第6話 ラプンツェル二百年の永きを知る

あれから私はユユやトトがかわるがわる話す間、言葉少なに相づちを続け、気がつけば暖炉の薪も燃え尽きかけていた。


「……」


ボキリ。

とうとう燃え尽き、中心が炭化した薪が折れ小さな音が煉瓦造りの塔に響く。


「……うーん」


聞いた話を頭の中でまとめながら、ため息をひとつ。

……この世界、ゲームの頃とは、随分と様変わりしてしまったらしい。


「トト」

「はい」

「じゃあ、この塔や店は建築物の保護と言う名の監視をされてるの?」

「……そう、ですね。ことが動いたのは先生が居なくなられてから十年、今から百八十年前になりますが、その頃からだんだん有名どころの魔法使いや冒険者や傭兵たちの姿を見なくなり、各国上層部が危機意識を持ち始めた頃にはもう数えるほども残ってはいませんでした」

「それで?」

「慌てた彼らは姿を消した実力者たちの足取りを追うため、まずはその自宅へ向かったのですが……」


そこから先は分かる。

ゲームの設定では、リタイヤしたプレイヤーのホームは廃墟に変わるか跡形もなく消える。どちらかはプレイヤーが選ぶことができたはず。


「たどり着いたら彼らが見たものは、およそ人が住んでいたとは思えないような廃れ、崩れかけた家々や、そもそも最初から誰もいなかったかのような更地ばかり」

「あの時は、私たちも毎日毎日、いつお店が無くなっちゃうかって怖かったんですよ!」

「えぇ、確かにユユの言う通り。僕らは先生の花から生まれ先生に育てていただきましたから、先生の自宅や店がなくなれば他に行き場がありません」

「でも、あなたたちには生活のすべ、大概のことは教えたはずでしょう?」


現実世界(リアル)ではなかったから、そこまで真剣でもなく、手取り足取り教えたわけではない。

けれど、ゲームのシナリオに沿いモンスターの狩り方から換金方法、魔法薬の作り方や販売まで、私(ラプンツェル)に付き仕事は教えてきたはず。

そう、視線に含み問いかけると……二人ともがうつむき表情に陰りを見せた。



「はい。……ですが、僕らは所詮ただの妖精です。羽があってもそう長い距離を飛べませんし……力だって弱い。それに、魔法も得意なわけではないです。エルフやドワーフ達のように自然を味方にして森や山に隠れすむことも、人間に見つかった際に応戦することも出来ません。なにより、僕らは花の蜜がなければ生きられない。……先生方が居なくなられてから亜人と人間の確執も深まりました」


トトは瞳を暗くさせ、手のひらを握りしめながら悔しそうに私へ訴えた。


「……まさか、争いごとや奴隷が?」


まさか、とは言いながらもファンタジーでは良く聞くその文字が私の脳裏で点滅して消えない。

ゲームだった頃はいなかったソレがもし存在するなら、そう考えるだけで胃に冷たいものがつたうような、嫌な気分になる。


「先生ったら。さすがにまだ大きな争いはないし、犯罪でもおかさない限り奴隷にはされないですよ。まぁ、奴隷自体はいるし、中には人間も亜人も結構いるみたいですけど」


……不愉快そうに、けれど当たり前のことのように話すユユ。

私はその姿にも、一瞬恐れを感じてしまった。

ゲームは、ただのゲームだったはず。

内容も、ギルドがあり、モンスターいる。人間や亜人が奴隷としては出て来ない。ただの、NPCとプレイヤーだった。

私は、改めて、ココが現実世界(リアル)なんだと考えを新たにし、余計にからだが強ばってきた。

そうして思い出す。

私がプレイ中に仲良くなった獣人やエルフやドワーフは無事だろうか?


「みんな、他の亜人たちは元気?」

「……そうですね。先程すこし出ましたが、エルフやドワーフの殆どは自分達の故郷とも呼べる森や山に帰り引きこもっているようです。他は、帰ってしまった者もいれば仕事があるため街に残ったものもいます。ただ……」


トトの答えに安堵した私は、すこしだけ肩の力を抜き、止まった話の続きを促す。


「?……ただ、なに?」

「残った者たちも人間との間の溝を埋めきれず互いに牽制しあっていると言いますか……あまり仲は良くありません」

「喧嘩ばーっかりなんです!目が合ったから、とか、肩がぶつかったから、とか。でも、私達はお金や食べ物がほしいし、人間はモンスターを狩る力や魔法薬がほしいし」

「お互いに足りないものを補足し合っているのに、なぜ嫌い合うの?昔はそこまでじゃなかったはずでしょう?」


「それが、その……」

「人間が悪いんです!」

「先生方が居なくなられてから、狩る側が減ったことでモンスターは繁殖し増え続け力ない人間は随分と恐怖したようで、錯乱したどこかの権力者が亜人を使いモンスターを一掃しようと試みたのですが……」

「そのせいで、そのせいでっ、沢山の亜人が死んだのよ!」

「その事件がきっかけで……有力な亜人は人間に非協力的になり、ギルドを抜ける者も少なくはなかったようです」

「そう、なの」


ギルドに加入したままだと緊急依頼を断ることができないから、それが原因で死んだものもいたのだろう。

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