第7話 機械人形―オーセブン―

 頭と両腕、そして腹部以外はまともに人工皮膚が貼られていないオーセブンを見てホワイトセブンは言葉を失ってしまった。太ももなど前面部にしか皮膚がない。


「どうした? 君の大好きな美少女だろう?」

「オートマタはちょっと……」


 強張った声で呟かれた言葉にオーセブンは首を傾げる。


『私に不満がありますか、ホワイトセブン?』

「ああいや、少し驚いただけだ。一緒にゼロセブンに乗ってくれるんだろ?」

『はい。エネルギーコントロールは任せてください』

「頼りにしてる」


 ホワイトセブンは左手の甲でオーセブンのメカメカしい胸を軽く叩き、トリプルスリーに向き直る。


「マニュアルってのはどこ行けばらえるんだ?」

「君のために軍がホテルを予約していただろう? そこで待っていれば届くようになっている」

「じゃあ今日はもう帰っていいのか?」

 ホワイトセブンは驚いた様子で聞き返した。

「なんて言うか……」

「拍子抜けかい?」

「まあ、そんなところだ」


 その答えをトリプルスリーは愉しそうに笑う。


「今日はレクリエーションみたいな物だからね。君にゼロセブンを体験してもらうことが目的だって言わなかったかな?」

「覚えてない」

「だろうね」


 先のシミュレーションを思い出したのか、疲れた表情のホワイトセブンをトリプルスリーは愉しげに笑い飛ばす。


「今日はゆっくり休むといい。道中はオーセブンに守ってもらいたまえ」

『お任せください』

「……この格好で護衛させるのか?」

「他の皮膚はまだ調整中なのだよ。駆動系の調整に難航してね、三日前に中が出来上がって一昨日組み上がったばかりなんだ」

「なにで動いてんの? フォトン?」

『充電池です。二ヶ月に一度メンテナンスに出して電池パックの交換をお願いします』

「おう……」

「ほら、行った行った。君達だけでも予定通り動いて欲しいね!」


 納得がいかないと言いたげな表情をするホワイトセブンを蹴り飛ばし、トリプルスリーはクレーン車に乗ってきた部下達のもとへ駆けていく。


『では行きましょうか、ホワイトセブン。案内してください』


 オーセブンはどこから持ち出したのか灰色のヘルメットを被り、渋るホワイトセブンの背中を押して歩かせた。




 ホテルの一室でホワイトセブンがテレビ番組を観ていると、チャイムが鳴らされた。


『私が出ます』

「あー、頼む」


 オーセブンは立ち上がりかけたホワイトセブンを背後から押さえつけるように座らせ、部屋に入ったときに外したヘルメットを被り直してからドアを開けた。

 程なくして、紐を通してひとつにされた分厚い紙の束を抱えてオーセブンが戻ってくる。


「うわ」

『私は既にマニュアルをインストール済みなので、こちらはどうぞホワイトセブンの好きにお使いください』

「好きに、ねえ」


 ホワイトセブンは渡された資料の束をバサバサとめくり、ろくに流し見もしないままそれを放りベッドに寝転んだ。


「ゼロセブンのフォトンジェネレータは最大出力にすると百倍のエネルギーが生まれるんだったか」

『はい。通常のATLASは基準値の十倍までしかエネルギーゲインはありません』

「エネルギーを武器に転用出来たりするのか?」

『出来はしますが、基準値の十倍を超えると武器が耐えられません』

「宝の持ち腐れじゃないか……」


 ホワイトセブンは息を吐いてから体を起こし、今度はゆっくりと紙の束をめくり始める。


「……流石に、エイトにわかってトリプルスリーにわからないなんてことはないか」

『エイトとは誰です?』

「弟みたいなやつ」

『弟……トリプルスリーがホワイトセブンのことを弟みたいなやつと教えてくれました。私にとってもホワイトセブンは弟ですか?』

「なにお前、弟欲しいの?」


 おかしそうに笑うホワイトセブンの言葉にオーセブンは首を横に振る。


『私はホワイトセブンとどのように接すればより良いのかわかりかねているのです。姉のように振舞えと言われたら困りますが』

「どうせ参考資料はトリプルスリーだろ……」


 その呟きに肩をすくめるオーセブンを見て、ホワイトセブンは顔をしかめながら小さく舌を出した。


『そんなことよりホワイトセブン、もうすぐディナーの時間です。明日のために栄養補給はきちんとしておかなければなりませんよ』

「今マニュアル読んでるから待ってくれ」

『区切りの良いところで止めにしてくださいね。間に合わなくなっても文句は受け付けませんよ』

「わかったから少し黙っててくれ」


 キツい語調で言われ傷付いたのか、オーセブンはわざわざ部屋の隅に移動してから膝を抱え動かなくなった。


「あーもう、わかったよ」


 わざわざ視界に入るような位置で膝を抱えるオーセブンにホワイトセブンは呆れた様子で溜め息を吐いた。


「夕飯食いに行くか」

『ええ、すぐに向かいましょう』


 言い終わるよりも早くオーセブンは立ち上がり、部屋の鍵を持って廊下に出る。


「いやお前も…………はぁ……。トリプルスリーの趣味だな」


 ホワイトセブンは小さく呟いて、オーセブンを追って廊下に出た。

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