第9話 頼み人を探せ
魔界ライン殺人事件捜査本部では、木田警部補と真鍋勘太郎が、出前のラーメンをすすっている。
殺人の実行犯は、めでたく逮捕できた。
安倍晴臣には、被害者に対して殺人の動機になることはない。
実行犯、安倍晴臣の殺人の動機は、金である。
問題は、殺人教唆で、安倍晴臣に殺人の依頼をした人物。
当たり前と言えば当たり前だが、安倍晴臣が喋るはずはない。
勘太郎が、科学捜査研究所の種田所長に頼まれて部屋から出た。
勘太郎が、すぐにトラックから黒毛の牛を駐車場に下ろした。
『牛君・・・
君のご主人様の姉小路公康さん
を殺したいって思ってたの誰
だい。』
牛に尋ねて、答えてくれるなら簡単なんだろうが、
窓から、それを見下ろして、本間と木田が呆れていると、科学捜査研究所の種田が本部に入って、捜査員に着席を頼んだ。
『皆さん、実は姉小路さんの自宅
の公康氏のペットの牛、ヤマト
の処分の話しが出て。
とりあえず、清掃業者が牛小
屋の清掃に入ったんです。
そしたら、寝藁から、とん
でもないものが見つかりま
して。
とりあえず、勘太郎君にヤマ
トの相手をしてもらって
ます。』
とんでもないものとは。
科学捜査研究所が、突然、勘太郎を動かすほどのものとは。手がかりに違いない。
一同に緊張が走った。
『完全に消火されてはいまし
たが、タバコの吸殻が数本。
公康氏は、喫煙されません
でしたので、誰のものかを
調べたところ、
数本から、安倍晴臣のDNA
が検出されました。
ということで。ヤマトと寝
藁を、証拠品として預かって
きました。』
捜査本部が、騒然となった。
はじめての、物的手がかりかというとわからないが、期待は持てる。
駐車場には、木田が下りたもののヤマトは興奮して唸り出した。
他の誰が近づいても同じように唸り出す。
仕方なく、もう一度勘太郎が近づいて、鼻先を撫でるとおとなしくなった。
ヤマトは、3歳の黒毛の雄牛であるから、体重は、1トンほどある
『女にはモテへんくせに、牛
にはモテるか。
いかにも勘太郎らしいなぁ。』
その時、寝藁の件で種田に呼ばれた須美香が萌に付き添われてやってきた。
『萌、ヤマトに勘太郎君が取られ
ちゃうよ。』
須美香と萌の会話には、女子大生らしさがある。
勘太郎は、萌の婚約者だけに、違和感はない。
しかし、木田は困り顔で本部に戻った。
ヤマトの寝藁に混ざっていた吸殻は3種類。
1種類は安倍晴臣のもの。
あと2種類の吸殻の主を発見したい。
翌日から、捜査員の靴底をすり減らすような地道な捜査が始まった。
姉小路家の、しかもヤマトの牛小屋まで入ることができるほどの人物とはいっても、門下生数万人という流派の総帥である。
全国に散らばっている上に、老若男女の幅もものすごい。
姉小路孝子の証言によると、牛小屋の寝藁を半年前に入れ替えているどのことなので、半年以内に京都に来ることができない人物は省くことができる。
タバコを吸わない人間ももちろん対象ではない。
『セブンスターとハイライトを
愛煙してる奴で、半年以内に
姉小路の家に来ることが可能
やった人物を、しらみ潰しに
当たるしかない。
みんな、頑張ってくれ。』
本間警部が、檄をとばす。
1ヶ月も経た頃には、数名に絞られていた。
いずれも、日本舞踊姉小路流の高弟で、姉小路公康の死亡により、かなりの利益を得ている。
家元制度があるので、家元になれば、かなりの金銭的利益につながるのだが、当時、家元になれる資格があったのは、娘の須美香だけであるので、いわゆるお家騒動には、なり得ない。
競争相手がいないのである。
捜査本部が注目したのは、家元の須美香が、小娘なのをいいことに、流派に入る金を横領できる地位に着いた者。
家元総代として、須美香の代理をできる地位についた、青山遥香という女。
お蔵番という、直接金庫を管理する部署のトップに着いた、永井健三の2人。
青山遥香は、キャバクラ嬢上がりのケバケバしい感じで、男関係が悪く、借金がある。
永井健三は、野心家で自他共に認める守銭奴である。
捜査員の大多数が、永井に注目する中、木田と勘太郎は青山遥香に注目した。
永井は、中年の域に入るとはいえ男性である。
しかも、ケチが服を着たような守銭奴であることから、プロの殺し屋に金を払うぐらいなら、自分で殺すだろうという判断。
2人が、愛煙しているタバコの銘柄も一致している。
これらのことから、木田と勘太郎は青山遥香犯人説に傾いている。
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