第3話 帰還―ソラノタビ―
ホワイトエイト達が補給基地へ帰投すると、パイロットスーツではなく白い制服を着た司令官の位に就く若い男が彼等を迎えた。
男は出迎えの言葉や笑顔を投げかけるわけでもなく、ただ黙って腕を組みホワイトスプリング達を睨んでいた。
『ありゃ相当怒ってるぜ、エイト』
ホワイトファイブが光信号でホワイトエイトに話しかけてくる。
『お前が勝手なことしたからじゃないのか?』
「ホワイト部隊のヘルメットは容量が少な過ぎる。システム書き換えソフトのせいで機体とリンク出来なかった。俺は最善を尽くしたつもりだ」
『ははっ、あの司令官殿にも言ってやれよ』
「言えたら苦労しない」
ホワイトエイトは溜め息を吐きながら機体をクレーンに吊るされる。
『全機収艦完了。ハッチ閉鎖します』
大袈裟な警報を聞き流しながら、ホワイトエイトは体を固定していたベルトを外しコックピットから顔を出す。
「よう、調子良さそうだな」
機体を壊されて先に撤退していたホワイトセブンがスプリングから降りてきたホワイトエイトの肩を叩き給水ボトルを渡す。
「そう見えるか?」
「見えないけど、あんな無茶させられて一人も死ななかったんだ、俺達は良くやったよ」
「司令官殿はそう思ってないようだけどな」
ホワイトエイトはヘルメットを外し、給水ボトルのストローに口を付けた。
「皇子様はコンピューターとしか友達になれないからな、俺達兵士のことなんて使い勝手の悪い駒としか思ってないんだよ」
そんなことを言いながらホワイトファイブはホワイトエイトからボトルを奪い、一息に残りを飲み干した。
「おい」
「今日も俺がキルリーダーだ、文句ねえだろ」
「俺は別のプランの影響で本調子じゃなかった」
「戦場じゃ卑怯な奴が生き残るんだよ。これ捨てといてくれ」
ホワイトファイブに空のボトルを押し付けられてホワイトエイトは不満そうにむくれるが、司令官に睨まれていることに気付くと表情を消し、仲間と共に整列した。
「ホワイト部隊、帰還いたしました!」
ホワイトワンの敬礼に合わせ、彼の後ろに並ぶ九人の男達も一糸乱れぬ動きで敬礼する。
「プランAからDまで、ホワイト部隊の損害はスプリング二機と右脚部ひとつ、そしてサイクロプスの目が六十。欠員はありません」
「……詳しくは各自の報告書で確認する」
「はっ!」
司令官がドアの向こうに消えるのとほぼ同時に、再び補給基地内に大袈裟な警報が響きだした。
『三百秒後、第一及び第二補給基地は離陸します。各員離陸準備を行ってください』
「……だとよ。急いでミーティングルームへ行くか」
「そうすっか」
「あれ? ツー、お酒は?」
「……しまった、コックピットに忘れてきた」
「お前、精密機器だぞ? わかってんのか?」
「わかってるって」
「エイト、ちょっとヘルメット貸してくれ」
「参考にはならないはずだけど」
「え? あー、そっか。お前いなかったもんな」
「俺が貸してやろうか」
「ファイブのは良い。自分でやる」
「はははっ!」
ホワイト部隊の十人は皆一様に慣れた様子でドック近くのミーティングルームへ入っていった。
離陸後のミーティングルームでは、男十人が顔を向き合わせて手前に置いたヘルメットを指で叩いているという、奇妙な光景が見られた。
「あー、終わった……」
「随分と早いね……って、これは短すぎるでしょ。セブンが最初に自己崩壊させたんだからもっと書いときなって」
「シックスだって自己崩壊させただろー」
「セブンを庇ってね」
「……はいはい、俺が悪かったよ」
彼等の視線の先にあるのはホログラムの画面で、ヘルメットはキーボード代わりだった。
「そう言えば、なんで今回は武装していかなかったんだ?」
「お前、作戦前のミーティングでなにを聞いていたんだ? ん?」
「いや、聞いてたけど忘れたんだって。なんだっけ、音がするからだったか?」
「覚えてるじゃないか」
「今思い出した。それにしても、まさかValkyrie達があんなに強くなってるとは思わなかったな、驚いた」
「確かに強かった」
ホワイトナインの言葉にホワイトファイブが同意する。
「連携が出来てたよな。今までは狙撃手なんていなかったのに、それが三人も」
「何十キロって離れた場所からボクの目を撃ち抜いてたよね」
「粒子砲?」
「実弾だった」
「やば。それが三人だろ?」
「そうそう、皆精確に撃ち抜いてきてさ」
「腹減ったー!」
突然、ホワイトナインの声がホワイトファイブとホワイトテンの会話を断ち切る。
「なにこれ、消費した粒子量とか書く必要ある?」
「いつも書かないで怒られてるだろ」
「弾薬数ならわかるけど、粒子なんていくらでも作れるじゃん。こんなデータ寄越されても整備とか補給に全然関係ないだろって愚痴聞かされるの俺なんだよ?」
「あー、なんか、フォトンジェネレータの粒子は人体に影響があるとかないとかニュースになってなかったか? それだろ」
「馬鹿かお前は。ジェネレータん中で核融合と核分解してるんだから当たり前だろうが。つうか、それ以前から消費粒子量のデータは取られてただろ」
「あそっか」
「セブンは話に参加しなくていいよ」
「なんだとぅ!? それが仲間に対する態度か!?」
「うるさいな、いつもいつも機体壊して! 量産機だからって扱いが雑過ぎるんだよ!」
「量産機なんだから良いだろ!」
「鉱物資源だって無限じゃないし量産機一機作るのにもすごい金がかかるってわかってる!? わかってないよね!」
「わかってらあ!」
「いーや、わかってない!」
ホワイトセブンとホワイトナインが立ち上がり、ホワイトエイトを挟んで彼の頭上で取っ組み合いを始めてしまった。
「あーまた二人は!」
「それ前にもやったでしょ」
ホワイトテンとホワイトシックスは呆れ顔で立ち上がり、取っ組み合う二人を引き剥がそうと四苦八苦し始める。
「やめなって、ほら!」
「エイトも黙ってないでなんとか言いなよ」
「…………」
「いやなんか言ってよ」
「俺は別に迷惑していない」
「ボク達は迷惑してるの!」
「…………悪い」
ホワイトエイトがぽつりと呟くと、部屋の中は一瞬静まり返った。
「ほら、馬鹿二人のせいで全然関係ないエイトが謝っちゃったよ? ん?」
ホログラムの画面から視線を外し、ホワイトフォーはホワイトセブンとホワイトナインに笑みを向ける。それに怯んだようで、ホワイトセブンとホワイトナインは取っ組み合いをやめ、弱々しく腰を下ろした。
「……悪い、エイト」
「ごめん」
二人に謝られ、ホワイトエイトは困惑したように笑う。
「いいよ、二人の喧嘩見てると、帰ってきたって感じするし」
「……喧嘩したくてしてるわけじゃないんだけど」
「俺はスリーの飯食った時が一番帰ってきたって感じがするな」
「じゃあお前はもう俺の飯を食うな」
「ひでぇ!?」
「あ、じゃあボクがご飯作ってあげようか?」
「えぇー?」
ホワイトテンの提案にホワイトセブンは嫌そうな表情を見せる。
「お前の料理って……あれから上手くなったのか?」
「なったよ」
「普通に美味かった」
「ほら」
「いや、ツーの舌はあてにならないだろ」
「ふふっ」
笑い声を漏らしたホワイトフォーはホワイトツーに睨まれるが、知らん顔をして報告書の製作を続ける。
それを見て苦笑してから、ホワイトワンが口を開いた。
「スリーには負けるが、テンもだいぶ料理作れるようになってきたのは確かだ」
「ほら! ほらね! リーダーもそう言ってるよ!」
「ほーう、なら帰ったら早速作ってもらおうじゃないか」
「ちゃんと報告書が書けたらね」
「あははははははっ!」
ホワイトテンの返しに堪えきれなかったようで、ホワイトフォーは大声を上げて笑う。
「うくく……テンのほうが一枚上手だったね、セブン」
「るせ」
唇を尖らせながらヘルメットを叩き始めるホワイトセブンを見て、ホワイトフォー以外の皆も思わず笑いだしてしまった。
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