第21話 夜行性

 どうやら彼女の種族も夜行性のようだ。

 もし夜行性じゃなかったら面倒な事態だったが、良かった。


「君も夜行性のようで良かったよ」

「そうですね。もし違ってたらどうなっていたのでしょう?」


「片方が寝ているのに、もう片方は目が冴えて寝れないんじゃ、活動に支障が出ていたよね。攻撃手段のある俺に合わせなきゃだから、君が常に睡眠不足で夜フラフラ状態で付いてこないと行けなかったかもだね」


「そうですね。そう聞いたら、本当に良かったです」


「あ、聞いてなかったけど、この暗さでも大丈夫? 夜行性ならちゃんと見えているかな?」

「あ、そういえばはっきり見えています」


「じゃあ、君も。【夜目】とか【暗視】みたいなスキルがあるのかもね」

「スキルでそういうのもあるのですね。私にどんなスキルがあるのか楽しみです。実は運命ルーレットを回した時『良いのキター!』ってアリア様が叫んでいたので、ちょっと期待しているのです」


「ああ、君も回したんだ……俺の時は『はぁ~』とか、『うわぁ~』とかため息をつかれた挙句、『運のないのを忘れてたわ、早く気付いてあげてれば良かったのにごめんなさい』って言われたよ」


「それほど酷かったのですか?」

「可哀想だからって、幾つかスキルをサービスしてくれたみたいで、結構良い構成だと思う。たぶん悪かったのはスキルの方じゃなくて、もっと根本的に転生先の世界とか、生まれ変わる種族とかのことだと思うんだ……海の中だし、軟体生物のタコだし」


「笑えないですね。八重樫さんはどんなスキルがあるのですか? 参考までに教えておいてください」


 ヒーラーにスキル構成やステータスを教えておく重要性は知っている。

 腕のいいヒーラーは、HPの残量がいくつ切ったら回復魔法をかけるとかいう計算をするのだ。

 一度ダメージを食った程度で毎回ヒールをしていたら、レベルの低い初期の頃はすぐにMP切れを起こしてしまう。そうなったらヒーラーはただの足手まといにしかならない。そうならないために、仲間の情報を頭に入れ、綿密な計算のもとに的確なタイミングで回復魔法を掛けてくれるヒーラーが好まれる。


 下手なヒーラーは地雷とか言われて、よくゲーム内外で晒される。


 スキル構成を教える重要性は知っているのだが、知り合ったばかりの彼女に俺の構成を教えるのはどうかと迷ってしまう。


「八雲さん? またチュートリアルを覗いているのですか?」

「あ、うん、ごめん。母さんに構成を教えるのは危険だって言われてるのだけど、ヒーラーにステータスとスキル構成を教えておく重要性も知っていて、ちょっと迷っていたんだよ」


「それって……私を信じられないってことですよね? でもそれはお互い様か……」


 お互い様……ということは、彼女も俺のことは信用していないってことだよね。まぁ当然か、知り合って数時間で何を信じろっていう話だ。


 でも、俺のほうはスキルでステータスぐらいなら覗けるんだよね。


 今は彼女がレベル0だから世界のシステムと仮接続中で、まだ正式なこの世界の住人扱いじゃないので見れないようだけど。


 この世界の住人になるにはレベルを1つ上げること……只それだけなんだけど、それがやたらと難しい。


「戎吉さんのレベルを上げる方法は、今現在食べることしかないそうなんだよ。何かほんの少しだけでも攻撃手段があればいいんだけど、何かない?」


「噛みつく……ぐらいでしょうか?」

「その小ささじゃね……食べる量がもう少し多ければいいんだけど」




 色々相談したが、決め手になるようなものはなかった。


「夜の時間はまだたっぷりあるし、少し狩りに行こうか? 【亜空間倉庫】に多少食料の保管もしておきたいしね。時化とかで巣穴から出れない日とかもきっとあるだろうし、海が凪いでいるときに、こういうことはやっておかないとね」


「そうですね、堅実な判断だと思います。私、キリギリスさんは嫌いです。かといって真面目過ぎるアリさんタイプも好きじゃないですけどね」


「ええっ? じゃあ、何ならいいんだよ?」

「そうですね? 虫で例えるなら蜘蛛とか? 螳螂? 単独でも強いですよね? 群れないとこがイイかも」


「うわ~、俺、どっちも大っ嫌いだ! 交尾した後、どっちもオスを喰っちゃう奴ジャン! 特に蜘蛛は生理的に受け付けない! G以上にキモイ……ネット状に罠を仕掛ける周到さや、交尾後用無しになったオスを喰っちゃうこととか、それどころか子供の最初の食事が母親とかだよ? 生きたまま自分を我が子に喰わせるとか……鳥肌モノにキモッ!」


「そうなの? それ聞いたら、私もやっぱ嫌かな。業の深い生き物なんだね」




 出かけようとしたら、普通に頭に乗っかってきた……。やっぱそこが定位置になりそうだ。


「武器や装飾品もないからそこが定位置になるのかな?」

「ごめんなさい。やはり頭の上とかに乗られるのって嫌な感じですか? 足蹴にされているようで、気分的に嫌だとかありますか?」


「そういうのはないけどね。移動効率を考えたら、もうずっとそこが移動の時の定位置なのかなって思ってね」

「今の私では10m移動するのにもかなりの時間を要してしまいますからね。ご迷惑おかけします」

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