ウルフ

Kohr.435円

第1話 入所

1.「入所」


「おれは恵が好きだ」

「・・・・・へ?」

白夢児童養護施設。

昼十二時半

寒い冬の日、施設のグラウンドの隅の方で雪がちらつく中、めぐみは一つ上の男性・将に告白された。


時は遡る。

九年前。

七歳。

私、めぐみは白夢児童養護施設に入所した。

恵の親は二人ともダメな人間だった。私を六歳の時に捨てた。

母親は違法カジノとドラッグで捕まり刑務所。

父親も遊び人で借金で一億を越え、恵を公園に置いて、離れた湖で自殺を図った。恵は一人になった。

でも寂しくもなければ涙もなぜか出なかった。

元々、母親から暴力を受け、酷い言葉を言われた。

特に、私が五歳のときに「あんたなんかいなければいい・・・・・・。」

と、母親に言われたこと。

ショックだった。だが、今は、全然ショックじゃない。なんとなくこうなると思っていた。一人ぼっちで公園にあるゾウのすべり台の上で寝ていた。

でも、まだ夏のあつい日の夜でよかったのかも。冬だったら寒くて寝付けない。 気付けば、恵は寝言をいっていた。

「じいじ、怖いよ……助けて。」

恵はぐすん、と涙ぐんだ。

朝になり、ハッ!と恵は起きた。目からは一粒の涙が出ていた。

「だめだめ!」

と、言いつつ、怖さを圧し殺すかのように「よし!!」と、ほっぺが少し赤くなるまで、パンパンパンッと何回もたたいた。

「よし行こう!」

めぐみは立ち上がり、町のほうへ歩いた。


恵は町中を淡々と歩いた。

何も考えず。

しばらくして、気づくと元の公園の場所に戻っていた。

何故か悲しい気持ちになった。そんな時だった、五十歳ぐらいのひょろひょろなおじいさんが優しく喋りかけてきた。

「君、大丈夫かい?何があったの?このけがやアザは?」

そう、私には、醜いアザやけがが何個かある。パパは手を出す人じゃなかったが、ママはよく怒ると私を殴ったり、蹴ったりされた。

そのおじいさんは何となく昔すきだったおじいちゃん……じいじにそっくりだった。

おじいちゃんは恵が四才のときに病で亡くなっている。

生前、じいじは私にこんな事をいい残した。

「お前は人に恵みを与え、何事にも強くいきな。」

その直後だった。静かに息を引き取った。

悲しくて、涙が溢れてきたけど、強く生きるって約束したから。頑張らなきゃ。

そう気持ちがあった。

恵はおじさんを見て、少し安心したのか、涙が出てきて目じりがこわばり、いまにも泣きそうな自分を抑えた。緊張の糸が切れたのかパタリと恵は気を失い、倒れた。

その瞳には、一粒、二粒………と、小さな涙が落ちた。

その姿をみたおじさんは

(この子は辛いことがたくさんあったんだなぁ…。)と心の中で想った。


恵は目を覚ますと、白いパジャマに柄は水色の水玉模様の入った服を着ていた。

気付くと、ふかふかのベッドの上で寝ていた。

「ここはどこなんだろ?」と恵は考えていた。

でも、ここは凄く涼しく、いい匂いがする。こんなところで寝たことない。少し、嬉しくなった。

しばらくして恵はキョロキョロとあたりを見渡し、ベッドの布団をめくり、正座でちょこんとすばやく座った。

状況が掴めず、ボーっとしていた。

そんな時だった、左のドアから開く音がした。その音を聴いて恵は慌てて布団のをかぶり小さくなった。

ふとんの隙間からチラッと覗き見すると、そこに居たのは公園で話しかけてきたおじいさんだった。

おじいちゃんは、恵がいるベッドまで来て、語りかけた。

「大丈夫かい?平気かい?」

恵は顔を少し出して、応えた。そして暫く会話が続く。


「大丈夫......」

「そうか、それならよかった」

「君、名前は?」

「.........」

「…大丈夫、無理に言わなくても。」

「......め、恵...です。」

「恵ちゃん。」

「恵ちゃん、このアザ、怪我どうしたの?なんで公園で一人でいたの?」

「…パパに置いてかれた。」

「なにも言わずかい?」

「うん。」

「怪我はどうしたの?」

恵はこの質問には、答えなかった。恵は恐かった。

「・・・・・・・」

「そうか、わかったよ。」と、おじいちゃんは話を切り上げようとした瞬間ーーー、

恵は重い口を開き、少し切実な声で喋りだした。

恵は今にも泣き出しそうな表情だが、堪えていた。

「あ...、、ママに...」

「!」

おじさんはビックリした。

まさかそんな事あるなんて…と。こんなかわいい子を。

おじさんは手を広げて、何も言わず恵を強く抱き締めた。

「怖かったね...もう大丈夫。」

そう言うと、おじさんは一粒の涙を出した。

その暖かさに恵も少し涙をポロっと涙を出し、泣いた。

おじさんは暫くすると、離れて会話を続けた。

「恵ちゃん、、家(うち)に来ないか?この施設に。大丈夫、私が付いてる。」

恵は少し、時間を置き頷き、応える。

「うん。」

なぜかこのおじさんとしゃべると安心する。一緒にいたい。おじさんは優しい声をしていて、落ち着いた。

恵はそう感じた。


恵は児童養護施設に入ることになった。

この時、恵は六才。月日は七月二十七日だった。

七月二十八日、養護施設校内、教室内。教員室にて。

朝八時五分。

今日、この日は白夢児童養護施設に入った日。そして恵の誕生日でもある。七才になった。偶然なのだろうか?

昨日。その後、教室に入りみんなの前で自己紹介をすること。もう一つは友達を作ってね!と言われた。山田校長先生との約束。校長先生は私を引き取ってくれた施設の先生。六十二歳。

正直やりたくない。友達なんてバッカみたい!

教員室で、女性の先生と二人で黒い革質のソファーに座っていた。先生は積極的に会話をしていた。

だが、恵は一言も会話に参加しなかった。

そんな恵を見て、先生は困った表情を浮かべていた。

「・・・・じゃあ、そろそろ行こうか?」

と先生は恵に言い、ソファーから立ち上がった。

それにつれて恵も立ち上がった。

二人は教員室から出て、教室に向かった。


この養護施設にはいくつか教室がある。恵は「いぬ」と書かれた表札がある教室だ。

他には、「とり」「チューリップ」「サクラ」の四つのクラスがある。

ここにいる子供は恵と同じの年齢や年上、年下の子供、男女が暮らしている。もちろん色々な事情を抱えた子供ばかりだ。

「いぬ」のクラスは全員で七人の少人数。同じ年の子が多い。

恵は担任になる女性の若い先生と歩いていた。だけど、本当は怖い。めぐみは体が勝手に、先生から少し離れて、ゆっくりペタペタ歩いていた。

女の人が怖い。少しぷるぷると服の裾をぎゅっと掴んで震えながら、歩いていた。緊張と恐怖があった。

すると、後ろからあの優しく包んでくれるような柔らかな声が聴こえた。恵を呼んでいるようだ。

山田校長先生だった。

「めぐみちゃん!頑張ってね!ファイト!」

その声で恵は立ち止まった。

校長先生の声を聴いて緊張や恐怖を和らげた。震えていたが、少し落ち着いたようだ。

心が落ち着くと、恵は笑顔で振り返り校長先生に大きく手を振り、返事をした。

「うん!頑張る!」

明るい顔をしていた。これまでにないくらいに。

私は校長先生の声を聴くと、こころが落ち着く…気が紛れる。いつまでも話していたい。


めぐみは話しを終えると、再び生き生きと歩きはじめた。

二人は教室のドアの前に着いた。

「じゃあ、めぐみちゃん、ちょっとここでまっててね。私が呼んだら、出てきて、自己紹介をするのよ。大丈夫?」

「うん、大丈夫。」

「うん。じゃあ待っててね。」

先生はガラガラっとドアを開け入って行った。

恵は心がドクン…ドクン…ドクン…と小さな鼓動が鳴っていた。緊張しているのだろう。

女性の先生は教室の黒板の前にある教壇まで歩き、手を付いた。

もう子供たちは静かにイスに座っていた。

「おはようございます。」

すると、一斉に挨拶をした。

「おはようございます!」

「今日は、新しいお友達をご紹介します。仲良くね!」

「いいよ!恵ちゃん!入っておいで。」

「はい。」

恵は入って、みんなの前で恥ずかしながら自己紹介をした。

「は…じめまして。走出恵です。七才です…よ、よろしくお願いします。」

「は~い!みなさん!よろしくね!じゃあ!拍手しましょうか!」

先生は恵の自己紹介が終わると、みんな一斉にパチパチパチパチ、と大きな拍手をして迎え入れてくれた。

音は教室中に響いた。

恵はちょっとびっくりして驚いていた。

暫くすると、拍手の音は鳴りやみ、恵に窓側の一番後ろの机に座るように先生はいった。

めぐみは指定された机のイスに座った。

机は二人でくっ付けて、授業を受けるシステム。

隣の女の子が喋りかけてきた。その子はめぐみに自己紹介をした。

「うふふ、私の名前はのぞみって言うの。よろしくね!」

すごい笑顔でフレンドリーな感じに話してきた。

いきなりの出来事だったので、めぐみはビクッと驚いた。めぐみは下を向いてしまった。

「めぐみちゃん、だよね?よろしくね。」

私はのぞみちゃんのほうに向けた。

のぞみちゃんはニコッとしていた。

「ん?大丈夫?」

「……ごめん………。」

「いいよ!謝らなくても、最初は緊張するよね!私もそうだった!」

「そっか。」

なせが、めぐみは謝った。

「はーい!勉強はじめるよ!」

先生は声をかけた。

いつも、これぐらいの朝9時から一時間目の授業が始まる。

めぐみは今日から入ったので、まだ教科書がない。

あたりを見渡していたから、のぞみちゃんがそっと教科書を一緒に見せてくれた。

「まだ、今日ないんだね、一緒に見よ!」

「いいの?」

「いいよ!別に。減るもんじゃないし、にししししっ!」

のぞみちゃんは陽気に笑っていた。

「ありがとう…」

「うん!」

私はこの子を信じてもいいのだろか?

でも凄く優しい子だ。

でも、なんか新鮮。いままではほとんど保育園とか行かせてもらえなかったから。

私…ちゃんとやれるかな?大丈夫かな?まともな生活もしてなかったのに。と、友達、できるかな?そう思うと、勉強に集中でなかった。

勉強が終わって、夜ごはんをたべた。まともな食べ物。

なんか嬉しいっ!。すごいワクワクしていた。いままでに食べたことのない味。いや、久しぶりだった。親があんな風になるまではおそらく、可愛がってくれたのかもしれない。

めぐみはなぜか目を潤わせながらたべた。美味しくて。

食事に感動していると、あの人から声をかけられた。

「あ!いた!どう?ごはん美味しい?その味噌汁、私が作ったの。今回は赤だしよ。」

めぐみはドキっ!として振り向いた。嫌そうな顔で「なに~??」と返した。

そういえば、のぞみゃんからお盆、受け取ったんだっけ。気づかなかった。

「そんな、嫌な顔しないで~。一緒に食べようよ。ここ座っていい?」

「…いいよ。」

ってもう座ってるし。

「ありがとう!」

「どう?一日目は?楽しい?」

「わからない。こんなこと初めてだし」

最初は黙るつもりだったが、のぞみちゃんの笑顔の毒気にやられ、話し出した。

のぞみちゃんは元気な女の子。髪型がショートボブのような形をしているのだが、私にはどうしても、キノコにしか見えない。

「きのこ…」

「?きのこ?」

「いや、なんでもない。」

めぐみは恥ずかしそうにふんっ!と目を背けた。

ふたりはフォークでウインナーを刺した。どうやら好きな食べ物は一緒らしい。

量は少ないけど施設の食事は食生活やきちんとした衛生面に他と比べると長けている。ちゃんと毎日考えてつくってるようだ。とは言え、のぞみちゃんのように、簡単な味噌汁やごはんを炊いたり、簡単な備え付けを手伝いをする子は少なからずいる。この施設には給食当番制はないので、栄養士のおばあちゃんから受けとる。今日はたまたま、のぞみちゃんが味噌汁を作っていた。

味噌汁は美味しかった。なめこがはいっている。

「やはり、きのこ…」

その姿を校長先生は教室の隙間の陰からめぐみを見ていた。どうやら、心配で、来ていた。見守っていた。凄い心配性で、いてもたってもいられないぐらいに。見ていると、後ろから声をかけられた。めぐみたちの担任の女性の先生だった。

「どうしたんですか?めぐみちゃん、そんなに心配ですか?優しいですね。」

「坂下先生。そう、心配性でね。で、めぐみちゃんはどう?」

「んー、そうですね。まだまだこれからです。私を怖がってるみたいで、あまり口をひらいてくれないです。」

「そうか、母親がすごい暴力的な人だったと聞いたから、心をひらいてくれるまで時間かかるかも知れないね。」

その話しを聴いて、坂下先生は驚き怒っていた。

「っ!?…なんて母親なの!?許せない!」

「そんな家庭だったみたいだ。だからゆっくり教えていこうと思ってる。」

「そうですね。でもなんかあの二人の姿みると楽しそうですね。」

「うん。よかった。」

「校長先生、私に任せてください。」

「わかった、では戻るよ。」

「はい。お疲れ様です。失礼します。」

と、校長先生と別れた。


食べ終わると、掃除をして部屋でねる。大きな部屋だ、小学生が多いこのクラスは大部屋でみんなでねる。まだ一人で寝れないと思うし。

大まかな一日はほとんど、小学校と変わらない。

ここの場合は、毎朝七時に起床して、七時半に朝ごはんを食べて、八時に自由時間。そして九時から授業が始まる。今は授業中。小学校と同じで坂下先生が基本的に教えてくれる。全然楽しくない。

今日は算数から。算数なんて嫌い。全然わからない。

国語は得意なのに。

そんな事思ってると、あっという間に昼が過ぎ、夜に。

また、夜のごはん…給食の時間。

私は最近、のぞみちゃんとたべる。ていうか向こうから勝手に一緒に座ってくる。

別にいつも一緒にいるわけではない。のぞみちゃんには、見てると友達もいるし、自由時間とかお昼とか別の子と遊んだり、食べたり、先生と喋ったり。色々と多彩な子だ。

私とは違って。約束はしたけど、いまだに友達はできない。もう1週間のときが過ぎた。まだ慣れない。

友達なんていらないのに。でも約束は約束だし。めんどくさいな。一人でいた方が気が楽。

とぼとぼと食べていた。すると、のぞみちゃんが笑っていた。

「うふふふっ、なに考えてるのん?」

「何も…。」

のぞみちゃんが質問してきた。

「めぐみちゃんさ…どうしてここに来ることになったの?」

「親はどうしてるの?おばあちゃんやおばあちゃんは?兄弟はいるの?ねえ?ねえ?」

いきなり、質問責めをした。

めぐみはのぞみちゃんの顔をみた。

なに?この子?私は絶対に信用しない!絶対に!


「どうして?あなたには関係ないじゃん!」と怒った言い方をしてしまった。

「っ?!」とのぞみちゃんはびっくりして、机をバンッ!と叩いて、どこかに行ってしまった。怒らせたようだ。

「なんでだよ…。」

私はなぜか落ち込んだ。

そして、二日が過ぎた。


昼休み。

のぞみは一人で砂場で座って、手に棒切れをもって、絵を描いていた。すごい落ち込んでいる。

「なんで、あたしそんなこと聞いたのんだろ?なんで怒ったの?」

のぞみちゃんは一瞬、フラッシュバックする。昔、親に言われた事だった。

(うぇぇ~んっ!!)と泣く、まだ小さいのぞみちゃんに向かって、(うるせー!泣き止め!しね!)

いわゆる言葉の暴力。母親は怖い顔でそうのぞみちゃんに言っていた。


「んも~ぉ~!!!」

むきになって絵をぐちゃぐちゃにしてるところに校長先生が来ていた。

「どうしたの?なんか浮かない顔をしているね」

「校長先生?」

「そうだよ。」

「お友達とケンカしちゃって。」

「そのお友達はめぐみちゃんかな?」

「え?なんで知ってるの?」

「校長先生はなんでも知ってるよ。」

「実は、めぐみちゃんの事知りたくて色々聞いたら怒って、行っちゃったの。」

「それで落ち込んでるんだね。」

「うん。どうしたら、いいのかな?お友達とケンカしたことないから謝り方がわからない。」

「そうか。」

おそらくこの子はいままで「言葉」にあまり気をつけてこなかったのだろう。親からなにか言われたのかな?

校長先生は考えた。

「のぞみちゃん、じゃあ謝り方を教えるね。」

「え?いいの?やったー!」

校長先生はニコッとのぞみちゃんの顔をみた。

「簡単だよ。相手の目を見て、ちゃんとごめんなさいって言えば、相手も許してくれるよ。」

「それだけでいいの?」

「そうだよ。でもね、謝ることは簡単だけど、意外に難しいよ。」

「なんで難しいの、どうして?」

「それはのぞみちゃんがもう少し大きくなれば、いずれ分かるよ。」

「そうなんだ。ちょっと不安」

「大丈夫!のぞみちゃんならできるよ!頑張って。」

「わかった。頑張る。」

のぞみちゃんは不安そうな顔をみせるが、わかった。と言ってくれた。

校長先生も心配はしているが、心配しててもしょうがない。あの子もいわゆる被害者だから、気持ちはわかる。

のぞみちゃんはどう謝るのかな?頑張ってほしいと、思ってる。

のぞみちゃんをはいい子だし、信じたいから。

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