第 弐拾弐 輪【本当の自分は他人では分からないけ】
帰郷した彼女の活躍により徐々に日常が戻りつつあるのに対して、少数派だが良く思わない人間も少なからずいる。
植魔虫に怯えたり命を落とす事態も減り、血を流す機会が減った事が主な原因だった。
やり場のない怒りや、当たり所のない気持ちを抱える村人達。
必然的に〝守られている〟と言う、認識が薄れ始めていく。
そのせいか誹謗中傷を伴う陰口は、日常茶飯事に行われていた。
同じ村内の互いに見知った顔でありながら、わざと本人に聞こえる様な声でだ。
村長の前では口を慎みつつも、他の人目や老若男女は一切問わない。
「あぁ、村長の孫娘か。数年振りに戻ったと思えば、〝花の守り人〟になった位で何を偉そうに……」
「この辺り一帯を1人で守る何て絶対に無理よ。いざとなったら、自分の命欲しさに切り捨てるに決まってるわ」
「刀の所持を認められているからこそ、〝暴徒〟になったら恐くて外も歩けないな」
平和ボケに慣れ〝安全圏〟で
他より秀でた数少ない才能の持ち主は、多数派である周囲の理解を得にくい。
帰郷以前よりも被害人数を最小限に抑えながらも、浜悠への非難は鳴り止まぬ声となって耳に届く。
「大した実力もないのに、口だけの法螺吹きも良い所だわ。村長の孫娘だからっていい気にならないことね」
「どうせ守ってもらうなら、準最高位の〝花鳥風月〟が良かったぜ!!」
「あぁそうだな。小娘如きの中途半端な実力じゃ、明日も生きられるか分からねぇからな?」
虚ろな目でそう言った人間達は、決まって昼夜問わず酒を飲み干し、目的なく1日を過ごす。
働きもせず愚痴を四六時中溢し、貴重な作物を私欲がために消費するばかり。
まるで、己が世界の中心であるかのように、大手を振るう日々の繰り返しだった。
それでも村を守るための努力を惜しまない浜悠は、文句の1つも口に出さず心穏やかに日々の〝狩り〟に励む。
〝植魔虫〟が活発になる朝では、温かな陽光を待たずして誰よりも早く起き。
月夜の森が静まり返った時でさえ、〝夜型の個体〟を探しに森中を駆け。
生憎の荒天になろうとも一睡もせず、食糖も口にしない日等ざらにあった。
疲弊しきった体に鞭を打ちながらも、休む暇なく〝他のため〟に命を賭す日々。
それに伴い、生傷絶えぬ肉体と磨り減る精神と、幼い弟を一人にする後ろめたさ。
まだ齢16前後の少女にかかる〝命〟の重圧は、淡々と過ごす人々には誰も計り知れない。
想い半ばに救えない命あれば、自身を攻め立てる事も心内であった。
私に〝才能〟がないために――
私に〝勇気〟がないために――
私が〝力不足〟がために――
私が〝帰ってきた〟がために――
百合の様な白き髪色は、極度の疲労と緊張で、その美しい輝きを失いつつあった。
自宅へ帰るのは昼夜問わずの不定期であり、〝家族とも顔を合わしたのはいつ振りか〟……と考える事もしばしば。
まだ幼い弟は村長である祖父に見守られながらも、姉の知らないうちに元気に成長をしている。
初めて顔を見た日から、この世の癒しを凝縮した様な弟の虜になり、両親亡き後も頼りになるただ一人の姉であり続けた。
とてもじゃないが〝理想〟とは駆け離れている
もし、願うならば命懸けの戦場で刀を振るわない〝普通の女性〟でありたかった。
だが、それは叶わぬ夢であり〝花の守り人〟としての責務は、己を犠牲にしてでも他を守る事。
どんなに辛く、苦しくとも、心の拠り所は実の弟である〝青葉〟の存在が大きく。
体の傷は治癒せずとも、病んだ心を少なからず癒してくれた。
弱い部分を外へ
全ては生まれ育った地を守りたいがためでしかなかった。
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