休息:言葉の向こう側
旅の道すがら、機械式単車を木陰に停め、ビアンカ達は休息を取っていた。
「うむむむ…」
ニクシーは、側車から降りて精方術の鍛錬を行っていた。触媒の腕輪を着けている右手を前に、小さな光の球体を生み出している。
「その光の球体を、頭の上に配置できれば、光源として使えるよ」
「ぬぬー…」
少しずつ頭上に上っていくものの、微かに光球が放電し始め、形が歪んでいく。
精方術は、自分の描いたイメージを、術力を籠めた触媒を通して具現化する技術なので、慣れないうちは、少しでも集中が切れると、具現化しようとしているイメージに乱れが生じてしまう。
「気を付けて。危ないと思ったら、力を散らして」
「は、はいです!あっ…」
意気込み、更なる術力を注ぎ込もうと構えたニクシーだったが、頭上に持ち上がっていく予定だった光球は放電現象を起こし、パァンと音を立てて弾け散ってしまった。
「ここまで行ければ、上出来だと思うよ。それにイメージも暴走してないしね」
「うー…」
「よしよし。まあ、取り敢えず休憩だね。少しずつ上手くなれば良いさ」
がっくりと肩を落としたニクシーの頭をそっと撫でてから、ビアンカは機械式単車へと戻った。
「さて…」
座席に乗り、鞄から筒状に丸めた新聞を取り出して広げる。それは「連合国」の国営機関が発行している機関紙の一つで、領内の政治経済の動きはもちろん、大都市での出来事から、地方のお祭り事情まで、幅広く網羅している新聞として知られているものだった。
「シェインティア、入管の管理体制強化へ…?」
新聞の一面には、大きな文字でそう書かれてあった。
最初は、地方の情報だけを軽く読み流すつもりだったビアンカだったが、その記事が目に入ったことで本腰を入れて読む態勢に移行した。
『シェインティア、入管の管理体制強化へ』
シェインティア学園連合自治委員会は、先の魔物事案における発生原因に何者かの介入の痕跡を認めたと発表。それに伴い、遺跡入場管理局は審査基準引き上げ及び防衛戦力の拡充を自治委員会に打診し、自治委員会はこれを承認した。なお、一部の遺跡を聖地と定める宗教法人がこれに対し抗議。近日、連合自治委員会と協議を行うことを表明した。
新聞を読み進め、賛成派と慎重派の識者の声を読み終わった辺りで、一息ついた。
「ああ、だからこの前、遺跡への入場が制限されていたのかぁ…。そりゃあ、こんなことがあったらそうなるよね。今更ながら納得だよ」
ちらと術の鍛錬を再開したニクシーの様子を見やり、何も問題のないことを確認したビアンカは、そのまま新聞を読み進める。連合国中央政府の政策に関する記事、選挙に関する記事と続くも、政治の話題には興味が無いのか、彼女は次々に読み飛ばしていく。
そして、地方の情報が記載されている紙面で手を止める。
「ふぅん。山脈地帯の街モンタ・ギオゾで近々慰霊祭かぁ。あそこなら賑やかなお祭りになるかな?」
前に訪れた時に見た、見える全てが合わさり一本の樹のように感じられた風景。それを見ながら味わった発泡性乳飲料アーリャンと硬めのワッフルの味。少し前に経験した思い出が、ビアンカの脳裏に浮かび上がった。
「これは、次の目的地は決まったかな」
同時に微笑みを浮かべ、メモ帳を取ろうと鞄に手を伸ばした。
すると。
「ふえぇ!?」
「!?」
ニクシーの上げた声に驚いて顔を向けると、頭上に浮遊させようとしていた光球が先ほどよりも強く放電し、ちょうどよく、それが弾ける瞬間だった。
「ちょっと。大丈夫ー?」
頭からプスプスと軽く煙を上げ、驚きでその場に立ち尽くすニクシーの下へ、ビアンカが向かう。直ぐに頬を膨らませた彼女の頭を撫で、次への挑戦を後押しするために。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます