第13話ラプンツェルとブーちゃん繋がり。

予定していた食品類を購入してトトのアイテムバッグへと流れ作業的に収納し。

ユユが行きたがった布売りの店まで戻り、時間がかりつつもなんとか臼桃色と深緑色の布を買って、私もどさくさ紛れに柔らかな毛糸とボタンを手に入れ、その場を離れた。

やっとのことで亡き旦那の墓にたどり着いたのは太陽も真上に上がった昼頃で。そこは街外れ、昔は森の一部だった場所だった。立派な木々の少し奥。足長の草を隠れ蓑に、ぽっかり空いたその空間で、彼の毛色と同じ、深い黒の墓石が、濡れたように艶々と光っていた。


「せんせっ!先生、こっちでーす!」


――ザクザク

静かな森に響くユユの声。私はゆっくり歩いて、その場所へ近づく。心臓の音がうるさい。ドクドクドク、ドクドクドク、ドクッ。


「…あぁ」


本当に、眠っているの…?

意地悪で優しくて、旦那より親友より姉のようだった彼女。もう、何年も会っていない。だって彼女は子育てで、私は仕事に大忙し。


「ブーちゃん」


お互い落ち着いたら、また、って約束したのにね。


「…先生、その呼び名はやめた方が…」


遠慮がちに、トトは私を注意する。もう!せっかく感傷に浸ってたのに…むぅ。


「あーそれ!旦那さん嫌がってたじゃないですか!怒られちゃいますよ!」

「でも、フィートリア・ブラックバロンのブーちゃんだもの。間違ってないでしょう?」


間違ってないのだし、良いじゃない。妙に格好いい名前で、ほとんどの知り合いがフィートさんやらブラックさんと呼ぶけれど、ただの知り合いじゃない私は違う。

ブーちゃん呼びは初期の頃からのアダ名だからね。

大体にして、あの身体でその名前って…無しでしょ!


「いや、それはそうですが…」

「ププッ。先生はほんと変わらないですね!」

「…でも、もう居ないのね。ブーちゃんって呼んだら、コラコラって、いけませんねって、優しく怒りに帰ってきてくれないかしら」


不思議なことに、お墓から丸く、半径二メートルくらいが青々とした短い草花が生えて、徐々に足長草に。森を出れば、そこから先は石ころが混ざった砂地。少し離れた場所まで視線を飛ばせば、街へ続く整地。


「…フィートリア・ブラックバロン、あなたったらいつの間に眠ってしまったの?こんな立派なお墓があるなんて私は知らなかったわ。ねぇ、ブーちゃん…ちゃんと、あちらにいる?まさか、此方へ迷いこんだりしていないでしょうね?」


家族がいるんだから、此方へ来てはダメよ?


「先生……?」


しんみりする私を見て、不思議そうにユユが呼ぶから、やっとその場から離れるために固まった身体を動かして二人へ向き直る。


「あら、ごめんなさい。もう行きましょうか、帰りにギルドへも寄りたいもの」

「えー。もう良いんですかぁ?」

「えぇ、もういいわ」


つい話しかけちゃったけど、実はこの墓のなかには、何もない。

だって、ブーちゃんは生きて主婦やってるはずだから。間違っても、此方へは来ていない。私はそう信じてる。

だから、だから…ここは悲しむ場所じゃない。いつか帰れるなら、帰ったとき、きっと笑い話になるように、しなきゃ。



――バタン

木製のドアを開けて、ギルドへ足を踏み入れた。


「二人ともそばを離れないでね」


考えてみたら、ゲーム時代はこの街無かったし、行ったことがあったギルドも現実(リアル)ではないから事実上初ギルドになるわけで。正直怖い。

物言わず、ユユは私のマントを掴み背後へ。トトは止める前に受付へ進んでしまった。


「オイオイ!ガキの来るとこじゃねーぞコラ」

「悪いこと言わねーからよ、母ちゃんのとこへ帰んな!」


ガハガハガハ。蔑み笑いが室内に響き渡る。そんな酒に酔って自信過剰な親父どもに一言。

いやいや、私たち全員あんたらより年上よ?

なんて内心呆れながら、野次と好奇の視線のなか、ユユを引きずりながら歩きトトの隣へ並ぶ。


「…えっと、君たち冒険者志望なのかな?」


受付のお嬢さんは座っていた。

あれ?カウンターを挟み向き合いながら、なぜ相手が座っているにも関わらず私は見上げているのか考えて、そう言えば背が縮んだんだったとか思い出す自分に少し呆れ。


「……」


うーん。どうしようかな。

ここで私のギルドカード出したらこの人騒ぎそうだし。でも貯金とか確認したいし。


「すみませんが、先生が帰宅したとギルドマスターへ伝えてください」


受付嬢を見上げ、悩んでいたらトトがスラスラと問題を解決してくれた。

そう言えば、トトやユユはこのギルドへ来たことあるのかな?


「はい?…えっと、ごめんなさいね。ギルドマスターはそんなに簡単に会える方じゃないのよ?だから、」


困ったように眉ねを寄せる受付嬢に、トトは苛立ったように早口で問いかけた。


「貴女では話しになりません。マールはまだココで働いていますか」

「え。マールって、マール・バロンさんのこと?」

「そのマールです。呼んでください」

「あ、あのね、マール・バロンさんも忙しい方で…」


ん?マールって、聞いたことあるかも。


「――せんせい」


くいくい。


「なあに?」

「アレ」


背後から片手を伸ばし、ユユが指差す方向へ視線を上げて見れば、そこにいたのはムキムキ筋肉の壁。ぬ、ぬりかべ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る