第9話 可愛い母さん

 巣穴に帰ったら、母さんが起きていて声を掛けてきた。


「ああ! ヤクモちゃん! どこに行ってたの! 目が覚めたらあなたが居なかったから凄く心配したのよ! 巣立ちは早くした方がいいけど、出て行くときは声をかけてね! 黙って出て行ったのかと思って、凄く悲しかったわ!」


 どうもかなり心配をさせてしまったようだ……申し訳ない。


「ごめん母さん、寝てたから起こさないようにと思って……母さんのご飯を獲ってきたよ。これ小さいけど食べて」


「えっ!? あなた、貝を獲ってきたの! その成りで?」

「うん、俺はもう満腹なので、後は母さんが食べて。そこにトサカノリもあるので、それも食べちゃってくださいね。半年ぶりの食事になるでしょうから、時間を掛けてゆっくり噛んで食べてね」


「あなた……私の為に?」

「当然じゃないですか。食事さえ何とかなれば延命できるのでしょ?」


「ありがとう! ヤクモちゃん! なんて良い子なのかしら!」

「『ちゃん』は止めてくださいよ……俺、転生前は16歳だったんですよ」


「えっ!? 私とあまり違わないのね……」

「それより、さっさと飢えで死んじゃわないように食べちゃってください。全然足らないでしょうけど、最初は少しのほうが体には良いでしょう。魚類や甲殻類は逆に俺が食べられちゃいそうなので、暫くは貝がメインですが、我慢してくださいね」


「我慢なんてとんでもない! 私、この貝大好きよ! 遠慮なく頂きます! ん~、美味しい♪」


 可愛い母さんだ。

 父さんが死を覚悟してでもこの人に自分の遺伝子を託したかったんだなと思うと、人の姿に成った時の母さんの姿も見たいなと思ってしまう。


 まずは死なせないようにしないとね。


「母さん。俺、レベル0だけど、種族固有スキルが使えるようです。なので貝ぐらいなら狩りもできますので、これから朝食用の貝を獲ってきますね」


「あ! 待って! スキル使用には、マジックポイントが必要なの。レベル0のあなただと、数回使ったら魔力切れになるはずよ! 魔力が尽きるとその場で昏倒するから、高確率で他の捕食者に気絶中に食べられちゃうわよ。あなたさっきのお出かけで何回スキルを使ったの?」


「え~と……【麻痺毒】が2回、【テトロドトキシン】が3回です」

「ええっ!? なんで? 5回もスキルを使ったのに平気なの? 私が4回使えるようになったのは、種族レベルが3になってからよ……」


「う~ん、その辺はよく分かりませんが、今日はこれ以上使わない方が良さそうですね」


「ええ、そうね。マジックポイント残量が幾ら有るか分からないのに、スキルを使うのは凄く危険よ」

「分かりました。今日は大人しくしています。ちなみにマジックポイントの回復は寝るとかですか?」


「普通にしていても回復するけど、睡眠中が一番回復量が多いわね。あと、目を瞑って安静にしてても通常時より多く回復するわよ」


「そうですか。それと、なんだか1本だけ動きの鈍い手があるのですよ。そのくせして、妙に先のほうだけ敏感で……なにかの障害なのでしょうか?」


「ああ……それね……それがあなたのオチンチンなの。成体になったらその先に精嚢が出来て、それをメスの体内に差し入れることによって子供ができるのよ。大きくなったら本能的に理解できるから、今はこれ以上の説明は必要ないと思うわ。母さんもこういう話はちょっと恥ずかしいし……」


「これがそうなのですか……」

「もう! なに大事そうに丸め込んで隠しているのよ!」


 だって大事なモノですもん! 


 15cmほどしかない母さんは、3cmほどの貝2個と海草でお腹一杯になってくれたようだ。

 おそらく半年何も食べず俺たちを守ってきた間に胃袋も小さくなっているのだろう。


 母さんが動けるようになるまで、俺が頑張る!


 母さんの忠告もあって、今日は大人しくMPの回復を優先させるために眠ることにした。

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