第5話 ラプンツェル、魔法を使う
知らないうちにドラマのような展開が繰り広げられ、私の存在もバレた。
トトやユユはどうやら上級妖精に成長したらしく話し方も姿もスッキリしている。
で、どうしよう。
隠れるべきか、いや、私のホームで隠れるのはいくら何でもおかしい。
そわそわとベッドから暖炉までの短い距離を行ったり来たり、世話しなく歩き回ってみたものの……
「どうせ見つかるのは時間の問題だしね」
とりあえず、暖炉の前にある一人がけの揺り椅子に座ってみた。
バックを肩から下ろし膝にのせ、マントを脱ぎ背もたれにかける。
「これは、魔法を使うのかな?」
部屋の明かりを点けたいけど、ボタンもないし紐も下がってない。多分魔法だろう。
「えーと、ライト?……ファイヤ」
間違っていても今はまだ一人だからと、小さな声で呪文を呟く。
すると、ライトで部屋のランプが光り、ファイヤで暖炉の薪に火が着いた。
あとは、二人の到着を待つのみ。
逃げたり隠れるよりは、心強い味方になってくれるはず。
■□■□■□
暇なのでバッグを改めて調べてみた。
まず、邪魔なマントを仕舞い、また取り出す。
「ん。大丈夫っぽい」
で、またマントを仕舞い。
今度は杖がほしいなーと考えながらバッグを漁る。
「おおっ」
明らかにこのバッグの大きさでは仕舞えないはずの長大な杖が一本。するすると出てきた。
真っ白で飾り気のないシンプルな杖。
間違いなく愛用していたミスリル製の私の杖だった。
「これで、モンスターがでても大丈夫……かな」
正直杖なしだと小さな魔法しか使えないためこの杖がなければ早急に杖を買わなければ心許なかったので一安心。
「さて、そろそろかな?」
鏡が光った。
■□■□■□■□
カツリ、靴音が響く。
「……暖かい」
「え、ちょ!だ、暖炉!」
鏡を通り抜け、空気が暖められていることに気づいたのか二人はぐりん、と首を回し、一斉にこちらを向いた。
こちらを向いて、トトは目を真ん丸と開き私を凝視し、ユユは口をあんぐりと開いた次の瞬間駆け出し私の膝にすがり付いたと思いきや大きく息を吸い泣き出した。
「あ……」
「……せ、せんせー!!せんせーせんせーせんせーっうっうっうっ、せんせーどーじっ、どーじでですがっ、ずっ、ううー!なんれ!わだしだぢをっおいでっだんれすかぁ!?なんでぇ!?」
なにかしら聞かれるかもなとは考え覚悟していたはずが、どうしたらいいか分からずに、戸惑ってしまう。
トトは動かないし、ユユの泣き叫び声は驚くほど塔内に反響して、ゆっくり懐かしがる暇もなくひどく耳が痛んだ。
とりあえず、ユユを落ち着かせようとバッグのなかに入れたままだった右手を抜き、泣き叫ぶユユの頭へそっと触れ髪をすく。ピクリと跳ねるユユの肩や仕草に嫌がってはいないらしいと判断し続けて数度同じように髪をすいた。
ユユもトトも、花から育てた私と配色なので違いは髪質くらいなもの。
私は天パでもゆるふわで、トトはクルックルのキツイ天パ、ユユは直毛だった。
サラサラと指を流れる艶やかな髪。
ゲームでは感じられなかったその質感を堪能し
「先生」
ていたところを現実に戻された。
視線をあげれば、トトが真横まで来ていて、少し驚いた。
「……トト?」
柔らかな声で、私を呼ぶトト。
ゲームの画面越しでは声など分からなかったのに、直接聞くと不思議としっくりくるものだから内心ほっとして、トトの姿をじっくり眺める。
「はい」
「大きくなったのね」
「はい。先生は、お変わりなくですね。……いつ戻られたのですか?」
「さっきよ」
とりあえず二人の私へのイメージがどうなってるかわからないから、言葉遣いは特に無難に返事を返していこう。
「なぜ、すぐに店へ来てくださらなかったのですか」
トトは少し怒ったように早口で質問してきたけど、顔を見ればなんのことはない……彼もまた泣いていた。
「なぜ泣くの」
「先生が帰ってくださって、嬉しいからです」
「泣かないで」
「もう、何処にも行きませんよね?」
ここはゲームのはずだった。
現実に戻れるだろうか。それとも、此処にずっと、いるのだろうか。急に日本の布団のなかで目覚めたりしないかな。
でも、今の私はラプンツェル。二人の親代わりで、先生のハイフェアリー。
だから、答えはこれで間違っていないはず。
「そうね、何処にもいかないわ。これからは、昔のように一緒にいる」
「先生……先生、僕ら、花を育てたんです」
「花を?」
「先生みたいに一人で二人同時には無理ですけど、僕とユユで一人ずつ育てているんです」
「そうなの?」
「でも全然成長しなくて……先生みたいに上手く出来なくて」
成長しない?あの、店にいた下級妖精たちのことなんだろうけれど、変だな。
「ひっ、く。せ、せんせぇ。私ともお話ししてくださいよぉ」
「なぁに?」
「せんせぇ。せんせぇがいない間、私たち頑張ったんですよ。本当に、頑張ったんです」
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