第16話 弱肉強食

 ナビーの忠告を軽視したばっかりに、ヤバい敵に遭遇してしまっている。 


「悪いが弱肉強食だ! お前の『魂石』喰わせてもらうぜ!」


 まぁ、奴の言う通りだ。喰われるのは弱い方、これが自然の摂理だよね。

 体長3cmしかない俺からすれば、全長30cmもあるウツボはとんでもない化け物に見える。恐竜だ。Tレックス級の怪物にしか見えない。


 さっきから麻痺毒を流しているが、貝のように麻痺がなかなか効かない。


 奴は体をうねらせ、凄い勢いで泳いできてパクッと俺に喰らいついた!


「うぐっ! イッテ~!」

『♪ マスター!』


 必死で力を入れ奴から逃れようとするが、絶対的な力の差が有りすぎる。

 ウツボ野郎は俺をカプッとやった後、首を強く振って体の1/3近くを喰いちぎった!


「クソッ! このままむざむざ死んでたまるか!」

「お前喋るなよ! 元人間だと思うと食い難いだろうが! 黙って喰われろ!」


 むちゃくちゃ言いやがる! こんなヒャッハー野郎でも、相手が元人だと思うと少し抵抗はあるようだ。少しそこに付け込んでみよう……。


「なぁ、俺は元人間だぞ! 生きたまま喰うとか止めておけよ! そんな凶暴な姿を見たら、お前の母さんも悲しむぞ!」


「はぁ!? 食わなきゃこっちがヤバいんだよ! 最初の説明聞いてないのか? 弱いと強い奴にこうやって喰われる世界なんだ! あはは、お前結構旨いじゃないか! 馬鹿はさっさと死んで、残りも全部喰わせろ! 『魂石』寄こせ!」


 再度喰らいついた奴に、左右に力任せに振られている……また食い千切る気だ。

 麻痺毒を奴の口に直接流し込み、負けじと噛み付いて【テトロドトキシン】を流し込む。


「なっ!? なんだこれは! 体が痺れて! まさかお前本当に毒……」

「死んでから悔いても遅いよ! バーカ!」


 虚勢を張ったものの、こりゃダメだ……体が半分無くなっている。腕も4本無い。

 脳が無事だったのでかろうじて生きてはいるが、そう長くはないだろう。


 流石に直で毒を流し込んだら、奴も即死に近かった。【テトロドトキシン】凄い。


 経験値が沢山入って3レベルも上がっているようだが、残念な事に俺の命の方が持ちそうにない。

 奴の『魂石』食ったらもっと上がるのかな? ウツボはかなり経験値が良いらしいが残念だ。


『♪ マスター……』


『ナビー悪いな。少ししかサポートさせてあげられなかった……』

『♪ はい。残念です……マスターはもっと強くなれたのに、ナビーの忠言を聞いてくれないからです……』


『そうだね。ごめんよ』


 俺はウツボを【インベントリ】に収納し、生があるうちに巣穴に帰った。

 せめて、こいつと俺の『魂石』を母さんに渡してあげたい。


「母さん、あまり時間がないのでこれを……こいつの『魂石』を食べて母さんは生きてください!」


 ついさっき命と引き換えに倒したウツボ野郎を取り出す。

 巣穴が一杯になってしまったが許してほしい。


「ヤクモちゃん! どうしてこんな無茶を! ああ、わたしのヤクモちゃんが!」

「母さん、落ち着いてください。俺が死んだら俺の『魂石』も食べてくださいね」


 母さんは俺の無残にも半分程食いちぎられた体を抱き寄せてワンワン泣いている。


 たった6日ほどだったが、母さんと過ごした日々は楽しかった。

 この周辺の地形も粗方覚えて、どこにナニがいるか把握してきてたのにな――




 俺は【インベントリ】内の食料を全て取り出し、そこで意識がなくなった。


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