第3話 ラプンツェル《塔》へ行く
第一ホームが木造りだったのに対して、第二ホームは石造り、それも古めかしい煉瓦で作られている。
一階から三階までは魔法書で埋まり、四階はバストイレキッチン居間、五階は寝室になっていて、寝室にはなんと暖炉がある。
基本的に私は第二ホームに居ることが多かったので第一ホームや第三ホームはつけていない嗜好品とも呼べるアイテム。
昔から暖炉のある生活に憧れを抱いていた私が、現実では無理だからせめてゲームの中だけはとこだわって付けたのでちょっとお高い。
カツリカツリ、ブーツの底と煉瓦の床がぶつかり合い広い塔をこだまする音。
「長いこと来てない割りにはホコリがないのよね」
これは第一ホームでも感じたことだけど、【キューイちゃん】効果なのだろうか。
「変わったところはない。ベットも、暖炉も」
声がした木戸に近づいてみる。
「やっぱり」
おかしい。
もしかして、二百年の間に森が開拓されたのだろうか?周辺に村でもできたか、旅人が外にたまたまいるだけなのか。
うっすらと、木戸を押し開いた。
あくまでも、外からは分からないように。
「……っ」
そこには、街があった。
私の塔の周囲にはぐるりと高い塀が建てられ、その途切れた辺り、塀の出入り口には門がある。門には兵士のような制服を着た知らない男が立っていて、その外側には巨大な街が形作られていた。
あれは、なに?
塔から塀までの距離がかなり空いているのは、【キューイちゃん】効果で近づけなかったからかもしれないけど、あの門番らしき男と巨大な街。よく見れば街の外側には塔を囲む塀とは比べることもできない巨大な壁がある。
「これは、出ていけないわ」
はじめから塔を出ていく気なんて欠片もなかったけど、一人呟いて木戸をそっと閉めた。
それから普段はそこまでしないうち鍵を閉め、備え付けのカーテンも引く。
でも、あの塀も門番もなんのつもりだろう。
確かに私がゲームをやめてからこの世界では二百年が過ぎているみたいだけど、ホームは所有者が死ぬと消えてしまうか廃屋に様変わりするように出来ているのに、私が戻るのを見張っているとか?いったいなんのために?
「まぁ、考えてもしょうがないか。日本でも故人の物は引き取り手がなきゃ国に渡るわけだし。そもそもこっちの人がゲームのルールを知っているわけもないんだから、もしかしたら遺跡かなにかと勘違いされてるのかもね」
二百年物だし。
でも、見張られるのはなんか嫌だな。
私は塔の五階、暖炉の右側に立て掛けられた細長い【紅の写し見】へ向き直る。
先程同様魔方陣に触れ、鏡が光るのを待ちなかを覗く。
そこは間違いなく第三ホーム【妖精の店】。なかは薄暗く小さな人の動く様子が見える。
「……トト?」
ゲームのなかで私と契約を結んだ妖精たち、その子たちを思いだしそっと声にのせた名前は昔自分が名付けたものだった。
私のキャラの種族ハイフェアリーはフェアリー(妖精族)の上位種なのだけど。そもそもフェアリーは少数と有名なエルフやドワーフよりずっと数が少ない。
原因はと聞かれれば、エルフは魔法、ドワーフは鍛冶と得意分野が一つなのに対し、フェアリーは魔法と魔法薬の生成と背中の羽での飛行もあるが、足枷が付くことが大きい。
フェアリーははじめ、とても弱い。羽で飛ぶのも魔法薬を作れるようになるのもレベルがある程度上がってからしか出来ないし、魔法もエルフほど特化していないため凄いものが使えるわけでもない。尚且つ、下級フェアリーの育成が義務付けられている。
下級フェアリーはいわばゲームのNPCなのだけど、彼ら彼女らは上級フェアリーかハイフェアリーの育てる花からしか生まれないために、本当に希少で、生まれた下級妖精たちもまた純粋で小さく弱いために中級まではそばで見守る必要もある。下級妖精の育成はプレイヤーが一定の基準を満たすと自動で開始されるのである日突然始まる癖に手間も時間も取られると結局あまり人気も出なかった。
けれど、中級まで育てば契約を結ぶことが出出来るし、そうしたら魔法薬を作るのもモンスター退治も手伝ってくれるようになる。
本当に良い子たちだった。
まあ、それもこれも、私がモンスターと戦うのがあんまり好きじゃないゆったり派だったから出来たことで。
戦うのが好きな人だったら絶対に無理だっただろうとも思うけど。
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