第7話 今更ながらの陰陽道
狙撃犯人の写真を手に入れた捜査員達は、 すぐに出発して行った。
木田と勘太郎は、また赤山禅院の近くに向かった。
2人は、何かに引き寄せられるかのように、赤山禅院付近にこだわっている。
それが何かは、2人にもわからないが、何人も赤山禅院付近の聞き込みをしていた。
『警部補、まさかとは思いますが、赤山禅院さんの寺務所で聞いてみたらあきませんか。』
勘太郎の提案は、もっともなのだが。木田は乗り気になれない。
木田は、比叡山天台宗の信者である。
赤山禅院は、比叡山の最高位の僧侶である婀砂利が行う千日回峰行と呼ばれる荒行の中の百日間に渡り、雲母坂を走って下る、赤山下りと呼ばれる荒行の目的地である。
雲母坂は、修学院から比叡山に上がる登山道なのだが、峻険であるため、現代ではすぐ近くの八瀬からケーブルカーとロープウェイで上がるようになっている。
雲母の名前も、もはや名産の雲母漬で知られる程度のもの。
泰山府君こと赤山大明神を祀る、赤山禅院に、関わりがあるとは思いたくはないのである。
比叡山の熱心な信者であれば、当たり前のことである。
しかし、信者ではない勘太郎は、平気で、寺務所の扉を叩いた。
そして、木田の思いを打ち砕くことなく、意外な返答をした。
『あっ・・・
この方なら、年に何回かお詣
りに来て下さいますよ。
安倍さんとおっしゃる方で
堀川の中立売辺りのお住まい
とお聞きしてます。』
木田の心配を掻き消すように、あっさりとわかってしまった。
さらに、寺男は、話してくれた。
『普段は、堀川の清明神社を中
心に、陰陽道の研究をしたは
るそうです。』
勘太郎には、またわかりにくい、魔界に引き戻されたような気がしてならないのだが、木田は赤山禅院が、直接の関係がなかっただけで意気揚々と捜査本部に戻った。
木田と勘太郎の報告を受けて、すぐさま、捜査会議が開かれた。
『警部補の報告通り、狙撃犯人
は安倍という堀川中立売辺り
に住んでる奴とわかった。
が、まだフルネームがわから
へん。
全員、修学院と堀川中立売の
2組に別れて、詳しい捜査に
当たってくれ。』
しかし、勘太郎は、まだ浮かない顔をしている。
『なんか、まだ魔界ラインに戻
ってませんか。』
本間も木田も、そのことには気付いていない。
『何のこっちゃ・・・。』
なのである。
『殺人現場2ヵ所と手がかりの
場所と、すべてが御所の魔界
ラインにあるんですよね。
これって、何か意味ないんで
しょうか。』
木田は、やっぱり。
『勘太郎は、まだ赤山禅院に何か
あると思っているのんか。』
勘太郎の疑問は、御所の方避けラインである。北東の角に位置する猿が辻から鬼門の守護をする比叡山を結ぶライン上に赤山禅院も、下村杏菜の殺人現場も姉小路公康の殺人現場も、御所の正反対に伸ばしたライン上に一条戻り橋も、清明神社もあります。
これには、何か意味ないんでしょうか。
実際には、多少ズレているのだが。
堀川中立売、京都に伝わる一条戻り橋伝説の舞台。
一条戻り橋伝説、黄泉の国から死者が戻ってくる道にかかっているという。
この橋を渡ってきた魑魅魍魎、つまり妖怪が行進すると言われることから、千本中立売から西側の中立売通りは、特に、妖怪の商店街という売り出し方で、意外と知られるようになっている。
さて、狙撃犯人の安倍の捜査、なかなか進まない。
堀川中立売辺りの住居に在住していないようなのである。
誰もが、ガセネタかと思い始めた。
それまで修学院にばかり行っていた木田と勘太郎が堀川中立売に来た日、堀川商店街のアーケード、易者が出ていた。
『勘太郎・・・
易者の机の前掛け・・・
陰陽師、安倍光明やて。』
木田と勘太郎がヒソヒソ話し。
さすがに、捜査員達が2人の周りに集まった。
『けど、皆さん・・・
見ての通り、写真の男とは似
ても似つかんお年寄り。
ことは、慎重にお願いし
ます。』
まるで、勘太郎が現場を取り仕切っているように見えた。
木田が代表して易者に近づいた。
『易者さん・・・
安倍さんとおっしゃるんです
か。
少しお尋ねします。
この男、ご存知ありま
せんか。』
木田の穏やかな口調に、高齢の陰陽師、安倍光明はすんなりと教えてくれた。
『あっ・・・
こいつは、悪い奴ですわ。
安倍晴臣って言いましてな。
そこに、ヤクザの事務所の出
先がありますでしょう。
そこを根倉にして、陰陽道で
占いすると誤魔化して、観光客
を騙してますわ。
陰陽師の面汚しですわ。』
一応は、陰陽師ではあるとのこと。
だが、観光客を騙してしのいでいるということで、悪人なのに、なかなか表に出て来なかった理由がわかった。
観光客なら、騙されたと気付いても、気付いた時にはもう他府県という悪人にしては、上出来な稼ぎ方。
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