休息:雨を見つめて空を仰ぐ
旅立ちから一週間。ビアンカとニクシーの二人は、予定していた町への到着を急ぐために森の中を抜けていた。機械式単車は予想以上の好調で二人を運んでくれていたが、天候の不順に勝つほどの力は備わっていなかった。
「まさかここで雨に見舞われるなんてね。季節的なものだから仕方ないとは思うけど」
「でも、空気が涼しくて気持ちいいですねー」
二人は、しとしとと降る雨を、即席の幌を張った機械式単車の座席上から眺めている。
現在、単車は森に生えた大きな木の下に停められており、少しだけ周囲よりも高い位置にあるためか、雨水は下へと流れていくという都合のいい場所だった。
「祭祀場近くとかで降らなかっただけ、感謝しないといけないかな。この場合は」
「あの近くでは、何かあるのですか?」
「あの周辺は遺跡側に水が流れるし、水捌けが遺跡の用水路頼りだから。しかも周辺はベチョベチョにぬかるんじゃって、まともに身動き出来なくなるんだ」
「それは、面倒ですねー。お天気が良いときでないと、まともに探索できなさそうです」
「まあ実際、まともに探索できなかったよ…」
「経験されたんですね…」
会話する間も雨粒は降り続け、木々の隙間を縫って落ちてきた水滴が幌を叩き、伝って地面に落ちていく。二人は窓代わりに備えられた透明な部分から外を眺め、互いに微笑んだ。
濡れないからこその余裕であり、自然の中ゆえの娯楽でもあった。
「さて。そう言えば、そろそろ分岐点に着くけど、次はどこを目指そうか?どのみち今日は野宿になるから、街を目指すのもありだと思うけど」
そう言いながらビアンカは、鞄から折り畳んだ周辺地域図と、情報を書き込んだメモ帳を取り出し、広げる。
「ここから近い街は、どのような所があるのですか?」
ニクシーは、彼女の取り出した地域図やメモ帳の様子を見て身を乗り出し、未知との遭遇に目を輝かせている。
「そうだなぁ…」
広げた地域図に書き入れた印を辿り、街の情報を記録したメモ帳で調べる。
ページを捲るたびに様々な街や遺跡の情報が、挿絵が、流れていく。それは彼女の旅の足跡で、大切な思い出ばかりだ。目が一瞬泳ぐが、すぐに付箋を頼りに目的のページを開いて情報を探すことに集中した。
「お、あったあった。えっと…」
開いたページの付箋には「連合国」と書かれている。見出しには、「学園都市シェインティア」とあり、時計塔や学舎の挿絵に合わせて、所狭しと情報が書き込まれている。
情報としては、ビアンカが気に入った書籍の販売店や、精方術触媒の販売店をはじめ、飲食店や観光名所の詳細など、旅人として見てきたものを文字として書き込んでいることが分かる。
「学園都市…とは、どのような場所なのです?」
「簡単に説明するなら、学校とか研究所とかがいっぱい集まって出来た、学者たちの街のことかな。近くに遺跡が多いから都合が良かったんだね、きっと」
「へぇ…。人が多くて、面白そうなものもたくさんありそうです」
「面白さや楽しさは保証するよ。本当に色々なものがあるからね。特に中央区にある時計台は、古代の史跡としても有名だよ」
「そうなんですか?すごく気になります!見てみたいです」
「それなら、決まりかな?次の目的地は、学園都市シェインティアっと…」
ページに栞を挟み、目的地を忘れないよう仕掛けを打ったあとで地域図と一緒に鞄にしまった。そして、体を伸ばし一言。
「まあ、まずは、今夜の野宿の場所を考えないと」
「野宿…。全て自分で用意する必要があるですね?」
「火を起こしたり、寝床を準備したりね。大変だけれど、それも旅の楽しみの一つだよ」
「色々、教えて下さいです!」
「もちろん。ついでに簡単な料理も教えるから、楽しみしておいて」
「わーい!」
全身で喜びを表現して見せるニクシーを撫でるビアンカ。同時に彼女は、野宿の準備が間に合うくらいの時間で雨が止むよう、空模様を見上げるのだった。
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