第23話 ちーちゃんのステータス

 ひたすらガジガジすること30分。何度か戎吉さんから泣きが入ったが、やっと息の根を止めてやることができた。正直見ているこっちがカニさんに同情してしまった。


 俺の【麻痺毒】で痛みはないのだが、痺れているだけで意識はある。


 自分を殺そうと、ガジガジされている感触はあるのだ。

 生きたまま喰われるのはどんな気分なのだろう? カニにも感情はあるのだろうか?


「グスンッ。八重樫さん酷いです……残酷です!」

「ごめん……でもレベルは上がったでしょ? 俺も見ていてどっちも可哀想だったけど、他に手段が思いつかなかったんだから仕方ないよ」


 そうなのだ、半泣き状態の彼女には残酷な事をさせてしまったが、その甲斐あって戎吉さんのレベルが上がった。やはりトコブシなんかよりずっと経験値が得られるようだ。


「チュートリアルさんが、初期登録を申請してきました。教えていただいてた情報通りです」

「何度も言うけど、この初回が凄く大事なんだからね? 自分のイメージで良いのを作るんだよ?」


「はい、頑張ります」


 彼女の邪魔をしないように、巣穴の隅でじっとしておく。

 10分後に彼女は声をかけてきた。


「できました。所持スキルは回復特化な感じです。やはり攻撃力はほぼ0でした……ごめんなさい」

「とりあえずパーティーを組もうか? 申請出すね」


「はい。ちょっと待ってくださいね。手動ではなく、網膜上で目視でのイメージ操作ですか。少しコツがいりますね……慣れるまで練習した方が良さそうです」


「インターネットでのMMOだと、殆どマウスとキーボードの操作だしね。コントローラーを使う人も要るようだけど、こういったイメージ的に思考で操作とかないもんね。3つほど下位の世界とか言ってたけど、むしろ次世代仕様な気がするよ」


 パーティーを組んだことによって、画面的に言うなら左上にHPとMPの2段バーが表示されるようになった。


「八重樫君、やはり情報交換はしておくべきだと思うの。自分が人に依存しないと生きられないのもこれで完全に理解したし、いつまで一緒にいるのか分からないけど、全力でサポートするわ。もし今後お互いに別パーティーになるようなことになっても、秘密厳守で誰にもステータスやスキルのことは言わないよ」


 攻撃力のない彼女としては、回復でサポートとして頑張るしかないもんな……。


「分かった、お互い情報開示しようか」



 【八重樫八雲】

   HP:638(1276)

   MP:323(646)

  レベル:6

   種族:人族

  仮種族:ヒョウモンダコ 

   性別:男

   年齢:16歳 

 転生年齢:0歳

  職業:……


  攻撃力:403(806)              

  防御力:393(786)

  敏捷力:78(156)

   知力:1065(2130)

  精神力:865(1730)

    運:……

  魅力 :935(1870)


   AP:10



 《スキル》


  《生活魔法》

    【亜空間倉庫】Lv1

    【クリーン】


  《種族固有魔法》

    特殊支援系

     【墨吐き】Lv3     


     戦闘攻撃支援系

     【麻痺毒】Lv5  

     【テトロドトキシン】Lv5

              

  《既存魔法》

    特殊支援系パッシブ

     【隠密】Lv5

     【忍足】Lv3

     【暗視】

     【気配察知】Lv1     


    戦闘支援系パッシブ 

     【身体強化】Lv5

     【腕力強化】Lv3


   《ユニークスキル》

     【周辺探索】Lv1

     【詳細鑑識】Lv1

     【インベントリ】

     【カスタマイズ】

     【ちゅうちゅうたこかいな】



 俺はウツボ君を倒した時にレベルが3つ上がっていた。

 APを使用して、毒の威力と【身体強化】をLv5にしている。

 【隠密】も暗殺系の俺には必要だろうとレベル5にし音を殆ど出さないように【忍足】もレベル3にした。

 後は緊急回避できるように【墨吐き】を上げ、荷物運び用に【腕力強化】をレベル3にした。

 【気配察知】は周りに気を配って行動していたら勝手に手に入っていた。


 探索魔法は行動範囲が100mもない今の俺には、レベル1で探索範囲が1kmもあるこのスキルで十分なのでレベル1のままだ。

 【詳細鑑定】がレベル5になったら、相手のスキルも見られるようになるとのことなので、早めに上げたいとは思っている。



 さて、問題の戎吉さんのステータスだ。

 

 【戎吉智穂】

   HP:93

   MP:126

  レベル:1

   種族:人族

  仮種族:オトヒメエビ 

   性別:女

   年齢:16歳 

 転生年齢:0歳

  職業:……


  攻撃力:26              

  防御力:18

  敏捷力:18

   知力:846

  精神力:986

    運:812

  魅力 :1365


  

 《スキル》


  《生活魔法》

    【亜空間倉庫】Lv1

    【クリーン】

    【ライト】


  《種族固有魔法》

    特殊支援系

     【お手入れ】Lv1     


     戦闘攻撃支援系

     【鋏】Lv1  

     

              

  《既存魔法》

    特殊支援系パッシブ

     【隠密】Lv1

     【忍足】Lv1

     【暗視】     


    戦闘支援系パッシブ

     【身体強化】Lv1

     【腕力強化】Lv1


    攻撃支援系

     【ヘイスト】Lv1

     【フロート】Lv1  


    回復支援系

     【アクア・ヒール】Lv1

     【アクア・キュアー】Lv1

    

   《ユニークスキル》

     【毒無効】

     【経験値増量】Lv1

     【欠損回復】Lv1(Lv30解放)

     【スキルキャンセラー】

     【無詠唱】




 話を聞いて纏めてみたのだが、攻撃手段はハサミしかない。しかも大した威力はないとのこと。


「戎吉さんはオトヒメエビって種族なんだね。元々強い魚やウツボ、毒をもったイソギンチャクなんかと共生する種族だよね。食べかすや、皮膚の皮をハサミで掃除してあげる代わりにお零れを貰うってやつ……」


「イヤ~~! 何それ! お掃除メイド!? あなたの体を掃除してあげてお零れ貰えって言うの!?」

「何も俺の体を掃除しろとか言ってないじゃないか……そういう種族だって話でヤレなんて言わないから」


「【お手入れ】スキルが、あなた様の御身体のお掃除用みたいでございます……グスン」 

「態と卑屈な喋り方しなくていいから!」


「でもフナ虫じゃなくて良かった。乙姫蝦とか可愛い名前ですよね。どんな成体なんでしょう?」

「確か観賞用にペットショップとかでも売られている、結構ポピュラーなやつだよ。紅白の色鮮やかでゴージャスな感じだったかな?」


「詳しいですね。八重樫君は観賞魚とか飼ってたのですか?」

「昔ベタって淡水魚を飼っていたよ。酸素も要らない凄く手のかからない魚だったから、最初は小さい金魚鉢で飼ってたんだ。餌あげているうちに可愛くなってきて、大きめの水槽買ってきて、水草や岩や底石なんかも揃えたね。その頃に色々ペットショップを見て回っていたので、海水の観賞魚のことも少し知っているかな」


「そうなんですね。ところで、私のステータス変ですよね?」

「転生者は、どうも生まれたてでも、知力や精神、運や魅力は引き継がれるみたいだよ。レベル1なのに精神力と魅力値が異常に高いよね……。アリア様が騒いでたのって多分ユニーク系のやつかな? 【無詠唱】使えそうだね。【スキルキャンセラー】これも凄いね。相手の魔法をキャンセルできるってやつでしょ? 【欠損回復】は部位欠損したときに治せるんだね。レベルが30にならないと使えないのか……これも凄いけど、あんまり俺には関係ないかな」



「【欠損回復】が関係無いってどうしてです? この魔法凄いと思いますけど?」

「うん。凄いんだけど、タコって種族は、腕を食い千切られてもまた生えてくるんだよ。自己再生能力があるんだ。魔法でちょちょいっと治した方が早いんだろうけど、絶対無いと困るってほどでもないってこと。それより【毒無効】だよ。これがあるなら戦闘時も一緒に居られるので戎吉さんの安全度が上がるね」


「そうですね。もし離れている時に魚が来ちゃったら、パクッてされちゃいます」


 戎吉さんは弱いけど、支援には向いているようだ。

 俺のレベルがもう少し上がれば、かなり上位の敵とも渡り合えそうだ。


「あの~、【ちゅうちゅうたこかいな】というスキル? なんですか?」

「ふざけた名前のスキルだけど、結構凄いんだよ。偶数レベル時の時は全てが2倍になるんだ。倒した敵の獲得経験値も2倍だし、レベルアップ時に得られるステータス上昇も2倍なんだよ」


「何それ! めちゃくちゃ凄くないですか? 今はまだそれほど実感ないかもですが、レベルが高くなるほど周りとの差が顕著になるのではないですか?」


「多分そうなるね。君の経験値増量も合わされば結構すぐ上のエリアに行けそうだよね?」



 人のステータスを見るのは意外と楽しい。

 秘密を共有したことで、彼女との距離が少し縮まった気もする。



 本格的な活動が始まるのかと思うと、なんとなく楽しくなってきた。

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