旅路:街道をゆく二人
その日も良く晴れていた。蒼空は高く、雲も軽やかに流れている。
馴染みの旅籠街で旅に必要な道具や生活品類を買い込み、それらを、先日友人の技術者から供与された試作品の小型機械式単車へと収納したビアンカは、ニクシーと共に“旅人街道”を進んでいた。
「ここが旅人街道!多くの旅人が歩いた道なんですね!」
「方々の街や遺跡に通じているから、必ずと言っていいほどに通過するからね。あと、自力での旅を良しとする白光教の信者たちの聖地でもあるね」
「そうなんです?あ、なるほど。こうやって歩くからですね」
「そういうこと。機械式単車に乗っても良いけれど、ここだけは歩いていきたい。それくらいには良い景色が見られる」
「はいです!気持ちいいですね!」
旅が初めてというニクシーは、見える景色全てに驚嘆し、目を輝かせ、興味を引いたものや湧いた疑問について、頻繁にビアンカを仰いでいた。加えてビアンカも、聞かれたことで分かることについてはきっちりと答えるので、よりその傾向が強くなっていると言えた。
「あ!ビアンカさん、あの、岬の方に見える建物、なんですか?」
「うん?」
再び質問が飛んでくる。
見ると、海岸の方面に見える教会を指さしていることが分かる。時計の備えられた一段高くなっている屋根に、白光教のシンボルにも用いられているとされる神器“織り手の聖鈴”を模った意匠の装飾が見えた。
「あれが白光教の教会、サントビアンコ修道院だよ。ほら、屋根の上に飾りが見える?あれがその印。カハールっていう洗礼儀式を行うために、あそこに白光教の新しい入信者たちが訪れるんだ」
「へぇ…。重要な場所なんですね!」
「うん。しかもあの飾りや、中のステンドグラスが美術的にも有名だから、その手の人たちもよく観光に訪れるね」
「なるほどー。ビアンカさんも観光を?」
「まぁね。ただ、私は白光教信者ではないから、色々あって、行ったのは一回きりだけど」
思い出話にもならない、他愛ない話題も交えて質問に答えた。確かに、歴史的にも美術的にも価値のある場所ではあったが、元々が孤児であったビアンカにとっては、少々苦い思い出を想起させる場所でもあった。
「ところでニクシーは、次は何処に行ってみたい?ここからなら、遺跡にも、街にも、どちらでも似た距離で行けるからね」
ビアンカは、話が自分の幼少期に及ぶ前に、話題を逸らした。どちらにしても、自分の事について聞かれても記憶がないため、答えられないわけだが。
すると、ニクシーがパッと笑顔を浮かべた。
「私、ビアンカさんの辿った道筋で旅がしてみたいです!」
即答だった。
「私の?」
「はいです!ゆっくり、ビアンカさんが見てきたものを見てみたいのです!」
ビアンカは少しだけ瞠目し、思考する。
彼女にとって、その即答は意外と言うか、不思議な提案だった。てっきりニクシーは、もっと悩むか、即答しても目的地へと急ぐと思っていたからだ。
「分かった。なら、丘側の道の先にある魔法文明時代の遺跡、「地王の祭祀場」を目指そうか。あそこは魔物も少ないし、精方術師でなくても安全に見て回れるから」
「地の民の遺跡ですか?はい!行ってみたいです!」
「なら決まりだね。さ、単車に乗って。あっちは坂だから」
ビアンカは機械式単車のロックを外し、車輪の動きをフリーにすると、ニクシーの乗車を確認してから精方術の触媒をハンドル部に装着。エンジンに火を入れた。
「しゅっぱーつ!」
「しんこー!です!」
心地よい音と振動を感じながら、丘に向かう道に向けて走らせるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます