第6話 休息―ミーティング―
二時間ほどのシミュレーションを終え、ホワイトセブンはどこか疲れた顔でATLAS試験場を後にした。彼の側にトリプルスリーの姿はない。
ホワイトセブンはなにか独り言を呟くでもなく、疲れた表情のまま皇国軍司令本部を出てひたすら無言で歩き続けていた。
「あれ、セブンじゃん」
「あ?」
名前を呼ばれ、ホワイトセブンは反射的に声を上げながら声がした方に顔を向ける。
「お前こんなとこでなにしてんの?」
そこには、買い物袋を肩から提げるホワイトナインの姿があった。彼から少し離れた場所でホワイトシックスがはしゃぎまくるホワイトテンと無表情で立っているだけのホワイトエイトの面倒を見ていた。
「……そりゃ俺のセリフだろ。お前等こんなとこでなに遊んでんだ?」
「バーカ、買い出しだ、買い出し。ほら、見りゃ分かんだろ」
「…………」
肩に提げた買い物袋を揺らすホワイトナイン。ホワイトセブンはなにか小さく呟きながらこめかみを指で押さえた。
「そういうセブンはなにしてんだよ。本部に呼び出されたんだろ?」
「ああ……『ATLAS壊し過ぎだ』なんて怒られて、シミュレーション訓練受けさせられてる。今は休憩中」
「シミュレーション訓練!? あっはは! そりゃ傑作だなぁ!」
「るせ」
馬鹿にして笑うホワイトナインに苛立ちながらも、ホワイトセブンは本当のことを口にはしなかった。ゼロセブンの調整が上手くいっていないことは指揮の低下につながる恐れがあるため、機密事項とされているのだ。
「買い出しってことは、他の奴らも此処に来てるのか?」
「いや、俺達四人と、あとファイブ」
「ファイブは……女に会いに行ってるのか」
「そそ。今回は何ヶ月で振られるのやら」
その言葉にホワイトセブンとホワイトナインは顔を見合わせてニヤリと笑う。
「オペレーターだって美人揃いなのにな。わざわざ会い辛い一般人を選ぶなんて、あいつ相当夢見がちだよな」
「言ってやるな。男はいつになっても子供みたいに叶わない夢を見たがるんだよ。それに、オペレーターなんて手を付けられてるのしかいないだろ?」
「あー、そういう……。ホントに俺より年上なんかな、ファイブ」
「一応ウチのエースなんだから多目に見てやろうや」
ホワイトナインの呆れ顔を見てホワイトセブンはカラカラと愉快そうに笑った。
そんな二人にようやく気付いたようで、ホワイトシックス達三人がホワイトセブン達のもとにやってくる。
「セブンじゃん。なにしてんの?」
「ATLAS壊し過ぎた罰にシミュレーション訓練させられてて、今は休憩中だと」
「なにそれ? そんなことさせられてたの?」
ホワイトテンはおかしそうにホワイトセブンを笑う。
「どう? 上手くやれてる?」
「新米がやるようなシミュレーション訓練だから楽っちゃ楽だけど、スプリング以外のもやらされてるから量が多いんだよ」
「あー、セブンは全部に適性があるからね」
「始めの方なんか同じこと何度も聞かされて頭おかしくなりそうだ」
自嘲気味に言うホワイトセブンをホワイトナインとホワイトテンは笑う。それに混ざって苦笑しながら、ホワイトシックスは腕時計をちらりと確認した。
「昼休みだとしたら、もうそろそろ時間じゃないか?」
「今何時だ?」
「十二時半」
「あー」
ホワイトセブンは頭を掻きながら皇国の軍司令本部の方に視線を向ける。
「もうそんな時間か……」
「なに? もしかしてまだ昼食を摂ってないの?」
ホワイトシックスの言葉にホワイトセブンは「ああ」とだけ頷く。
「食欲がねえんだ」
「……ATLAS酔い?」
「かもな」
「ふーん」
ホワイトエイトは質問しておきながら興味なさそうに答えを聞き流し、両手に持っていたジュースのストローに口を付けた。
「セブンにしては珍しいね」
「G無しに視界だけアホみたいに動くから、脳味噌が混乱してんだ」
「……出力は無理に上げる必要はないと思うよ」
「は? 急にどうしたよ?」
ホワイトセブンは唐突なホワイトエイトの助言に小さく首を傾げる。それに構わず、ホワイトエイトはストローを甘く咥えたまま言葉を続けた。
「高い出力の機体を無理にコントロールしようとしないで、扱いやすい出力で良いと思う。あの馬鹿みたいなエネルギーは機体じゃなくて、武装に回すべきじゃないかな」
「…………」
「なんの話?」
「……サマーの話」
ホワイトテンの問いにホワイトエイトはジュースを一口飲んでから答えた。
「サマーって、ライオン? クマ?」
「クマ。ライオンはオータム」
「へー」
「サマーは大きな図体を利用して機体の色んなところにコンデンサーを隠してて、長期運用に適したスプリングとは真逆の機体だよ」
「じゃあオータムは?」
「オータムには雄型と雌型があって、雄は四足のサポート特化、雌は二足の戦闘特化。他の機体は光の点滅で通信するけど、オータムだけは光の強弱で通信するから味方にも何言ってるかわかんないんだ」
「変なの」
「光で敵の目を潰すことしか考えてないからね。もしかしたら世話になるときが来るかもよ?」
「セブンしか操縦できないでしょ」
ホワイトシックス達の会話を聞きながら、ホワイトセブンは何度も頷いていた。
「……なるほどな」
「ん? どしたの」
ホワイトテンの問いに答えたつもりなのか、ホワイトセブンは首を横に振る。
「いや、参考になった。ありがとな」
「それじゃ」と言い残し、ホワイトセブンは駆け足で軍司令本部へ帰っていった。
「……元気になったみたいで良かったね」
「そうだね」
「これで少し反省してくれると良いけど」
「ん」
彼の背中を見送り、ホワイトシックス達は商店街に向けて歩き出した。
ホワイトセブンがATLAS試験場に戻ると、既にトリプルスリーがゼロセブンの脇に立っていた。彼女は電子端末を片手に、数人の部下達に指示を飛ばしている。
「悪い、遅れた」
ホワイトセブンが駆け足気味に近寄ると、トリプルスリーは彼を一瞥だけしてまた部下達に指示を始めたので、ホワイトセブンはそれを黙って眺めることにした。
「装甲は外せるところ全部外して、間違ってもジェネレータを外すんじゃないよ?」
「クレーンまだ来ないのか!?」
「上の許可がまだ下りないんだと!」
「半月も待ってるんだ、行くぞお前等!」
「ゼロセブンの戦闘システムの更新は終わった?」
「終わりました。武装との同期は確認できていません」
「オーセブンとの同期は?」
「問題ありません」
「ヨシ。お前等ぁ! 手が空いた奴から整備班の援護に回れぇ!」
「よっしゃ!」
トリプルスリーの号令を受け、何人かが駆け出していった。それを見送ることなく、トリプルスリーはホワイトセブンに目を向ける。
「待たせたね」
「俺はなにすりゃ良いんだ?」
「今日はオーセブンと一緒にマニュアル読んで、予定通り行けば明日からが本番さ」
「そのオーセブンってのは?」
「君の相棒さ。……オーセブン、降りておいで!」
トリプルスリーがゼロセブンのコックピットに向かって呼びかけると、中から少女が飛び降りてきた。
「オーセブン、このパッとしない男が君の相棒のホワイトセブンだ」
『初めまして、ホワイトセブン。私はオーセブン。あなたのサポートを任されています』
「…………」
『ホワイトセブン? 体調が優れないのですか?」
オーセブンと名乗った少女は、体を構成する機械類が体のあちこちから露出した、いわゆるオートマタの姿をしていた。
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