陽炎の弟子/第四幕.ⅲ

 その日の夜。――第一兵舎二階・男子部屋。

 すでに就寝時間は過ぎ、部屋には規則正しい寝息、いびきなどが聴こえるだけ。

 しかし、この暗闇と寝台ベッドが並べられた狭い隙間の中を狐、烏、河童の能面を被った者たちが役目を果たすため、動いていた。

 黄金の鞘が彼らの目標となる人物の目印。その居場所はこんな暗闇の中でもよくわかった。


「……さすが、炎斎の刀! 綺麗だなぁ」


 河童は小声で刀を称賛する。

「しかし、よくこんな刀を持ち歩けるものだな」

 今度は狐が呟いた。

「感心してる場合か! はやく、この方が仙道さまの遺児かどうかの証拠を見つけて――」

 烏が言った、その時だ。


「なにをしているんですか?」


 三人は反応する間もなく、身動きひとつできなかった。

 気配、足音、悲鳴――誰にも気づかれず、能面をつけた三人は昏倒させられ、外へと運び出される。あっという間の出来事であった。

 リクは慣れた手つきで、彼らの身体検査を行う。すぐさま、拳銃が見つかった。


紅炎式ぐえんしき八ミリ大型拳銃……)


 弾倉と銃弾を確認する。それは倉庫から消えた物であった。

 リクはなにも言わず、狐からすべてをはぎ取った。そして、彼の鳩尾みぞおちを一発。

「がはっ!」

 狐の面を被っていた男の意識が戻る。彼は激しく咳き込み、

「ひっ!」

 怯えた。

「目的はなんですか?」

 リクは尋ねるが、男は質問に答えることなく、自身の疑問をぶつけた。

「あ、あなたさまは三人官女・仙道さまの遺児なのですか?」

 リクは男の言葉を無視し、手痛い仕置きをしてやる。


「――――っ!!」


 男は激痛のあまり、声なき悲鳴を上げる。彼は悶絶した。

 はぁ、はぁ……息切れを起こし、と口を動かすが、声は出ない。


「ぼくの質問に答えろ」


 感情のない声に、男の顔がますます恐怖で強ばった。

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