第8話 狩りが厳しい
疲れて眠りについた母さんを起こさないように、そっと巣穴から出る。
外も夜なので暗いが、夜行性なので難なく見えるようだ。
まず驚いたのは透明度だ。まるで淡水の湧き水周辺のような透明度なのだ。
昼間ならかなり先まで見通せそうだ。
あまり綺麗な水は養分が少なく、プランクトンや海藻類も少ないという記憶がある。
食料になる物あるのかな……と思ったのだが、回りには海藻類が沢山茂っている。
そこに見慣れた海草を発見する。良く刺身のツマとかで付いてくる、紫色っぽい海草だ。
鶏の鶏冠に似ていることから『トサカノリ』と言われている。特にこれそのものに味はあまりないのだが、酢の物にすると凄く美味しい。
巣穴付近の水深は目測で約4、5mってところか……この深さなら貝や甲殻類のカニやエビも居そうだ。
だが、何せ今の体は生まれたて……本来幼生体のうちは水面付近を漂って小さなプランクトンなどを捕食して成長するのだ。その期間は約2ヶ月ほどもある。その後、大きくなってから着底して闇の狩人になるのだ。
今の俺は1cmほどしかない……困ったな、下手に他生物に見つかると食べられてしまう。
とりあえず、さっき見つけたトサカノリを巣の中に運ぶ。あまり遠出もできそうにないな。今は潮止まりなのか海流がないようだが、月とかがあって潮流があるのなら、干潮・満潮があるはずだ。気を付けないと、この小さな体だと海流に流されたらもうここには戻れないだろう。
海草を運んでいて思ったのだが、意外と力強い。自分の体重の何倍もありそうなのに、楽に運べるのだ。
タコの体は骨が無い軟体生物だが、全身が筋肉のようなものらしい。結構な力持ちだ。
海草だけだと殆ど栄養ないんだよな……よし、魚は逆に食われそうだから、貝か小エビを探そう。
この深さならトコブシがいるだろうと思って探すと、すぐ回りの岩場で沢山見つかった。だがでかい!
この体ではちょっと運べそうにない。
流されないように必死に海底を這うように進んでいると、小さいトコブシが3つ並んで岩の上を這っている。
そういえばトコブシも夜行性だったな。
昼間は岩の裏にへばりついて動かない。そして夜になったらこうやって岩場の下から這い上がってきて海草を食べるのだ。
よしこいつを狩ろう。
問題は一気に岩から剥がさないと、手を捻じ込んだ状態の時に岩にぴったり張り付かれたら、俺の体のほうがヤバいことになる。
気配を消してトコブシの後ろから回り込み、触手を捻じ込んで一気に引っぺがした。
上手く岩から引き剥がすことができた。3cmぐらいの小さな子供の貝だが、今の俺ではこのサイズが限界なのだ……悪く思うな。
すぐに巣穴に持って帰ろうと思ったのだが、とても美味そうなのでちょっとかじってみる……旨い!
トコブシ最高! 人のときでもトコブシは美味しかったのだが、タコになってもめちゃくちゃ旨かった!
ん? 俺から逃げようとウネウネと動いていたので『早く死ね!』と思いながらかじったら、なんか死んじゃったぞ? もしや幼生体でレベル0でも毒があるのか?
実験だ……残りの2匹のうち1匹に、【麻痺毒】と念じてみる。
俺の口の付近から、濃い濃度の何かが放たれ、トコブシに向かってイメージどおりに何かが流れていった。そしてトコブシは麻痺毒でやられたのか弛緩して動かなくなった。
おお! ちっこいのに俺スゲ~! 自画自賛である。
よし、噛んで止めだ! 【テトロドトキシン】カプッ!
やはりさっきと同じく数秒で死ぬな……あまりにも毒の効果が凄い。異世界仕様なのかも知れないな。ここであまりかじって回りに匂いが漂うと、他の捕食者がやってくるかもしれない。3cmほどのトコブシを2個引きずって巣穴に帰ってきた。
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