第10話 とことんとことん

捜査本部では、青山遥香犯人説と

永井健三犯人説に割れていた。

たしかに木田と勘太郎の意見には一理あるものの、青山遥香のあまりに怪しい行動が気にかかる。

警察の呼び出しには、素直に応じたのだが、手持ちのタバコをマイルドセブンのメンソールに変えてきた。

普段、履いたことのないピンヒールのパンプスでやってきた。

牛小屋の様子を、よくわかっていることが考えられる。

それどころか、清掃前に、科学捜査研究所がいろいろ持ち帰ったこともわかっていて、吸殻等の対策のためにタバコを変えて、靴を変えて。

木田と勘太郎も、その点には引っ掛かりはしている。

牛小屋の吸殻、ハイライトから永井健三の、セブンスターから青山遥香のDNAが、それぞれ検出されたため、どちらも疑うことになった。

とにもかくにも、謎だらけの事件である。

だいたい、都会の姉小路家で黒毛の雄牛を飼育していたのはなぜか。

姉小路公康氏の母親が、滋賀県の近江八幡市の生まれで、実家から、生まれたばかりの赤ちゃん牛をもらってペットにしたら、とんでもなく大きな牛だった。

公康氏は、牛車を作っていた。

公康氏と須美香で、ミルクを与えていたことから、2人になついてしまった。

牛小屋横に、なぜ喫煙所を作ったのか。

姉小路家の家族は、公康氏をはじめ、誰にも喫煙習慣はない。

来客や流派の弟子にも、家屋の中で吸われたくはないと、牛小屋の横にフォールディングテーブルとイスをパラソル付きで設置して灰皿を置いた。

おそらく、そこで安倍晴臣との公康氏暗殺の打ち合わせがなされたのであろう。

ただ、この喫煙所家具からは、何の手がかりも出ていない。

流派の弟子や来客に、意外と愛煙家が多く、しかも永年の風雨で判別不能になっている。

暗礁に乗り上げたような感じで、捜査が停滞してしまった。

そんなある日、高島萌が若女将を勤める祇園のクラブ、乙女座に永年健三と青山遥香が連れだって現れたから、萌は慌てた。

とにもかくにも、勘太郎に連絡したが、胸がドキドキしていた。

当たり前と言えば当たり前。

勘太郎が木田を伴って、店の通用口から入ってきた。

『警部補・・・

 あれは、まるで男女の関係って

 感じですね。』

そっと、音もなく萌が勘太郎と木田に近づいて。

『来店から、ずっとあの

 調子で。

 近づいて、話しかけましょ

 うか。』

萌の提案に、勘太郎は反対した。

『危険過ぎるよ。

 あの2人、とうにヤクザの金蔓

 になっとるやろう。

 したら、萌か、もしかしたら

 スタッフやお客さんも狙われ

 かねへん。』

勘太郎と木田の2人は、永井健三と青山遥香を尾行することにした。

ほどなくして、乙女座を後にした永井と青山が、四条通りで永井の自家用車に乗った。

その後から、木田と勘太郎はタクシーで尾行している。

永井と青山の自家用車は、国道1号線を南下して、名神高速道路の京都南インターをくぐってすぐに左折した。

『お客さん・・・

 なんぼなんでも、あそこに男

 お2人で、ですか。』

 運転手は、とんでもない勘違い

 をしている。

木田が、警察手帳を見せて。

『犯人追尾ですので、ご協力を

 お願いします。』

と言うと。

『なんや・・・

 刑事さんですか。

 ようございます。

 まかしておくれやす。

 そのかわり、必ず捕まえて

 おくれやす。

 ところで、あの犯人、何を

 やらかしましてんや。』

『殺人ですわ。』

木田が言うと、運転手の顔色が変わった。

『殺人犯って、えらい凶悪犯を。

 お2人とも、気をつけて下さ

 いや。』

『いやいや、ありがとうござい

 ます。

 俺達は、凶悪犯専門の刑事です

 ので、めったなことは。』

捜査1課の中でも、腕っぷしの強さでは飛び抜けている2人だ。

『えぇか、勘太郎。

 ぬかるなよ。

 2人やけど、ここであいつら

 とことんとことん追い詰め

 たる。』

『しっかし、あの2人が男女の

 関係やったのには引っ掛かり

 ましたねぇ。

 2人で、暗殺教唆したのかも

 しれませんねぇ。

 しかも、私利私欲だけやし。』

木田が、どこかに電話をかけている。

『捜査1課凶行犯凶悪犯係第1

 班班長の木田警部補であり

 ます。

 京都魔界ライン連続暗殺事件の

 首謀者を追い詰めております。

 深夜ではありますが、人数

 貸して下さい。

 場所は、京都南インターの

 南側のラブホテル街。』

祇園を出る時に、あらかじめ南警察署に依頼しておいた。

高速道路のインターチェンジの周りには、ラブホテルが集まる傾向があるが。

ここ、名神高速道路京都南インターチェンジの南側は、数十軒のラブホテルが軒を並べて競いあっている。

永井と青山を乗せた車が、その中の1軒に入った。

木田と勘太郎が、ホテルの駐車場に突入した。

永井と青山を、部屋に入る前に確保するつもりだ。

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