第6話 科学捜査研究所の実力
銃撃殺人は、姉小路公康氏の殺人事件とは別の事件として扱うしかなさそうである。
だが、勘太郎には、引っ掛かることもある。
最初の殺人事件の被害者、姉小路公康氏と第2の殺人事件の被害者下村杏菜は、姉小路流日本舞踊の師匠と弟子。
かなりの関係者ではあるものの、姉小路家に理由が関係するなら、2人目は、公康氏の長女須美香であろう。
また、姉小路流日本舞踊が関係するなら、名取として指導者の立場にある須美香である。
もう1人、名取がいる。
高島萌の方が、はるかに姉小路流とは関係が深い。
下村杏菜には、姉小路との関係で、狙われる理由が見当たらないのである。
したがって、別の事件とされた。
木田と勘太郎は、再び修学院の現場を訪れた。
『警部補。やっぱりありました。
マグナムの散弾後の弾痕。』
『そこからの対角線は。
あそこぐらいか。』
木田と勘太郎は。犯人が狙撃した場所を探しに来たのである。
勘太郎は、狙撃場所の対岸を歩いている。
そして、何かを見つけた。
『警部補ありましたよ。』
『たしかに、あれやったら可能
性あるなぁ。』
2人が探していたのは狙撃場所が映っていそうな防犯カメラ。
狙撃場所の対岸のマンション玄関に、小さな防犯カメラがあったのだが、かなり小型。
はたして、対岸の狙撃場所まで映っているだろうか。
当然である。
マンションの管理組合にして見れば、マンションアプローチが映れば良いわけで、対岸にまで気にするはずは、ない。
2人は、すがる様な思いでマンションの管理人室を訪問した。
2人が恐れた通り、映ってはいるものの、小さな画像で判別できない。
それでも、背格好や服装から、何か手がかりがあるかもしれないので、画像のコピーを提供してもらって本部に戻った。
『この人物を、判別できるように
すれば良いんですか。
お易いご用ですよ。』
科捜研の種田所長が、いとも簡単に言ってのけた。
科捜研の女子オペレーターが、パソコンを持って駆けつけると、ものの数分で、犯人が狙撃する瞬間が、顔まではっきりと映し出された。
『おいおい、科捜研の科学にか
かったら、こんな簡単に。』
本間警部でさえ驚いた。
科学捜査は、日進月歩しているということのようだ。
『種田所長・・・
申し訳ないが、もう一度見せて
もらえないか。
できれば、捜査員全員に。』
本間警部の希望は、当然だった。
科捜研の女性オペレーターを手伝って種田が何かの機械を会議室の真ん中のテーブルにセッティングしている。
『そしたら本間警部・・・
全員この部屋に集めてもらえ
ますか。』
種田の合図が終わるより早く、捜査員達が、会議室になだれ込む。
オーバーヘッドプロジェクター用のスクリーンが下ろされている。
『ほな、種田さん、始めてもら
えますか。』
なぜか。真鍋府警察本部長まで見ている中、スクリーンに。狙撃犯が大きくはっきり映し出された。
顔の表情まで見て取れる
『これがホンマの、なんという
ことでしょうやなぁ。』
木田警部補が、おどけるほどの驚愕が、捜査員達に走った。
『そのうち、俺らも要らんよう
にならへんか。』
そんなことは、あり得ないのだが、捜査員達の心配が当然と思えるほどに。画像が鮮明。
『君達、アホな心配してんなぁ。
だいたい、この画像かて。
木田警部補と勘太郎君が、
足で探してきたんや。』
種田所長が、あきれたように言うと、捜査員達に笑い声が上がった。
真鍋本部長と本間警部が、肩を並べて、こんなことができる時代になったんやなぁ。
ある程度の年齢の捜査員は、みんな同じ思いだろう。
『皆さん、全員着席してもらえ
ますか。
勘太郎君、これを皆さんに
配って下さい。』
種田が、勘太郎に何かを手渡した。
プロジェクターの犯人の画像が、写真になっている。
『日本の警察は、めちゃくちゃ
進んでいるんですねぇ。
あんなに小さな画像が、
ほんの数分で、全員に写真として渡せるって。』
被害者家族も驚いた。
京都府警察科学捜査研究所は、全国の警察の中でもトップクラスの実力を誇る研究所である。
まだまだ、全国どこでも、こんなことができるわけではないのだが。
種田が、立ち上がって説明を付け加えた。
『皆さん、ほんまにしんどい
のは、ここからでっせ。』
その通りである。
狙撃犯人の顔写真は、手に入れたが、どこの誰かは、わかっていないのである。
その言葉に、捜査員達の顔は、引き締まった。
いつの間にか、本間警部がスクリーンの前に出ていた。
捜査会議室に、本間警部の檄が飛んだ
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