第22話 フードファイト

 狩りの際には少し離れてもらった。何せ俺は猛毒使い……巻き添えで死なせてしまう。


 1時間ほどトコブシと海藻をとっていたら、ナビーが声をかけてきた。


『♪ マスター、5cmほどのカニが近くにいます。狩ってみませんか?』

『カニか……今の俺で狩れそう?』


『♪ はい、油断しなければ問題ないかと思います。麻痺させておいて、真っ先にハサミのある腕をねじ切って落とせば楽に倒せるでしょう』


「カニが近くにいるから狩ろうと思う。少し離れて待っていてくれるかい?」

「大丈夫なのですか?」


「大丈夫と思うけど、狩りに絶対はないからね。十分気を付けるよ。俺の戦闘スタイルを見ておいてほしい……基本はせこい暗殺仕様な感じだから」

「分かりました。怪我しないでね……私にはまだ回復スキルがないからもどかしいです」



 岩場を利用して気付かれないように上流に回り込み、射程に入った時点で少量ずつ【麻痺毒】を海流に乗せて流し込む。

 毒が効いてピクピクと手足が痙攣し始めたら、一気に襲い掛かって腕をひねってハサミのある腕を2本落とした。


 カニはハサミを無くしたら後はただの横歩きする箱だ。もう殆ど攻撃力はないから、如何様にも料理できる。


「戎吉さん、もう良いですよ。【麻痺毒】も海流で流れてもう周囲に残って無いので近寄っても大丈夫です」

「八重樫さん凄いです! 楽勝じゃないですか! 使ったの【麻痺毒】ですか? 結構強力な毒をお持ちなのですね? 暗殺仕様ってのも頷けます」


 彼女は初めて脅威のある実戦を見て、ちょっと興奮気味だ。

 生物を殺すことに忌避感があるようなら詰んでいたけど、それはないようなので一安心だ。


「俺ちょっと思いついたんだけど、俺がこのカニの頭部に少し穴をあけるから、戎吉さん頑張ってガジガジ齧って脳の方まで噛み進んで止めを刺せないかな? カニってトコブシなんかよりずっと貰える経験値は多いそうだから、最初のレベルの1つぐらい上がると思うんだ。今回で上がらなかったとしても、同じような感じでトコブシを麻痺させておいて止めってパターンが使えると思う。やってみない?」


「良いのですか? せっかく倒したカニの経験値……あなたが得るべきなのではないですか?」

「戎吉さんのレベルが1つ上がるだけで、回復スキルを得られることと、パーティーを組めるようになって経験値を分配できるようになる2つのメリットがあるんだ。戎吉さんのレベル上げが俺のレベル上げより急務だよ」


「そうですね……お言葉に甘えます。ありがとうございます」




 生きたままの状態では【亜空間倉庫】にも【インベントリ】にも収納できないので、引き摺って巣穴に持ち帰ってきた。


「タコって力持ちなんですね。自分より大きなカニなのに、難なく運んでこれちゃった……」

「タコってパッと見では凄く柔らかそうだけど、ほぼ全身筋肉でできてるんだって。水中内だと重力も軽減されているから、このカニも見た目ほど重くはないよ」



 連れ帰ったカニの甲羅の脳が有りそうな部分に先の尖った石を当ててグリグリとドリルのようにして穴を穿つ。

 石で叩いて割っちゃうとそのまま死んじゃう可能性もあるので、殺さないように気を付けた。


「お! 開いた! じゃあ、カニさんが麻痺で痺れてる間に喰い殺してあげて。痛みも麻痺してるから、その間にできるだけ早く殺ってあげてね。全部食べなくていいから、とにかく脳を目指して噛み進めてね。麻痺が解けたら凄く痛いだろうから、それは可哀想だしね……」


「分かりました。食べられるだけ食べながら噛み進みます――」




 こうして戎吉さんのフードファイトが始まった。


 頑張れ、ちーちゃん! 食べる戦だ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る