第12話 陥落

ついに、というか、やっと、というか。

具体的な物的証拠品の発見に、しかも、拳銃の撃鉄と引き金から安倍の指紋が出てきた。

安倍晴臣が実行犯であるという確証が出来た。

『お前さぁ・・・

 もう終わりやんけ。

 確実に2人は殺してるんや。

 最低でも、無期やんけ。』

もちろん、安倍晴臣には、裁判を受ける権利はある。

しかし、2人殺した凶器と指紋という証拠品がある以上、有罪で。しかも、かなり長期の拘留になるであろう。

勘太郎は、そのことを言って。暗殺教唆の犯人を教えてくれと話した。

しかし、なぜか安倍の口は固かった。

もちろん、安倍は任意ではなく、逮捕された容疑者である。

そんなある日、中立売粉川興業の若頭、伊藤から勘太郎に電話が入った。

伊藤にしてみれば、年齢が行っている捜査4課長の品川や木田に恩を売るより、若く、しかもエリートコースに乗っている勘太郎の手伝いをする方が、後々得策という判断だろう。

たしかに、間違ってはいない。

『勘太郎さん・・・

 組のロッカーから、面白い物が

 出て来ましたんです。

 見に来ておくれやすな。』

なんと安倍名義の京都銀行の通帳だと言う。

勘太郎は、すぐに本間と木田に報告して出動しようとした。

いつも通りのパトカー駐車場に行くと、勘太郎のGTRの横には、予想通り本間と木田が待っている。

『若頭・・・

 わざわざ連絡ありがとうござ

 います。

 何か不審な点でもあるんで

 すか。』

勘太郎は、あくまでも低姿勢。

いくらヤクザといえど、今は、捜査の協力者なのである。

伊藤は、勘太郎のこういう点も気に入っている。

『いやいや・・・

 儂らが、先に見たら不味いで

 しょう。』

『伊藤はん・・・

 捜査協力、おおきにやで。』

態度は大きいが、刑事なんて、そんなものと思っている伊藤が、木田に通帳を渡した。

ページを捲っていた木田の手が止まって。

『伊藤はん・・・

 こんなもん、ホンマに出して

 えぇんか。

 どえらい証拠品やで。』

『かましまへん。

 今は、あいつのことより、組

 を守る方が先決ですねん。

 報道から考えて、有罪確実の

 あいつは、切り捨てなしょう

 がおまへん。』

伊藤にしても苦渋の決断だったに違いない。

組織が優先ということも、当然と思える。

木田が勘太郎に通帳を渡して。

『3ページ目や・・・』

勘太郎も、ページを捲って、驚いた。

伊藤の説明では。

『別に、組かやってる商売や

 あらしまへん。

 安倍が、勝手にやってたこと

 やさかい、お客さんいう

 ても。』

たしかに、殺し屋の元締めが粉川興業ではないので、安倍の客に義理はない。

しかも、相手は。逮捕こそされてはいないものの、限りなく黒として、四六時中、捜査員が張り付いている。

ならば、粉川興業の方が大切になるのは、一般的社会となんら変わらない。

『警部・・・

 青山遥香からの入金です。

 金額的に、手付金か着手金か、

 ともかく前金でしょう。』

勘太郎が本間に通帳を見せた。

横から品川も覗き込んだ。

『これで、粉川興業が事件 

 に関わってないと、わかって

 もらえましたか。』

伊藤の本当の狙いは、粉川興業が、これ以上捜査の対象にならないようにしたい。

永井健三と青山遥香を売ることによって、事件から離れることができるとの目論見だった。

『手付金か着手金か・・・

 いずれにしても、前金やろ

 う。』

さすがに安倍も、うなずくしかなくなったのか。

少しずつ話し出した。

『元々、暗殺対象は家元だけ

 やったんです。

 たまたま、下村香菜さんに

 見られてしもて。』

安倍の調べでは、下村香菜と姉小路公康が不倫関係だったと。

安倍が調べて、簡単にわかったことなら、警察が調べればもっと簡単。

ならば、少なくとも、下村香菜に捜査の手が伸びるのは。時間の問題。

ならば、捜査を撹乱する意味でも、下村香菜は消した方が得策という殺し屋独特の理屈。

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