第3話

梅雨真っ只中でこの日も朝から断続的に雨が降る6月半ばの日曜日、俺は瑠衣が所属しているアイドルグループの握手会に参加していた。ちなみに握手会に参加するのはこれで7回目。4年間で7回握手会に行くのはファンとしてはあんまり多くない気もするが、まあ仕方ないだろう。




◇ ◇ ◇




朝9時、開場。俺は厳重な警備を長い行列とともにくぐり抜け、会場に入った。そして朝10時の握手会開始に向けて、大勢のファンが一斉に走り出し、それぞれのブースに列を作る。また握手会と平行して、ミニライブが午前と午後、計2回行われるが、それはまた別の話にしておこう。


そして俺は真っ先に、瑠衣が座るブースへと駆け出した。・・・しかし、すごい行列だ。瑠衣、やっぱり人気あるんだな。




「皆さんお元気でしたか〜?大岩です。今日、握手会に参加する皆さんに私から2つ、お知らせしたいことがあります。握手会に参加する際はまず、手をしっかり消毒して、綺麗にしてから握手会に参加してください。以上、大岩瑠衣からのお知らせでした!」




瑠衣が拡声器を使い、そう言うと、レーンが開放され、握手会が始まった!




握手会のテンポは意外と速い。1人1回あたり最大5秒で強制終了となり、次の人と握手をすることになる。瑠衣ほどの人気メンバーとなれば、それが何時間も続き、お昼休憩を挟んだとしても、夕方までひたすら握手をすることになる。




俺が列に並んでいる間、そう考えているうちに、ついに華凪と握手する番が回ってきた!俺は手荷物検査と金属探知機によるチェックを受け、さらに手前にあった消毒液で手を洗い、ついに瑠衣と対面する!




「るいちー、おはよー!」


「おはよー!」


「最近、ずっと雨だね・・・」


「うん・・・私、雨嫌いなの」


「俺も雨嫌いだよ・・・」


「ところで、るいちーは夏休みはどこ行くの?」


「海と温泉があるとこ!」


「そうなの?俺も行くよ」


「本当!?会えたらいいね!」





握手会で俺に接した瑠衣の対応は、いつものような『幼なじみ』でも、ましてや『恋人』でもなく、ただ単純に、『アイドルとファン』だった。瑠衣は普段、ファンから『るいちー』と呼ばれている。そして、俺は瑠衣との握手会を終えると、時間があったので、隣の会場でやっていたミニライブを見ることにした。瑠衣からすれば後輩にあたる、2期生や3期生の若手メンバーが中心だったが、みんな瑠衣に劣らず可愛いな。




午後になり、俺は昼食を食べるため会場近くにあるレストランに向かった。ほどなくして瑠衣からLINEが届いた。LINEには、『トシ、今日握手会来てくれてありがとう!』と書かれていた。俺は瑠衣に返信をする。すると、瑠衣もこれから休憩だということがわかった。そして、昼食を済ませると『瑠衣、午後からも握手会頑張れよ』というLINEを送り、俺は会場を後にした。そして、瑠衣から『ありがとう!私、トシから励まされちゃった。これからも握手会頑張るからね!』という返事が来ていたことは言うまでもない。




◇ ◇ ◇




そして夜になり、瑠衣が帰宅した。帰宅した瑠衣は夕食を食べる前に自室に戻った。そして、窓越しに夕食を食べ終えたばかりの俺がいるのを確認するや否や、窓を開け、俺の部屋に入って来た。




「トシ、今日は握手会に来てくれてありがとう・・・」


「しかしお前、俺が握手会に何回来てると思ってるんだ。7回目だぞ」


「そりゃそうだけどさぁ・・・」


「しかも、ライブにも何度か行ったし」


「うん。それはわかってる」


「2月のドームライブの時、全力で歌ってる瑠衣・・・すげぇ可愛かった」


「え、そうなの?私、トシに初めて可愛いって言われたかも」


「いや俺、昔からトシのことずっと可愛いなって思ってたよ」


「嬉しい、ありがとう!・・・あ、そういえば夏休み、私と一緒に旅行行くこと忘れてないよね?」


「ああ、忘れてねぇよ。こう見えても俺、瑠衣と2人で旅行行くの楽しみにしてるんだからな」


「さすが私のトシ!じゃあ、これからご飯食べるからまたね!」




瑠衣は俺に笑顔を見せ、自分の部屋に戻った。そしてすぐ、夕食のため1階に降りていったのは言うまでもない。




しかし、何を言っているんだ俺。とうとう瑠衣に可愛いって言っちまった。とはいえ、実際『1億人の1億人のよる1億人のための美少女』と言われるだけあって、めっちゃ可愛い。綺麗に伸びた長い黒髪に、雪のように白く、綺麗な肌。いかにも日本的である端正な顔立ち。文句なしの美少女である彼女にブスだと言う人はまずいないだろう。




俺はそんなことを考えながら、風呂に入ることにした。そして風呂から上がり、部屋に戻ると、いつものごとく瑠衣が俺の部屋に入って来たのは言うまでもない。

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