第 弐拾漆 輪【女の勘】
翌朝。
ついにやって来た門出の日。
桜香は合格という言葉を何度も確認しては、舞い踊りながら機嫌良さそうに団子を頬張る。
楓美は寝不足気味で少しだけ目を擦っていたが、今は笑顔が似合う晴れやかな表情をしていた。
「いってらっしゃ~い、体調にはくれぐれも気を付けるのよ〜」
「何から何まで本当にありがとうございました。またお団子とかお菓子とか色々食べに来ますからね!」
「必ずまた寄らしてもらいますです! また会うその時までお互いに健康でいましょ!」
二階から身体を乗り出す
二人共にちょっとだけ
騒がしい雰囲気から一転した部屋を見て物寂しそうに息を吐く。
「あの賑わいがちゅっぴり恋しくなっちゃうわ〜。ねぇ、貴女もそう思うでしょ……?」
「えぇ、そうですね。実際に拝見してもなお信じられません。まさか
振り返るとそこには由空が正座をしており感慨深そうに一点を見つめている。
「誰もが見惚れてしまうほどの代物と呼ばれ、それが刀身を見ずとも分かるって何だか不思議よね。國酉ちゃん曰く現役当時の〝華技〟も仕込まれているみたい」
故人に敬意を払いながら鞘越しに撫でながら呟いた。
「これが全てにおいて
三月とは同期であったが由空よりも才覚があったため、齢二十にして最年少の四季折々に任命されていた。
しばしの偲び物思いに耽る時間が流れる――。
数分後、靜恵が十段にも上る重箱を片手づつ順番に由空の左右に置く。
「丁度、あの子達のお弁当の余りが此処にあるんだけど、私達もたまにはお出掛けしてみない?」
「気が向いたら行きたいところですが、
「もう、
眉一つ動揺しない素振りを見ながら茶を前に出すと、立ち込める湯気が表情を少しだけ曇らせた。
けれども、靜恵の笑みは変わらず一挙一動を黙って見つめている。
「〝花鳥風月〟と言う肩書きだけの老いぼれ二人には、極僅かな期待さえしていません。ただ……気になるのです。この先で我々が如何にして抗えるのかを」
「まぁま、強がっちゃって。貴女もまだ若いんだから少しだけ肩の力を抜きなさいな。考えすぎは毒って言うでしょ?」
その一言に少々だけ考えたのか右手を器の形にして愛用の扇子を開く。
息もつかぬ速さで瞬時に閉じたかと思えば、
「そうですね。すみませんが、この
「きゅ〜きゅっ! きゅ〜いっ、きゅ〜いぃ!!」
どうやら例の一件から大変懐かれたようで行動を共にしているようだった。
嬉しさのあまり飛び回る七ちゃんと淡々と説明する由空に、同じく冷静に応対する靜恵。
「あら、今どき珍しいわね。星柄付きの益虫なんて」
「この子をご存知で? 初めは殺す手前まで行きましたが害がなければ愛しさえ覚えます」
「私が幼い時に見たことある位で、こんなに小さなお嬢ちゃんでは無かったわよ? さぁさ、お茶が冷めちゃいますからこの話はこれまで!」
「では、頂戴しますね」
気分ではなくてもせっかく出されたのだから、と渋々口に含みながら思う。
(此度の試験は國酉の報告にあった南側周辺……実戦経験のある
2階から覗くのは内と外の一枚隔てた窓辺からの景色。
その
いつもと何ら変哲もなく生きることに疲弊した自身と、活々とした人間らしい風情達であった。
大海に垂らされる
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