第17話 強制転移

 気付くと目の前に腕組みして、私、怒ってます的なオーラを出している可愛い人が睨んでいた。


 女神アリア様だ。


「あ! アリア様、只今戻りました! 結構楽しかったです! 俺が死んだ後、母さんはどうなりました?」

「…………………………彼女はウツボ野郎の『魂石』を泣きながら吸収して体力を回復し、完全復帰をしました。明日にはあの巣穴からも旅立つでしょう。レベルも1つ上がって、新たなスキルも『魂石』から得たようです」


 アリア様は少しの沈黙の後、母さんのことを教えてくれた。ウツボ野郎って……なんか依怙贔屓っぽく聞こえたけど、主神がそんな言い方して良いのかな?


「そうですか、良かった! あれ? 俺の『魂石』は食べずに、形見的に所持してくれているのでしょうか?」

「あなたは完全に死亡する前に、私がここに強制転移させて回復しました。彼女には忽然と消えたように見えたでしょうね」


「ええっ!? なんでそんなことするんですか!? 俺、もう良いですよ。異世界も満喫してきました。可愛い母さんにも出会えましたし、何より母さんの命を救えましたのでもう大満足です! それにあんなに痛いのはもう嫌です! それよりタコってどういうことですか! 幾らなんでも酷いでしょ! 却下です! 二度と行きませんからね!」


「困りましたね……私はあなたをここに強制転移するのに、少なからずの対価を支払ったのですよ? 私の好意を無駄にしないでください。それにあなたが復帰してくれないと、生ある者が不意に居なくなったことで、あの世界に歪が生まれてしまいます。早急に帰っていただかないと困るのです。チラッ」


「チラッじゃないですよ! 絶対タコは嫌です!」

「それじゃ~イカにしますか? あなたもイカが良いって言ってたことですし……」


「そういう問題じゃないです! 何でタコなんですか! せめて人の世界に、地上世界にしてください!」

「ですが、それはあなたが【運命のルーレット】を回して選んだ世界なのです。きっとその世界に運命的な何かがあるのです。私のルーレットは良くも悪くもそういうものなのです」


「良くも悪くもって、悪い事も有るんじゃないですか!」

「そう我がまま言わないでください……困っちゃいます。シクシク」


「また、可愛く『シクシク』とか口で言って! もうあんな痛いのは嫌です! 却下です!」

「うふふ、可愛かったですか? う~ん、分かりました! あなたにヒーラーを1人付けましょう!」


「なんの脈絡もないじゃないですか……可愛いとヒーラーの話がどう繋がるんですか!?」

「もう! うるさいですね! 本当はあなたのせいで、ちょっと機嫌悪いんですからね!」


 うわっ! 女神様なのに逆切れした!


「そんな理不尽な……」

「次は死にかけないでくださいね。ちょっと待ったは1回だけって言われてしまったのですから、もう後はないですよ。じゃあいってらっしゃい! すぐにヒーラーを送ります」


「ああ! 待って! 嫌だって言ってるじゃないですか! あああ~~~」


 はい……真っ白になったと思ったら、目の前は真っ暗でした。



『♪ お帰りなさいマスター! ナビーは嬉しいです♪』

『あ! そうだった……お前が居たんだったね。勝手に自我を持たせておいて、すぐにさようならじゃ可哀想だったね。ごめんよ?』


『♪ いえ、ナビーはマスターと運命共同体なので、マスターが死んだなら、その時点でこの世に未練はありません。ですが今度こそ頑張って地上人に至りましょう』


『うん。頑張るよ』


 自分の体を見るとやっぱりタコだった。

 どうせ強制的に戻すんだったら、イカにして欲しかった!

 最強種のクラーケンにしてくれれば良かったのに!


 目が暗闇に慣れる……ここは母さんの巣穴だね。あれ? 母さんは?


『♪ 神域とここでは時差がありまして、マスターの母上様は、昨晩旅立ちました。このエリアは赤ちゃんフィールドとか出産フィールドと言われていて。生まれたてのレベルの低い者しか居ないので、レベル上げには適しません。3つほど難易度の高いエリアが彼女の適正フィールドでしたので、そこに向かわれたようです。ご連絡しますか?』


『え? 連絡とかできるの?』

『♪ はい。ステータス画面にコール機能があります。彼女がフレンド登録していましたから、マスターの名前が記録されているはずです』


『有った! ここをクリックで相手に繋がるんだね?』

『♪ そうです。神界へ転移され、フレンドリストのマスターの名前が暗転したため、死んだと思ってずっと泣き続けていたのできっと喜ぶでしょう』


 ナビーに言われて、すぐにコールしてみた。


『え!? ヤクモちゃんの名前からコール? ヤクモちゃんなの?』


『う~ら~めしや~~~』

『ひいいいっ~~! ごめんなさいごめんなさい! 母さんが死ぬべきだったのにごめんなさい~!』


 あ、予想以上に心的ダメージを負ってたんだ。軽い冗談のつもりだったのに、悪いことをしてしまった。


『母さんごめん! 冗談だよ! 死んでないから!』

『え!? 本当にヤクモちゃん!?』


『うん! ただいま母さん! 女神アリア様が強引に転移させて回復してくれたんだ』

『嘘? 本当なの? 良かった~~! 母さんヤクモちゃんが私のせいで死んじゃったと思ったから凄く後悔したのよ……』


『母さんのせいじゃないでしょ。俺がチュートリアルの言うことを聞かなかったからああなったんだよ』

『そうだったの?』


『うん、敵が来る100m以上も前に忠告してくれたのに、大丈夫だろって油断して、大きな音を立てちゃって気付かれてしまったんだ……』


『やっぱりあの岩の崩れる音、ヤクモちゃんだったんだね。水中の衝突音は凄く響いて伝わるので気を付けないといけないのよ』


『うん、分かった。同じミスはしないようにしなきゃね』


 そういえば、鯨やイルカなどの鳴き声は水中でかなり遠くまで届くと、ドキュメント番組でやってたな。


『でも本当にヤクモちゃんが生きていてくれて良かった!』



 無理やり回復されて、嫌だと言ってるのを強制的に戻されたとか……これほど喜んでくれている母さんにはとてもじゃないけど言えないな。

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