第4話
《
電車に再び乗ると、
「大丈夫? 優樹」
雄樹が学校の最寄り駅にそろそろ到着する。
ホームに電車が滑り込んで、彼はそのまま電車を降りた。
「うん……」
ごめん……と、心のなかで彼の背中に向けて言った。
ちょっと後悔してることがある。
ほんとは女子校なんか行きたくなかったし……共学でも私服で行ける学校が良かった。
でも、母さんの母校でこの辺でも一、二を争う進学校だったし、スラックスで登校ができるから入学を決めたけど。
いまさら、言えないけどね。母さんには。
雄樹に話しかけないでほしいって、言っちゃったのをいま後悔してしまう。
なんでこんなことを言っちゃったんだろう……自己嫌悪になりそうで気持ちが沈んでいく。
電車はだんだん最寄りにある駅に向かっていく。
苦しいくらいに胸がしめつけられる。
それは悩んでいたときとは違って、雄樹に対する気持ちなのかもしれない。
高校の最寄り駅に着いて、急いで電車を降りた。
泣きそうな表情だったから、周りの人が心配そうにこっちを見てくる。
「あ、優樹! おはよう」
「おはよう、
紗央莉は一年生のときからのクラスメイトで、文化祭のでは同じファッションショーのモデルをやっている。
ちなみに文化祭で行われる彼女も男装の担当で、親戚のお兄ちゃんから借りてきた高校時代の制服を着るという。
「優樹。どうしたの? 泣いてるけど……大丈夫?」
紗央莉は少しだけ、びっくりしていた。
「え……紗央莉……あのさ。相談に乗ってくれ」
彼女にはとても不審に思われたけど、このことを唯一話せる相手だ。
昼休み、雄樹にLINEでメッセージを送った。見てくれるといいけど……。
「優樹。どうしたの、相談って」
「あ、実は……ずっと前からなんだけど。同じ電車に乗ってくる男子の話しただろ? 文化祭にも来てくれるって言った」
紗央莉には唯一話しているから、納得してくうなずいてくれた。
「ああ、大城高の人でしょ? 同じ名前の」
「そうなんだけど、ここ最近、アイツと話してると……ずっとドキドキするんだ」
「え!? 優樹!」
彼女がめちゃくちゃびっくりしている。
思わず、こっちもフリーズしてしまった。
紗央莉は少し真剣な表情で、こっちを見つめてきた。
彼女がこんな表情をするのは、滅多にないので怒られるのかと思っていたとき。
「え……優樹、それって。友だちとして?」
とても意外な言葉が返ってきて、さらにびっくりした。
「何? え?」
友だちとして……?
雄樹のことはずっと信頼できる友だちだって、思ってるけど……そんな表情で紗央莉を見つめた。
彼女はなんか違うって感じで首を横に振る。
「どういうこと!? 紗央莉、よくわからないんだけど?」
紗央莉はため息をつく。
「まだわからないの?」
そんなことを聞かれても……と思っていたとき、紗央莉はしびれを切らして話した。
「それってさ……優樹がその人のこと、好きなんじゃないの?」
雄樹のことが好き……。
その言葉で、心に引っかかっていたものがストンとなくなったように感じた。
それと引き換えになんか心臓がドキドキしてきた。
「……そうかも、しれない。納得した~」
紗央莉はそういったときに限って、めちゃくちゃ勘が鋭くなるんだ。
雄樹からの返信があって、少しホッとできた。
『言っとくね、ちょうど昼休みだし』
そのメッセージだけでも、心臓がドキドキする。
「でも……優樹に片想いの人がいたなんてねぇ。意外だったな」
紗央莉は残っていた弁当を食べ始める。
「なんだよ~、その言い方はないだろ?」
彼女とはこんな話でも話せるんだとわかったので、ちょっとホッとできた。
ほんとは女子校なんか行きたくなかったけど……この学校に入学できて、ほんとよかったと思う。
文化祭までの一週間は朝が早かったり、夜遅くに帰っていた。
雄樹とは話すどころか、同じ電車にならなかった。
たぶん自分のなかでも避けていたのかもしれない。
文化祭の一日目は学校内がメイン、二日目は一般公開の日。
彼は二日目に来ることになっている。
一日目のファッションショーは人数は少なかったけど……とにかく楽しかった。
思う存分、普段の自分じゃできないことをやることができたし。
文化祭の二日目が終わったら、雄樹にこの気持ちを打ち明けよう。
あと、自分自身のことも、ちゃんと伝えたい。
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