第3話

 何もかもが、いきなりんだ。

 こんな白い世界で目覚めたり、神様の存在を信じるかと訊かれたり、わからないことだらけだ。


「まずあなたに謝りたかったの。本当なら、もっと違う人生を送れるはずだったのに、運命の力が強すぎて」

「あの、ごめん、どういうこと?つまり……僕が死んだのは、君のミス、みたいなことを言いたいの?」

「そうなの」

 頭を下げたまま目の前の、神様の遣い?だとかの人が言う。

「あなたはあそこで死ぬはずではなかった。ううん、死んじゃいけなかったの。あなたの家族はお姉さんを死なせたから、今後50年は誰も死ぬ予定がなかったのに」

「いや、でもさ。僕もまだよくわかっていないけど、君が僕を殺したわけじゃあないんだろ?直接手を下したわけじゃないんだ。そんなに泣かないでもさ。

 ……いいんじゃない?」


 まだ泣き止まないな。どうしたものか。


 いや……、でもちょっと待てよ。

「ごめん。あのさ、さっきの……、姉さんを死なせたって、どういうこと?」

 大きく鼻をすすり、(神の遣いと言ったってこういうところは普通の人と変わらないんだな)彼女は申し訳なさそうに言った。


「私たちの間でも意見は分かれたんだけど……。

 本当ならあなたの両親は、二人とも事故死する運命だったの。私たちが何も手を加えなければね」


 何を言ってるのかわからない。


「だけどその後、あなたたち残された3人の子供はどう手を加えても、度を越えた不幸の中死んでしまうの。

 いつものことなら、いくらでも運命を変えることはできるはずなのに、どのルートを選んでも両親の死をきっかけに一家全員が不幸になって、しかも早死にしてしまう運命から変えれなかったの。

 これはいくらなんでもっていうことで、私もたくさん試してみたの。それでもだめだったんだ。

 私の地位では詳しいことは把握できなかったんだけど、どうやら前世の縛りとか色んな要素が絡み合ってしまったみたいで……。もしかしたら私の前任者かその上の人かが運命を、その予測をいじったのか、前代未聞のことで、まだ何もわかってないのだけど……」


「だから姉さんを殺したってこと?」

 下を向いたまま、肯定も否定も、何の返事も返ってこない。


「本当なら、そんな結果が出てきたのならだれも、その家族のだれをも死なせずに、ほかで帳尻ちょうじりを合わせるのだけど……。

 どうしてかは……、ごめんなさい。私も知らされていないの。あなた達の家族の中での死が必要だっていうの。それを外すことは、どうしてもできないと。

 それで、私、いろんな人に相談したの。こんなことは今まであり得なかったから。だけど最高の解決なんてできなくて……。

 色々と考え抜いた結果、私のリーダーがあなたのお姉さんを死なせることにした。でもねあの、そのリーダーもそんな決断したくはなかったの。それでも……、他にどうすることもできなかったから……」


 怒りがわいてきた。だけどその怒りを目の前の少女にぶつけていいものなのか、それともこの感情がただのわがままなのか、よくわからない。

 ただ、悔しかった。姉さんが死んだということが。


 あの日、僕が死ねばよかったと何度思ったことか。代わってやれたならと。


「リーダーっていうのは、つまりは……、神様みたいな人ってこと?」

「あ、その違うの。ごめんね、まだ説明しなきゃいけないことがいっぱいあって……」

 目の前の少女は手をもじもじさせたまま、さっきとは違い僕に目を合わせないまま話し続ける。

「私はという部隊の一員なの。何て説明すればいいか……。

 あなたたちが想像する神様みたいなものの下に、たっくさん枝分かれした班、部署、チーム、そんなものがあると思って。みんながこの世界の保守のために動いているの。その中の一つが私が所属しているハーモニーという集まりなのね。

 それで、えっとね。その中で私たちをまとめてくれているのがさっき話したリーダーなの」

 いまだにもじもじしながら、何かを考えているみたいだが、うまくこちらに伝わってこない。

 小さな声で「誰も悪いわけじゃないんだけど……」と、誰かをかばおうとして、遠慮して言葉を選んでいるみたいだ。


「やっぱり、あなたじゃ説明は無理ね」


 急に後ろから声が聞こえた。


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