第13話 大商人の娘たち 4

 

 夜中、クリスが姉妹たちのために下手くそな料理をしている間に、これからのことを決める。


 私は風呂場に姉妹をたたせ、指をたてる。


「ネフィ、エイミー、そしてパス。君たちはこれからフラッツヴェルヴではなく、レザージャックを名乗っていきるんだ。私の作品になるその日まで」

「はい、先生!」

「わかったー、きちがい先生ー」

「わかりました、狂った先生」


 三者三様のひどいへんじ。

 されど妙なところでニュアンスが被っている。


「先生はダメだ。狂ったとか、イカれた、きちがいもダメ。私のことはこれからエイデンさん……いや、ご主人様と呼ぶんだよ、ネフィ、エイミー、パス」


「えー、クリスおねえちゃんは、せんせい、ってよんでたのに、ネフィたちはよばせてくれないんだっ!」


 ネフィが頬を膨らませ、そっぽをむいてしまう。


 目が死んでいない。これではダメだ。


 よし、とりあえずはこのネフィの目を殺すことからはじめるか。


「これから君たちには体を洗ってもらう。私は不衛生なものが嫌いだ。

 おぞましくて、近づくことさえはばかられる。そんな者にこの家に住まわれるのは、我慢ならない」


 私はコートを脱ぎ、シャツの袖をまくしあげながら、姉妹たちの体をじっと観察。


 金持ちの娘だけあってみなりは清潔。


 だが、アグレウスを殺した時に、返り血をわずかに浴びており、屋敷の崩壊のせいね、土ぼこりも付着しているだろう。


 最悪なのはネフィだ。


 顔は腫れて、涙の軌跡がのこる。

 フリルのついた水色のドレスは、下半身がぐっしょ濡れて、ドレスの袖は鼻水や血がついている。


 即刻の対処が必要だ。


「エイミー、パス、君たちは服をぬぎ脱衣所で待っていろ」


「えー、エイデンさんもそういうことするのかー」

「あなたも父と変わりませんね。パスは失望しました」


「勘違いしないでくれ、じゃり娘どもよ。私は生きた娘の肉体などにさしたる興味はない。

 君たちが不潔すぎるから、私が納得いくよう掃除するといっているんだよ」


「……不潔、エイミー傷つくなぁー」

「パスの体はたしかに汚され、犯されていますが、そんな直球で言うことはないと思います。エイデンさんは最低の人間です」


 なせだ。

 さっきと全然反応がちがう。

 私の家にきてから一段と言い返してくる。

 なぜ、どうして、この娘たちは微笑んでるんだ。


「ネフィもひどいおもいます! エイデンさん!」

「ッ、寄るな!」


 タタっと近づいてくるネフィを避ける。


「クソっ、汚らしい! まずはお前からだ!」

「あわわ!?」


 杖を腰からぬいて、ひとふり。

 ネフィのドレスを引き裂いて、そのあられもない幼体を風呂場の魔力灯のもとにさらしだす。


 ネフィはたまらずへたりこみ、真っ赤な顔で見上げてきた。


「ネフィは、ネフィはおとうさんにも、まだてをつけられてなかったのに、え、エイデンさんはなんていうへんたーー」

「うるさい」


 壁にかけたコートから、青いポーション小瓶を2本ほど取りだしてネフィの顔にかける。


「ぷへっ! ぽへっ! エイデンさん、ごめんなさい、やめてください! けほっ!」

「安心しろ、害はない」


 空瓶の栓をしめて、窓枠にそろえて置いておく。

 そして、ポーションにせきこむ裸のネフィを抱きかかえ、風呂場へ。


 ネフィは自身の顔のはれが急速にひいていくのに、驚いた顔をして、こちらを見つめている。


 私はそんなネフィを浴槽につっこんだ。


 ーーパシャん


「あっ、つい!?」

「こら、動くな。体温を上昇させることでポーションの効きがよくなる。ネフィの顔に傷が残ったままなど、私は許さない」

「ッ、え、エイデンさん……ッ」


 ぽけぽけしてるネフィをよそに、私は風呂場にかけてあったせっけんを、手拭いを使って泡立たせていく。


 続いて浴槽のなかで、くつろぎはじめとネフィの脇に手をさしこむ。


「ふにゃあ!?」

「洗う」


 ネフィを低いイスに座らせて、あわだった手拭いを使って体の隅々までこする、こする、こする。


「ぇ、ぇ、えぃ、でん、しぁ、ん……ッ、あの、ふぇ!」

「凹凸のない寸胴のからだ、実に洗いやすくて結構だ。そして、ここ、ネフィはさっきお漏らしをしていたな」

「ッ! あ、そ、そこだけ、は……ひゃあ!?」


 手拭いで、ネフィのお股をこすっていく。

 泡を指にからませ、恥部のなかも掃除する。


「ふにゃあ! え、ぃ、でぇ、ん、しゃん……ッ、ふにゃぁぁ! んっ、だめ、です、にゃあ!」


 なんだか、楽しくなってきた。

 作品のかこうを手掛けているようだ。

 生きているのに、不思議ことだな。


 やがて満足するだけネフィを洗い尽くし、お股の臭いを確認して、風呂場からだす。


「ネフィの、ネフィがもてあそばれた……うう!」


 タオルを赤面するネフィのあたまの上に雑にかぶせて、脱衣所で待っているだろう2人にむきなおる。


「さぁ、次はエイミーの番……だ……」


 緋い瞳と目があった。

 まずい、致命的な誤解をされてる気がする。


「先生……何してたんですか……?」


 エプロンを着けてキリッと鋭い目つきの勇者。


 片手に赤い粒子とともに現れた大剣をにぎり、ポニーテールを紅蓮の輝きにそめあげた勇者。


 まずい。

 これは私でもわかる。

 この勇者、怒っているぞ。


「待つんだ、クリス、まずは話をしよう。なにか誤解をしているに違いない。

 そうだろう、ネフィ、私は君の体を清めてあげただけだと言ってくれ」

「クリスおねえちゃん! ネフィのおとめこごろは、エイデンさんにもてあそばれてしまいましたっ!」


「待て、おい、なに言ってる、ネフィ、おい、話がちがーー」


「先生の馬鹿ぁぁぁあああ!」


 緋き眼光ーー。


 是非ぜひもない速攻の無力化。


 脱衣所の空気をわかつ熱い軌跡が、顔面にせまり、いつのにか私の側頭部は勢いよくはじかれていた。

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