第 弐 輪【静寂な月夜に蠢く異形】
心が不安定ながら家を飛び出し、月が映る
それでも
熱中しやすく負けん気が強い子と、今でも祖父によく言われている。
そこが彼女の良いところであり、欠点でもあると祖父は知っていた。
しかし、孫娘に嫌われたくないのであまり指摘せずにいた。
だが、その見守るが故の愛情が、後に命取りとなりえる。
背後に忍び寄る気配に対し、
通常の
よって、夜には睡眠を取る種や動きが鈍い者が多数だが、不幸にも奴らは違った。
〝
体長は二十cm程の小柄で日中は土の中へ隠れているため発見がされづらい。
寄生が出来ていない
地べたを這いずり回って行動をし鋭利な無数の牙で人へ噛みつく。
奇怪な見た目は月明かりに照らされた
地中から出たばかりで体力のない幼虫は、捕食体勢に入ると、奇妙に体をうねらせる。
関節の無い上半身を
その時だった――
何者かが周囲の草花を踏みつけ勢い良く走り抜ける音がした。
怒鳴り散らしながら草影から飛び出たその者は、長めの小枝の様な物体を
「いやあぁぁぁぁあっ!!
突如として現れた、祖父である
突然の怒声に驚いた桜香は、よろめきそうになりながらも、体勢を立て直しながら口を開いた。
『お祖父ちゃん!! その刀……!?』
「ふんっ!! 儂とて昔は、〝花の
事実――〝花の
よって、初撃こそ有効打に見えた一撃さえ効かぬまま、
祖父は孫娘を逃がすために自らを餌にして時間を稼ぐ他、生き残る手段はないと考えていた。
「儂はもう耐えられん!! 母の刀を持って町へ行けっ!! 桜香――元気でな……」
桜香自身、異形の生物のせいで頭は混乱し、涙で視界が歪んだせいでまともな思考が出来ずにいた。
「そんな事出来ないよ……私だって……」と言いながらも、対処が出来ない自らを呪った。
だが、絶望の
娘を託された者として――一人の見守る責務のある男として。
「早く
月明かりで浮き彫りになる祖父の瞳からは、悲しみに満ちた思いのせいか落涙し、頬を伝って暗闇へと消えた。
重すぎる〝刀〟を胸に抱き、息を切らしながらも桜香は視界が歪む中、必死に森の中を走っていた。
足元を
怖い。逃げたい。助けて――と、そんな考えが頭の中を
枝等により服は引き裂かれ、露出した肌には無数の傷痕が出来たが、唇を噛み締める事により、ひたすらに前を向いて進んだ。
〝逃げろ〟と言ってから、一体どれだけの時が流れただろうか?
永遠にも感じられたそれは、動かぬ祖父を頭部から食す〝植魔虫〟を見て、忘れたように再び動き出した。
手にしていた筈の
目の前の食事に夢中になっている植魔虫には、
立ち尽くす少女は走馬灯が頭の中へ駆け巡る様に、幼き頃の
「あのね、お祖父ちゃんさ。お母さんの〝刀〟って見たことあるの? 強く引っ張っても全然抜けないんだけど……」
余程、力ずくで抜こうとしたのか
すると、始めこそ鳩が豆鉄砲をくらった様な顔をしていたが、直ぐ様切り替えて今度は豪快に
「がはははっ!! そんな力ずくじゃ無理な話だよ。〝
「じゃあ、一生見れないじゃん……お祖父ちゃんは見たことあるの?」
「あぁ、あるとも。儂が見た中では、この世で一番美しい刀だったよ」
「いいなっいいなっ!! 私もいつか見れるかな?……」
床に置いた刀を飛び跳ねながら、嬉しそうに眺める
「あぁ見れるとも―
「うんっ!! 大きくなったら、お母さんやお父さん達みたいに、沢山の人を笑顔にするそんな大人になるんだっ!!」
幼き桜香には、母の形見である〝刀〟は魅力的に映っており、ただ純粋で真っ直ぐな桜色の瞳に映る景色は、一切の曇りや迷いすらもなかった。
「そうか、偉いぞ。じゃぁ約束しようか? もし――抜刀出来たら、
「うんっわかった!!約束っ――」
胸を撫で下ろす様な、落ち着き振りの理由は至極単純である。
持ち主以外、決して抜刀出来ないと知っていたから。
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