第1話

「え? 文化祭?」

 優樹ゆうきと珍しく下校時にも、ちょうどよく同じ電車に乗っていた。

 ガタンガタンと心地良い感じで揺れる車内はあまり混んでいない。

「そう。うちの学校……二週間後なんだ」

「え、結構近いね」

 優樹の通う学校は伝統のある学院だけど、珍しくチケット制では無いらしい。

「聖凜学院って、結構面白そうだね」

「文化祭に来てね」

 優樹は手を振って最寄り駅を降りた。

 翌日も、いつものように話して、ずっと面白かった番組について話した。

 そろそろぼくの学校の最寄り駅に着こうとしていたとき、優樹は驚きの事実を教えてくれた。

「実はね。クラスの発表でね、ファッションショーをするんだ」

 聖凜学院ではかなり凝った文化祭の出し物で有名だ。

 でも、ファッションショーをやる学校は聞いたことがないと思う。

「すごいな。それ……何をやるの?」

「男装のモデルだよ? びっくりした?」

 驚きのあまり、言葉を失っていた。

 その通りで完全に図星だった。

 彼女がモデルをすることにびっくりしたんだ。

「モデル? 優樹、すごいな。でも……似合うと思うよ?」

 優樹とは制服でしか会ったことはないけど、制服の上からでも手足の長さは際立っている。

雄樹ゆうき、絶対に文化祭に来いよ。連絡したいから、LINEの交換してくれる? まだしてなかったし」

「うん。いいよ」

 お互いのアカウントを確認した。

「優樹、じゃあ、またな」

「おう!」

 気さくで男口調なイメージだけど、笑ったときの笑顔は普通の女の子だ。

 そんな笑顔がとても好きだった。



 学校に向かうとき、LINEの通知が来ていた。

 めちゃくちゃ動いているくまのスタンプを大量に送ってきた。

「優樹……アイツ~」

 ぼくも同じスタンプを倍返しで送りつけた。

「これで懲りただろ」

 すると優樹からは懲りていないのか『www』と送られてきた。

「アイツめ……わざと、やってきただろ」

『優樹、スタンプ。わざとだろ?』

『んなことないよ?』

 ほんとかよ?

『まぁ、いいか。またな』

 送ってはいるけど……既読が付いてないから、おそらくスマホを見てないと思う。

「雄樹~!!」

「お~! おはよう」

 話しかけてくれたのは、中学からの同級生だ。

 高校入学と同時に引っ越して、一緒に帰ることはなくなってしまった。

「いつもギリギリで来る奴なのに、今日は珍しいな」

「うん。遅刻はそろそろヤバイだろ」

「確かにな!」

 通う学校のほとんどは、ぼくとは反対方向からの電車で来る生徒がほとんどだ。

「ん? そのLINE、誰だよ? 彼女か!」

 なんで彼女に直結するのか、よくわからかったけど……否定しておかないと、大変なことになりそうだ。

「違うよ。同じ電車で来る女の子。同い年のね」

 飯沼はめちゃくちゃ興味があるらしくて、ぼくと同じ駅のため明日の朝に紹介することになったんだ。


 今日の授業は数学で、もう完全に寝てる人が増えていく。

 共学だけど、もうクラスの半分以上が寝ている。

 この授業風景の有り様を見ると、毎回テストの平均点は学年トップという事実を受け入れられない。

 優樹のクラスはどうなのかが気になっていた。

 あとで、LINEに送ってみるか。

 数学の飯塚先生は声が良いから、逆に寝てしまいそうになる。

 特に午後の五時間目からの授業は、耐久レースになるんだよね。

 あと、彼女に片想いのことを言おう……。

 考えているとき、いつの間にか寝落ちしてしまっていた。

 目が覚めたのは五時間目が終わって、六時間目の始まりのチャイムが鳴る直前だった。

 慌てて次の授業である世界史をロッカーへ取りに行った。

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