第39話 始まりの試練11周目 DP稼ぎ
フェインに伝言を残してダンジョンへ潜る。内容は適当に「少し用事を思いついたので一日くらい出かけてくる」とかそんな感じ。フェインはアクビをしながら返事してくれた。こちらを心配する素振りなど一切無かったので安心だ。
シリウス辺りに伝えると勘ぐられて、こっそりとダンジョン潜りをしていることがバレるかも知れない。だからこその人選。そのためのフェイン。あいつは俺と同じくらいの阿呆だと思う。
もう慣れすら感じる始まりの試練に潜る。
敵や罠の種類、落ちているアイテムなど大体の傾向は掴んでいる。何のスキルも持っていないゴブリンを鏖殺しつつダンジョンを進む。武器と防具を拾い、有用なスクロールとポーションを取捨選択していく。慣れた作業だ。
第一階層をひたすらに進むと、投石オークを見つける。
「喰らえ」
背後からブロンズショートソードを突き刺す。心臓がある箇所を正確に貫かれ、投石オークは哀れにも死んだ。
その後も探索を続けて、全てのアイテムを拾い終わったのを確認してから第二階層に降りる。
敵が居たら注意深く倒し、あらかた倒し終わったら階層を全力で走る。すると罠が次々に発動して、背後で矢が飛んだり、爆発したり、岩が落ちてきたり、腐食の酸が飛び散ったりする。
「……このダンジョンでしかこの技は使えないな」
弱い敵しか居ないダンジョンだから出来る芸当だ。罠の効果が発動するより前に、全力をもって走り罠を回避する。普通のダンジョンですると敵に気づかれて窮地に陥るだろうから、今の所は「始まりの試練」専用の手法である。
二階層のすべての敵を倒し、全ての罠を発動させた。これで偶発的な死亡の可能性は皆無だ。アイテム回収中に目当ての「混乱ポーション」も拾っている。
道中で「融合ワーム」を見つけたので半死半生の状態で引きずり回す。あと死なない程度に目玉を切り裂いて、スキルを封じた状態のイビルアイも担いでいる。
この巨大なミミズのような魔物──融合ワームは、その禍々しい口で武器防具を飲み込み、体内で融合して一つにする。その際に強化値などが融合される為、武器防具の強化には必須の魔物である。
「こんな特性を持ってるかなんて分かるかよ」
融合ワームについては石碑で調べていたら出てきた。石碑で「魔物図鑑」という画面が新しく使えるようになっており、そこに特性が書いてあったからだ。
残念なことに見たことのある魔物しか情報は載っていないので、そこまで有情という訳ではないらしい。知ってたけど。
座り込んで魔物が復活するまで待つ。
目当ての魔物は盗人ゴブリン。ダンジョンでは時間経過で魔物が復活するので、時間とパンさえあれば無限に待っていられる。
復活した魔物を狩りながら、五時間ほど待つと目当ての盗人ゴブリンが出てきた。得意げに大袋を担いでいる。
「見つけた、見つけたぞ」
背後から羽交い締めにして、瓶を開けた混乱ポーションを口に突っ込む。驚き慌てたゴブリンは暴れるが、圧倒的な腕力差により封じた。
「恐れることはないぞお。さあ飲め」
「グギィイイイイイイッッ!!」
ゴブリンは苦しそうにポーションを嚥下した。しばし待つと混乱状態になったので死にかけのイビルアイを投げつける。
「グガァ!? グォオアウア!?」
訳もわからないといった様相でゴブリンはイビルアイを叩き殺し、そして喰らい始める。何回見ても慣れない気持ち悪さがあるが、じっと待つ。
──ゴブリンは何度か吐瀉し、苦痛に顔を歪める。悲鳴を上げたかと思うとその腹部が縦に開かれる。血塗れの空洞から手が伸びて、何かを求めるように宙を掻いた。直ぐにぬらりと粘液をまとったゴブリンが這い出てくる。体躯は二回りほど大きく、どこに仕舞っていたのか不思議なほどの大袋を引きずり出している。
「進化したな! 盗人ゴブリンめ!」
駆け寄って全力で蹴り飛ばす。たたらを踏んだゴブリンは後ろずさり、そして罠に掛かった。
「グギャアゥアアアアッッ!!」
罠から紫電が迸る。感電の罠はゴブリンを獲物として定めて、その雷の力をもって肉を焼く。
ゴブリンが罠から逃れる前に、アイテムボックスから「重力のスクロール」を取り出して読む。
──部屋に舞っていた砂埃が地面に吸い付けられる。いやそう見えたのであって、実際には急激な重力が発生して、砂埃が地面に落ちたのだ。当然のごとく俺とゴブリンも影響下に陥る。
「────! グギギャアッッ!!」
ゴブリンは罠から逃れることも出来ずに紫電により焼かれる。悲鳴と肉が焦げる匂いが部屋に充満するが、俺自身も重力の影響下にあるため移動することは難しく、しばしゴブリンに付き合った。
しばらくするとゴブリンは死に絶え、スクロールの効果も終わった。
落とした大袋に駆け寄ると狙い通りに高品質なアイテムが満載されている。アダマンタイトで出来た剣、ミスリルの重装鎧など様々だ。
進化したゴブリン。さしずめ盗人ゴブリンリーダーの持っているアイテムは質が高い。武器も何種類か入っているし、中には強化値が+7も付いているものすらある。
「ふっ、フハッ──おっと」
胸の中が高揚感で一杯になり、高笑いをしそうになった。レアなアイテムを拾うとつい嬉しくなってしまう。それが両手に収まりきらない程となると、声を抑えることすら難しい。
武器と防具は融合ワームに突っ込む。腹の中で混ぜ合わさったのを確認してから、口に手を突っ込んで引きずり出す。すると粘液と共に融合したアイテムが出てきた。
「これは……たまらん……」
偶然にも大袋の中には「混乱ポーション」が入っていた。これは神がもう一度同じことをしろと──そう俺に告げている。ダンジョンの神が告げている。こんな悪趣味なダンジョンを管轄しているのならば、恐らくは邪神だけど。
「待ってろよ盗人ゴブリン……フフ……」
新たな
経験則で気づいたのだが、良い装備やアイテムを持ってダンジョンを踏破すると、多めにDPが貰える。ならば極限まで稼いだ装備を持って踏破したなら、かなりのDPを稼げるはずである。
稼ぐ。DPを稼ぎまくる。
領地発展の為に。
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