第12話 神罰の日―カルマ―

 デルタに接続された五基のフォトンジェネレータが最大出力で動き始めたことは、当然サイクロプスの目を通じてホワイトテンに察知されていた。


『っ、五基のジェネレータ、出力最大!』

『ホワイトファイブ!』

『まだ六割!』

『〜〜〜〜ッ、プランC発動!』

『本気か!?』

『時間がないんだ!』

『ホワイトセブン、全速前進する!』


 ホワイトセブンの通信を合図に、雪の中に潜んでいたホワイト部隊が一斉に飛び出した。


『ホワイトファイブ、地下のデルタを!』

『テン! 補正してくれ!』


 他の誰よりも大きく跳び上がったホワイトファイブは、圧縮粒子砲の銃口を真下のクレンリス西部司令部に向けて振り下ろす。


『右に二度、下に五度!』

『撃つ!』


 ホワイトファイブほ操縦するホワイトスプリングは、全身から光の粒子を噴き出して空中に機体を固定し、圧縮粒子砲の引き金を引いた。


『ファイブ後ろ!』

『っ!?』


 圧縮粒子砲から粒子ビームが放たれる直前、ホワイトファイブの背後からノーバディが飛びかかる!


『いや後ろって――!』


 ホワイトテンの声に文句を言おうとしたホワイトファイブの言葉は、ノーバディを巻き込む爆発によって掻き消された。


『大丈夫か、ファイブ?』


 ノーバディを撃ち落としたのは、圧縮粒子バズーカ砲を構えたホワイトツーだった。


『……ダメかも』

『は?』

『今の爆風でズレてる!』

『ツー!』

『この酔っ払い!』

『上に十度傾けて!』

『ビームが尽きる前にッ!』


 ホワイトファイブは粒子ビームで司令部を焼きながら、銃口を傾ける。

 が、その途中で粒子ビームは威力を急激に落とし、消えてしまった。


『ホワイトテン!』

『依然稼働中!』

『クソッ!』


 悪態を吐いて圧縮粒子砲を投げ捨てるホワイトファイブを横目に、ビームに焼かれて出来た穴に飛び込む影があった。


『ホワイトエイト! なにをしている!』

『まだ止められる』

『一人で出来るかアホ!』

『だから勝手に……!』

『司令官、僕がサポートします!』


 ホワイトエイトを追ってホワイトファイブ、ホワイトシックスがクレンリス西部司令部の地下に飛び込んでいく。


『〜〜〜〜ッ!』


 通信機越しになにかを殴る音が途切れるのを聞きながら、三人は地下に見えるデルタを見つけた。


『ホントにあったのかよ……』

『エイト、ジェネレータから伸びるコードは狙えるか?』

『……的が小さすぎて当たらない』


 ホワイトエイトは何度も粒子収束型ライフルの引き金を引くが、その度に彈の威力が下がっているようで、終いには弾が出ることすらなくなった。


『僕のダガーで切るよ』


 いち早く着地したホワイトシックスは、高周波ダガーでコードを切っていく。ゼロセブンでなくても十分な威力で扱えるそれは、熱したナイフでバターを切るようにやすやすとコードを切っていく。


『……もしかして、シックスだけで十分だった?』

『言うな』


 手持ち無沙汰なホワイトファイブは、デルタの側面に埋め込まれた操作パネルを見つけスプリングのカメラアイでそれを確認する。


『発動まで残り百六十、百五十九……止まってないぞ!』

『は!?』

『シックスはエネルギーの供給を止めただけなんだ』


 言いながらホワイトエイトはスプリングから飛び降りるが、すぐになにか思い出したようで操縦席に戻っていった。


『……おい、なんだ今の』

『容量がなくてハッキングツールはアンストしてた』

『だからホワイトヘルメットは嫌なんだ!』


 ホワイトファイブは操作パネルをスプリングの踵で蹴りつけるが、液晶が割れただけでデルタが止まった様子はない。


『どうする!?』

『どうしようか……今こいつを壊すと、爆発で僕達は死ぬだろうね』

『そいつは最後の手段だ』

『司令官に聞こうにも、スプリングは飛べない……』

『飛べても多分間に合わない』

『…………』

『…………』

『…………』


 三人は黙り込んでしまうが、デルタは変わらず稼働を続けている。しかも、ホワイトファイブが液晶を割ってしまったせいでデルタが発動する正確な時間もわからなくなってしまった。


『……自爆するしかない』


 そう呟いたホワイトエイトの頭がホワイトファイブとホワイトシックスの二人に殴られた。


『馬鹿言うな。そういうのはゲームの中だけにしとけ』

『使い捨ての意地、見せてやろうよ』

『そうそ……おい、使い捨ては昔の話だろ』

『今もそう思われてるからこんなヘルメットなんだ』

『エイトおまっ……裏切り者!』


 言いかけて、ホワイトファイブはハッと頭を上げる。


『シックス、急いでデルタの留め具を切ってくれ』

『ん、了解』

『エイト、全力でデルタの頭持ち上げろ!』

『フォトンジェネレータ、出力全開!』


 ホワイトファイブとホワイトエイトはデルタの砲身を下から抱き抱えるように掴むと、スプリングの最大出力でデルタの頭を押し上げる。

 が、留め具を失ったデルタはあまりにも重く、スプリング二機でも支えるのでやっとだった。


『二人とも、大丈夫?』

『無理』

『重すぎ』


 二人の答えに苦笑しながら、ホワイトシックスもデルタを掴み最大出力で押し上げる。それでようやく、デルタは上を向き始めた。


 その時だった。


 前触れもなく、デルタから大質量の粒子ビームが撃ち出される。


『う、おお!』

『デルタのケツ壁に押し付けるぞ!』

『倒れそうなんだけど!』

『倒すなよ!』

『スプリングが……!』


 デルタがビームを撃つ反動を利用し、三人はどうにかデルタを壁際に押し付けることが出来た。


『悪い、もう駄目っぽい!』

『エイト!?』

『はぁ!?』


 ホワイトエイトのスプリングはデルタから離れると、パイロットをコックピットから吐き出して自己崩壊を始めてしまった。


『お前、どうした!?』

「右脚の接合部から粒子漏れ!」

『ナインに文句言ってやれ!』


 四十五度上に傾いた砲身はやはりスプリング二機で支えるのがやっとの様子で、ホワイトファイブの軽口から焦りが滲み出ている。


『コレ後どれくらい出るの……』

『俺は後三十秒でやばい』

『僕は五十』


 その言葉にホワイトファイブは乾いた笑いを漏らす。


『エイト』

「なに」

『俺達がいかに格好良く死んだか、最大限誇張して言いふらせよな』

『道連れやめてよね』

『バッカお前、一人で死んでたまるか』

「二人が死んだら俺も巻き込まれて死ぬと思うんだけど」

『どうにかしろ』

『無茶苦茶な』

『無茶を通すのがホワイト部隊だろ……って、悪ぃシックス、離脱する』


 そう言って、ホワイトファイブはホワイトエイトのように自己崩壊を始めたスプリングから放り出される。


『おまっ……このクズ野郎!』


 お人好しなところがあるホワイトシックスも、流石にホワイトファイブを罵倒する。


「俺だって死にたくねえよ!」

『そんなこと言ったって、これじゃあ自爆するしかないじゃないか!』

「しなきゃ良いだろ!」

『面子ってものがあるんだ!』


 ホワイトシックスの言葉に応えるように、彼のスプリングは装甲をパージし内部構造を露出させる。


「やべ! 隠れるぞ!」

「どこに?」

『隠れる場所なんてないだろ!』


 ホワイトエイトの質問を切り裂くように、一条の赤い光が降り注いだ。


 赤いソレは、地下の床を蹴るとホワイトスプリングの剥き出しになったコックピットブロックを掴み、乱暴に引き千切る。


「うわ、セブンじゃん」

『なんだその反応!? もっと喜べ!』


 ゼロセブンはスプリングを蹴り上げ、デルタに焼かせることで爆発を回避する。そしてホワイトシックスが乗り込んだコックピットブロックを掴んだまま、たった一機でデルタを支え始めた。


「だって薄々助けに来るだろうなとは思ってたし」

「根拠のない期待をするのは良くない」

「根拠は俺の勘で十分だろ。そう言うエイトだって全然慌ててなかったじゃんか」

「俺は死ぬ覚悟が出来ていた」

「バーカ、必要ねえよ、そんなモン」

『…………』


 二人の会話を聞き、ホワイトセブンは呆れたように溜め息を吐く。

 ヘルメットで隠れていたが、彼の顔には安堵の表情が浮かんでいた。






 およそ五分もの間照射され続けたデルタの粒子ビーム砲は、ホワイトファイブ達四人の尽力によりトトノヴィア領土を焼くことはなかった。

 しかし、その威力はあまりにも強く、デルタの生んだ白い光線はトトノヴィアのみならず周辺諸国の夜空に光の斜塔を作り出していた。


 後に【神罰の日】と呼ばれるようになったこの日を境に、世界の情勢は大きく変わり始めた。

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