重樫さんのチュートリアルは勝手に喋るんですか?」
『ナビー、どういうことだ?』
『♪ 愛が足らないのです!』
『ん!?』
『♪ マスターがナビーをお創りくださった時のような愛が全くないのです! 所詮はシステムとか思っていては、ナビーのような自我を持ったような存在は誕生しません! ナビーはマスターの愛の結晶です!』
そんな恥ずかしいこと、戎吉さんには言えないよ!
「どうもイメージが足らなかったんじゃないかって?」
「そうなんですか? 10分もイメージしたのに」
『♪ 彼女はああ言ってますが、ステータスをチェックしていた時間が殆どでした。イメージはせいぜい30秒ほどでしょう』
「別になくても俺のがあるしね。それより『魂石』どうする? 『魔石』も町の中ではお金代わりにいるそうだよ」
「ジョブはほしいですよね……襲ってきた人だけ狩るのじゃダメなんですよね?」
「ダメではないんだけど、最終の試練クリアまでにどのくらいの年数がかかるかだよね? 20年かけて人間の姿を取り戻したとしても36歳だよ……それから第二の人生とか言われても……俺はともかく、戎吉さんなんか適齢期を過ぎた女性だとお相手にも困るんじゃないかな?」
「男の人は苦手なのでそういうのはいいです。でも36歳か~、確かにそこから第二の人生とか言われてもなんだか嬉しくないですよね」
「80歳で死んだ人とかも、転生してるのかな? その場合も80歳から? 種族寿命の方が長かったりして……」
「どうなんでしょうか? そういうのって悲しいですよね? このシステムの意味が分からないです」
「だよね。サメとか個体によっては意外と長寿らしいしね。ホオジロザメは70年ほど生きるらしいし、400歳とかいうサメもいるそうだよ。ゾウガメとかも100年以上だしクジラとか200年とかのもいるでしょ? 転生させといて、人族に戻るときは元の年齢とかどういうことなんだろう? 転生させる意味が分からないよね? それにどうして人間を海洋生物にするんだろう?」
『ナビー、その辺はどうなってるの?』
『♪ ナビーにそういう情報はありません、上位権限がないと検索もできないようです。それと、この世界に転生できるのは18歳未満の者だけだそうです。なので転生して数年で人族の寿命で死ぬ人はいないです。弱肉強食の生き残りで死なない限りは生前の寿命が反映されます。後、マスターのお父様のように、子供を残して死ぬ方とかですかね』
『子孫を残すと死ぬのは回避できないのかな?』
『♪ 難しいですが、できないことはないですね。マスターのお母様のように第三者に助けてもらえれば生存の可能性は高いです』
『じゃあ、俺の父さんもどこかで生きてる可能性もあるのかな?』
『♪ 残念ながら、マスターのお父様は精嚢をお母様に託された後、沖を目指して10日後に力尽きてお亡くなりになられています。ですが、幸せそうなお顔で亡くなられたとお知らせしておきます』
『そう……一度会ってみたかったから残念だ。それで父さんが沖を目指した理由は?』
『♪ 種族特性としか分からないですね。お母様が巣穴から出なかった理由も分かりません。死ぬ覚悟がおありなら周辺に出て貝ぐらいは食べられたと思うのです。どうして這ってでも食料を探しに出なかったのでしょうか? たった数メートルの範囲に食料があるのに……やはり種族特性なのでしょうか?』
『ナビーが分からないことを俺が分かるわけないだろう?』
「俺のチュートリアルも分からないって……ちなみに俺のチュートリアルは『ナビー』って名付けた」
「ナビーですか? まさかナビしてくれるからナビーとかですか?」
「うっ……そのまさかです。変かな?」
「う~ん。響きが可愛いから良いんじゃないかな? 女性の姿をしているなら、ナビーちゃんかな? よろしくね」
『♪ 可愛いって言ってくれました! 彼女は良い人ですね!』
『おーい、そんなんで人を判断しないように!』
「なんか、可愛いって言ってもらえて喜んでるみたいだよ」
「そうですか。それだと本当に感情があるような言い方ですが、私のとは随分性能が違うようですね?」
「成程……性能ね。多分戎吉さんが機械として認識しているから機械的なんだよ。初期の設定時に、AI的にイメージし過ぎちゃったかな。もしそうなら学習していっていずれは俺のみたいに喋ってくれるのかもね」
さっきの会話の中で、ナビーの言ったことがどうしても気になったから、母さんに直接聞いてみることにした。
『母さん、今いいかな?』
『ヤクモちゃん! いいわよ! えへへ、実は待ってたの~』
なんか可愛い人だ……。
『そうなんですか? そっちから連絡してくれても良いのですよ?』
『狩りの最中だったら、危険だと思ってね。急に連絡を入れて、ビクッとなった隙を突かれると大変だと思ったら連絡しにくかったの……』
『それは、心配し過ぎです』
『そう? じゃあ、今後はこっちからもコールするね!』
『母さんに聞きたいことがあるんだ。俺が生まれた時、母さんは死ぬつもりだったよね? どうして? 周りには食べるもの一杯あったじゃない? どうして、這ってでも食べに外に出なかったの?』
『う~~ん、あれ? どうしてなのかな? 母さんにも分からないわ……あの時は役目が終えた満足感や達成感で凄く満たされていて、精根尽き果てたって感じだったの。凄く満足していたの、もうこのまま死んでも良いくらいにね。凄く眠かったわ……』
あのまま何も食べずに、幸福感に包まれて死んでいくのかな。ならあのまま死んだほうが良かったのか?
俺の助けたいってエゴで、幸せに包まれて死ねるのを延命させちゃったのかな?
『でも、こうしてヤクモちゃんに助けてもらったから、また母さんは人に成ることを目指すわ。待ってるから、ヤクモちゃんも追いついてくるのよ! あなたなら大丈夫、なんてったってアリア様のお気に入りなんですもの!』
女神様のお気に入りか……どうなんだろうな?
『そうそう、アリア様が言ってたヒーラーさんとちゃんと会えました。同じ国の出身でした』
『そう、良かった! ヒーラーさんが居るならかなり生存率が上がるわ! もう死んじゃわないでね。ヒーラーさんにもよろしく言っておいて』
聞きたいこともあったが母さんに生存確認の連絡を入れておいた。
死んだらフレンドリストが赤色に文字色が変わってしまうらしいので、連絡しなくても判るんだけど、母さんは毎日声が聴きたいらしい。
今日は狩りにはもう出ないで、その日はこうやってステータスチェックを行い、方針をまとめた。
・襲ってきたら容赦なく狩る
・遭遇したら様子見して、できるだけ狩る
・善良そうなら、戦闘は回避する
甘い考えだとは思うが、助けてくれと命乞いされたら多分殺せないと思う。
戎吉さんと大まかな方針を決めた後、その日は眠りについた。
翌朝(夜行性なので晩)戎吉さんがなにやらモゾモゾやっている。
「おはよう戎吉さん。朝から何やってるのですか?」
「あっ! おはようございます、八重樫君。なんか背中が痒いのです……。むず痒い?」
見てみると、背中に亀裂が入っている。
「あ! これ、多分脱皮だ! 甲殻類は脱皮して大きくなるんだよ」
「きゃ! 見ないでください!」
「ええ? なんで脱皮と分かったら恥ずかしがるの?」
「何言ってるんですか! 乙女の脱皮ですよ? 恥ずかしいじゃないですか?」
「ごめん……俺にはさっぱり理解できない」
言ってることが良く分からない。やはり種族的にそういう感情が備わってしまうのかな?
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