されど心は跳ねる

@syodayo

慌ただしい日々

咽び泣く声と木魚の音が混じり合う中

僕は制服を着てパイプ椅子にただじっと座っていた

隣では母が瞬きも忘れるくらい遺影を見つめ、その姿を物悲しく見ていた

小さい頃に見た事のある親戚や、初めて見る顔の人

数十人が規則正しく座っている


父が死んだ

死に際に「お前のやりたいように生きろ。自由に出会い、選べと」言い残し、数日後

父が死んだ

僕は病室で目を腫らして泣くことしか出来なかった

この時間を戻せるなら日にちを引きずり戻す事が出来るのなら頭の中に羅列した言葉をかけてあげたかった、それだけが唯一の痛み


喪主である母が色々な席を回りながら

お酒を注ぎ忙しそうにしている。先程の顔とは違い口角を上げ笑顔を作って話している様に無理しているように感じ取れた。

「海斗君、今は確か高校生だったよね!なんか見ないうちに身長も大きくなって大人びたね!」


「高校に入ってからは背の順の時も後列に並ぶようになったんですよ。」


僕も田村さんも探り探り話をしている

「うちの息子大学に行ってるんだけど、いっつも遅刻するってていいながら通ってるの。バイトもせずにのらりくらり生活してるのよ困っちゃうわよね

自分の生活費でもちょっとでも稼いでほしいわ。」


「そうなんですか、でもしっかりと大学に通ってるだけでも親孝行だと思いますよ」


「あら、嬉しいわ海斗君みたいな子が息子だったらよかったのに」


「いやいや、そんなこと。」

「あなたならお母さんの事助けてあげられるわね頑張りなさいね?」


いつの間にか食事を囲む席には笑い声が溢れていた

悲壮感は無く、この場をとても不思議にも思えて


それからアパートに帰り

母は酔いと疲れでぐったりとソファーで横になり

喪服を着たまま寝てしまった。そっと毛布をかけ

自分の部屋に行き電気を消し、今日という日に蓋をした。


二週間後

僕は高校に行きその足で退学届けを出して、学校を後にし初めてという程大きな行動を出たと同時に呆気なく幕が閉じた

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

されど心は跳ねる @syodayo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ