第9話 ラプンツェル街へ行く
―――さて、街に入るために入り口である外壁の門前へ来たのは良いけれど、トトの様子がおかしい。
ユユは三人で買い物に出られることがとても嬉しいらしく、笑顔で私と腕を組み並んで歩き始めたのに、トトは一言も話さず、一人先頭を進んで行く。
「トトは、どうしたのかしら」
私が思わずそう口にすると、隣のユユが可笑しそうに唇を弓引きながら答えをくれた。
「トトも、先生と買い物に来られてとっても嬉しいんですよ!でも、私たちって見目が良いし、子供に見えるから狙われやすいんです!アレでも守っているつもりなんですよ!」
なるほど。
確かに私たちってパッと見は小学生と中学生の兄弟姉妹みたいに見える。それでいて容姿はエルフのように美しいのだから悪い輩(やから)じゃなくても人目を引くのだろう。
気がついたのが、まだ門を通る前で良かった。
「トト、フードをかぶりましょう」
店に入るのにフードをかぶったままではいけないのかもしれないが、ここはどうみられるか、よりも安全を取りたい。
その意味でトトに一言告げ、自分とユユのフードを深くかぶる。
「しかし、僕らは背が低いので市場などで混み合うと街の子供たちと区別がつかなくなります」
「その時は私が探すわ。けれど、そうならないよう手を繋ぎましょ?」
「いや、しかし……そうすると」
「大丈夫よ。御守りを持っているから」
確かに、人目を引き華やかな妖精と呼ばれる種族はか弱く儚い生き物として一般に深く知られている。
そのせいもあり、ゲーム内ではプレイヤーとして妖精を選ぶ人も極稀、成長が遅く死にやすいためNPCさえ少なく、これがゲームの枠を外れ現実となった今もあの設定が生きているなら、その事を踏まえれば私達は稀少な亜人なのだと思う。
塔内で二人は言葉を濁したが、どこの世界にも裏がある。
表で諍いがあり、誰が見ても人間と亜人の仲が良いと言えないのなら裏で何があってもおかしくはない。
まさに、真っ黒なマフィアの世界。
そんなモノが広がっていても不思議ではないのだから、気を付けるにこしたことはないのだろう。
トトはそのために神経をすり減らし、護衛をしているつもりなのだ。
まったく、今のこちら世界の現実を考えるととてもではないが、武器無しで町を歩くことはできないし、狙われて対抗手段を持たない下級妖精は危険なので外に連れ出したりは絶対に出来そうもない。
なので、トトとユユの養い子であるチッチとピッピはお留守番として店に置いてきた
「そうそう!先生に貰った御守り第二十七代目があれば大丈夫よ!!」
「僕のは三十八代目ですが」
「あら、そんなに代替わりしているの?」
「先生のいない間にも色々ありましたからね!」
「そのたびに、店の在庫を使って代替わりさせていますが」
「それはいいのよ。二人の無事が一番大事だから」
私は御守りと呼んでいるが、実は私を含めトトやユユにも同じ守護アイテムを持たせている。
これは持ち主のみ限定で悪意ある者を寄せ付けないお助けアイテムで、私はバッグに入れっぱなしだけれどトトはお財布に、ユユは首から下げておしゃれにコーディネートしているようす。
見た目はかなりダサい。小さな藁人形を模した布人形だけれど、これはとても使えるアイテムで物理攻撃なら二回、魔法攻撃なら一回だけ障壁を張り私を守る優れもの。回数分使ったら燃えて消えるので、その間に反撃なり回避なりすれば完璧。
その名を【身代りの君(きみ)】
これを持ち、尚且つ手を繋げばなんの問題もない。
もしはぐれても魔力を辿るので、必ず探し出せる。
「ともかく、せっかく一緒に買い物に来られたのだから、楽しみましょ」
渋るトトのフードも何とかかぶせ、空いている方の手でその成長した手を握りしめた。
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「随分、並んでいるのね」
まさに長蛇の列と呼ぶにふさわしい長い人の川が目の前に現れた。
「街の外が危険になり、小さな村などはモンスターに食い尽くされたと聞きます。人間たちはより安全な住みかを得ようとこうして丈夫な外壁のある街へ移動してきているのでしょう」
元がプレイヤーにモンスターを狩らせる設定なのだから、それもまた仕方ないのか。
自分も此方に来てしまい、プレイヤーでなくなった以上、私は立場上もうどうにもできはしないのだから各国や冒険者の健闘を祈るしかないだろう。
今のところ、存在すら忘れていたゲーム世界に思い入れなどと言うものもなく、私は私として大切なものだけ(ユユやトト)を守れればそれで良いと思っている。
NPCの妖精だった二人よりかは強いかも知れないけれど、この体の持ち主も所詮はハイフェアリーで、プレイヤー仲間の誰より弱かったのだから無理はしない。
「どれくらいかかるかしら」
「問題なく進めば三時間程で中に入れるでしょうか」
「先生、疲れません?」
「大丈夫よ」
私たちのように徒歩の者から馬車に乗り、沢山の人や荷物を運んでいる者まで様々な人がいるけれど、私の目に止まったのは矢筒を背に背負った青年の姿。
「あの人は、狩人かしら」
目で追えば、声が聞こえたらしいトトが何でもないように答えてくれた。
「アレは冒険者でしょう。隊商の護衛任務中かと」
「ん?あー、あれなら私でも勝てますよ先生」
人間でも勝てないかも、と思っていた私は二人が交互に説明してくれた内容にすこし驚き、瞬(まばた)きを二つ。
「ユユでも、勝てるの?」
「先生方と違い、今の人間はモンスターに押し負けていますし、昔と違い加護を得るのも難しい時代ですからなかなかレベルも上がりませんし、人間の基礎は脆いですから」
「お店で作った薬をかければ簡単に骨まで溶かしまーす!それに、確かに亜人の中では弱い方ですけど、人間にはそう簡単に負けませんよ!」
うーん。
プレイヤーの仲間内では模擬戦で勝てたことなど一度もなかったけれど、周りがNPCに変わればさほど弱くないのだろうか?
「まあ、争いをするために来たわけではないのだしその話は家に帰ってからにしましょうか」
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