第11話 銀の戦場―クレンリス―
ホワイト部隊が補給基地から出ていくのを確認しながら、司令官は艦長に命じて補給艦を離陸させる。
「私を降ろさないのかい?」
「降ろされたいですか?」
「なに、ここからでも指示は出せるさ」
スヴェンは手帳からピンマイクを取り出すと、トトノヴィアの部下達に指示を出し始めた。
それを見て司令官は席に着き、補給艦と接続されたバイザーを被り、口を開いた。
『――改めて作戦目標の確認をする。目標はデルタの停止、及び破壊。タイムリミットはわからないが、ギリギリまで敵に気付かれるなよ、ホワイトファイブ』
「俺ぇ!?」
『見つかれば敵はなりふり構わずデルタのエネルギー充填を最優先にするはずだ。もしデルタが発動すれば戦争は一気に加速する。それだけは避けなければならない』
「了解。ホワイトファイブ、雪の中を潜行する」
そう返し、長い砲身を持つ銃を抱えたホワイトファイブは雪の中に飛び込んだ。
ホワイトテンはホワイトセブンに担がれ、クレンリスとトトノヴィアの国境の北半分を分けるグレーリー山脈の中腹に下ろされていた。
『それじゃ、テンを頼んだぜ』
『おいセブン、早速忘れてるぞ!』
『あっ悪ぃ、助かる』
ホワイトセブンはホワイトナインから大型実体剣を受け取り背中に懸架すると、雪煙を立てることなく山を滑り降りていった。
当然、国境をまたがる山脈ということはクレンリス軍の監視カメラや自動防衛兵器などもあったのだが、それらは全てサイクロプスの目に支配され無力化されていた。
『ナイン、デルタって?』
ホワイトテンは内蔵したコードの限界までサイクロプスの目を伸ばしながら、隣に立つホワイトナインに首を向ける。
『超高濃度圧縮粒子砲、通称デルタ。クレンリスが中心になって開発してる大型の兵器で、まだ試作段階って話だけど……もしかしたら完成してることを黙ってたのかもね』
『バズーカ砲? ビーム砲?』
『それがわからないから司令官が焦ってるんだ。正直俺は、デルタなんてクレンリス側が流した混乱を招くための噂だと思ってるよ』
『司令官はそう思ってないみたいだけど』
『あの人は小さな可能性も捨てない人だから』
ホワイトテンによってリアルタイムで更新される戦場の地図を見ながら、ホワイトワン達は警戒巡回刷るノーバディの横を素通りしていく。
『ホンット、サイクロプスって凶悪だよね。仲間で良かった』
『雪とホワイトカラーのおかげだってことも忘れるな』
愉しそうに笑うホワイトフォーをホワイトスリーは苛立たしげにたしなめる。
その横で、突然方向転換したノーバディにホワイトエイトがぶつかりそうになったところをホワイトシックスがうまく後ろから抱き抱え、社交ダンスの要領で機体を回し接触を回避した。
『危なかったね』
『助かった。ありがとう』
『お前その動きどうにかなんねえのかよ』
『あっはは、面白くていいじゃん』
『良いわけあるか。気色悪過ぎる』
敵陣の中、彼等のスプリングはカメラアイを覆うカバーの開き具合を変えることで光信号の代わりとし、通信していた。
『こちらホワイトワン。間もなく敵基地軍に到達する』
『先行したホワイトファイブを除く六名はプランBを一時待機。ホワイトファイブは敵司令部から三キロ東でプランCまで待機。ホワイトセブン、オーセブン、ホワイトナイン及びホワイトテンはプランBを実行』
『了解』
『了解』
『りょーかい』
厚い雪雲の中から、赤い巨人が雪原に下り立った。それを確認し、クレンリス西部司令部のノーバディ達は動揺を示す。
『…………』
ゼロセブンは顔に光を走らせ、背中の大型実体剣を手前の地面に突き立てた。白銀の大剣は刃を半分ほど雪に埋めているが、それ故に尋常でないその大きさを際立たせていた。
『赤いトカゲだ!』
『どこにいる!?』
『ぎりぎりトトノヴィア領内です!』
『どこにいるかと聞いたんだ!』
『ボイントS254! 司令部から距離三千!』
『狼はどうした!?』
『確認出来ません!』
『陽動か……』
その通信を聞いて、ホワイトセブンは口笛を吹いた。
『やるねぇ……』
『ホワイトセブン、プラン開始時刻を過ぎています』
『わかってるよ。ホワイトセブン、敵ATLASの殲滅を開始する!』
『――――――――――――ッ!』
地面に突き立てた実体剣を引き抜くと、ゼロセブンは天に向かって吠える。
『なっ!?』
『クマの音響兵器!?』
『だからゼロ部隊は嫌なんだ! 総員、対閃光、対音響兵器防御用意! 近付かれるな!』
『中々の判断力!』
ゼロセブンは背部スラスターの出力を全開にし、雪煙を巻き上げながらノーバディ達に突進を仕掛けた。
ゼロセブンが逃げ惑うノーバディ達を大質量の剣で叩き斬っているその時、ホワイトワン達はクレンリス西部司令部近くの雪下で次の指示を待っていた。
『こちらホワイトテン。ブリキのおよそ半分がゼロセブンの対応にあたろうとしています』
『もう少し欲しかったが、仕方ない。ホワイトファイブ、圧縮粒子砲のエネルギー充填はどれくらいだ?』
『まだ三割』
『スプリングのドライブではこの程度か……。予定を変更して、充填が八割を超え次第各機プランCへ移行することとする』
『了解』
クレンリス西部司令部の地下三百メートル地点。そこに収容された超高濃度圧縮粒子砲デルタの操作をしながら、指揮官は苛立たしげに指の爪を噛んでいた。
「くそ、どいつもこいつも腐りきってやがる。いつからクレンリスはこんなに腑抜けになったんだ……」
『トカゲが尻尾からビーム砲を! ロイとシーベンがやられた!』
「だったら尻尾を斬るか射線に立つな! 粒子ビーム砲なんだからノーバディの粒子砲でどうにかしてみせろ!」
『なんて無茶な……!』
「死にたいのか?!」
怒声を上げながら、指揮官は四分の一ほど押し込まれていたレバーを限界まで押し込む。
その途端、デルタに繋がれた十基のフォトンジェネレータのうち稼働中だった五基の出力が目に見えて上がる。
「充填率八パーセント……九、よし。いい調子だ」
指揮官は腕時計の方位磁針からトトノヴィアの方角を割り出し、更にデルタ側面のパネルを操作し、砲門を回頭させる。
「射角調整、目標は東トトノヴィア軍総司令部。砲撃開始まで残り五分……よし」
呟いて、指揮官はデルタから駆け足で離れ地下まで降りるのに使ったノーバディに乗り込んだ。
『トカゲに突破されました! まっすぐ司令部に向かっています!』
「なんとしてでも止めろ!」
『雪の中かぁグ――ッ!』
「モグラか……数で叩きつぶ――」
その瞬間、搬入エレベーターで登り始めていた指揮官は、天井を貫いて撃ち下ろされた圧縮粒子ビーム砲によって搭乗していたATLASごと蒸発した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます