第2話 ラプンツェルの緑の家

ぱきぽき。

枯れ草や枯れ木を踏みながら進み、やっとたどり着いたその小屋はやっぱり私の【緑の家】だったし、からから揺れる風見鶏も【キューイちゃん】で間違いなかった。


「じゃ、ここって……ゲームの中?」


なら、私はきっとキャラに成り代わったと言うことなのだろうか?

そう考えてよくよく思い返してみれば、この服もマントも靴もバックも私のキャラに買い与えた装備品だった気がする。

たしか、このバッグはアイテムボックスになっていて着替えやら杖やら短剣やら魔法薬をしまっていた……気もする。


「すてーたすおーぷん」






*****

名前:ラプンツェル

年齢:256

種族:ハイフェアリー《古種》

level:120

装備:フェアリーのワンピース・フェアリーの編み上げブーツ・フェアリーのマント・フェアリーのピアス・フェアリーのリング・ケットシーのリング・妖精のアイテムバッグ

持ち家:第一ホーム《緑の家》第二ホーム《ラプンツェルの塔》第三ホーム《妖精の店》

*****





二百五十、六才。

つまり、ゲームをやめてからここでは二百年は経過している……?


「あーまず小屋にはいるかな」


もうとりあえず休みたいし、少しなにも考えない時間がほしい。


□■□■□■□


小屋のなかはゲームの画面上と変わらず、買いそろえて設置した家具たち。

柔らかな色合いで纏められたカーテンや寝具。

安らぐために、町から離れた森の奥に建てたこの小屋は、変わらずここに存在していた。


「……これ、まだ使えるのかな」


ワンルームの小屋内には居間兼寝室兼キッチンとバスルームとトイレでおしまい。

この状態から家となるホームの無事を確認し終えたら、今度は集めたアイテムが使えるか心配になってきた私。

そのほとんど全てがバッグの中に仕舞ってあるし室外の【キューイちゃん】以外には、室内にあるアイテムは一つだけ。

その名も【紅の写し見】クローゼットの両開きの扉を開くと裏側には鏡が設置されているのだけど、その鏡には朱の模様に紛れて小さく紅色の魔方陣が彫ってあり他のホームの様子を覗いたり移動したり出来る便利アイテムとなっているのでシステムが活きていてくれたら本当に助かるのだけど。


「どうかな?」


玄関から右側にバス・トイレ、正面にキッチン、左側にベットとクローゼットがある。

フローリングの床をブーツのまま進み、クローゼットを開け、中の衣類をちら見しながら扉の裏、鏡を見ればそこに写るのはこの世界の私。

真っ白な肌。ぴっしりと整えられた薄緑色の髪は耳の両サイドから編み込まれ、後頭部で三つ編みにされ頭に巻かれている。それでも余った髪は後ろに大きなおだんごとして君臨していた。下ろせば床につくだろうことは想像に難しいことでもない。ゆるりと垂れた瞳は焦げ茶色をしている。

顔の作りは日本人そのままなのに、こうも配色が違うとかなりの違和感が凄い。

身長は元の私より縮んでいて、これは……百四十くらいかな?

そのまま鏡の縁、魔方陣に触れた瞬間


「っいた!」


静電気が走った……と思ったら鏡が薄紅色に光り魔法が発動した。

痛む指先をさすりさすり、鏡をのぞけば……なかは見た感じ第二ホームっぽい。

第二ホーム【ラプンツェルの塔】は友人が面白がって名付けたその名の通り五階建ての塔で、内側にも外側にもどこを探しても入り口も出口もない。出入りできるのは第一と第三ホームに設置された【紅の写し見】からのみという難攻不落の塔。天辺には風見鶏の【キューイちゃん】もあるのでまぁ、どっちにしろ近づけないのだけど。

そんな塔にも、窓はある。と言っても五階建ての五階に一つだけ。それも普段は備え付けの木戸を閉めてあるから外から見たらかなり不気味なのだとか。

まぁ、このゲームの世界観はかなり古い西洋なので、建物は基本煉瓦の平屋で殆どが一軒家、あっても二階建てかそれ以上だと王様のお城くらいしかない。

そんな世界で五階建ての塔を、しかも人が出入りできないように作るのは、さぞ可笑しく見えただろうなぁとこれが現実だからこそ今更ながら思う。


「塔を建てた場所ってたしか、この森までじゃないにしろ人が寄り付かない小さな森の入り口辺りだったはずだけど」


おかしい。

何がおかしいって、閉じてある木戸越しに人の声が聞こえる。


「ちょっとだけ、行ってみようかな……」


木戸は開けなければいい。

ばれなきゃ大丈夫。

もはや誰に対しての心配か分からないまま、鏡に手を差し入れ、そのまま体もすり抜けた。


■□■□■□■


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