第5話 拳銃で

被害者は、下村杏菜。

須美香と萌と同じ、同志社女子大学の学生で、姉小路公康の弟子。

被害者2人の関係が近過ぎるぐらい近いのである。

当然、刑事全員が、連続殺人を予感した。

下村杏菜の両親が到着するのを待ちながら、勘太郎達3人は出前を頼んで休憩する。

京都府警察本部のすぐ近くには、蕎麦の名店が2軒もある。

そのうち、遠い方の岡崎蕎麦は、日本最古の蕎麦店として有名な。創業400年を越える名店中の名店。

もう1軒も、創業130年を越える名店。

ずっと外にいたので。熱い出汁が、身に染みる。

もちろん、姉小路母娘と萌も休憩室で、テーブルを囲んでいた。

杏菜の死因は、見た目に、拳銃のような物で、頭と心臓を撃たれたことによる。

科捜研の分析も同時に待っている。

白衣の男性がドアを開けて入ってきた。

科捜研の種田所長である。

『それを合図に、捜査会議が、再開した。

本間警部は、ホワイトボード前のセンターに座ると。

『よっしゃ、みんな、席につい

 てくれ。

 ご苦労さん。

 まずは、科捜研の種田所長の

 分析結果を聞いてくれ。』

その言葉にあわせて、種田が立ち上がり、死因になった拳銃のような物の分析結果を説明した。

その驚くべき結果に、警察官であれば、憤らない者は、いないであろう、

『凶器は、44口径の拳銃です。

 心臓の方は、貫通してまし

 たが、頭の方に弾が頭蓋骨に

 食い込んでました。

 この弾を分析した結果。

 スミス&ウェッソン社のオー

 トマグやと判断します。』

捜査員が、騒然とするのを静めるように、本間警部が立ち上がり。

『みんな、聞いての通りや。

 こんな化け物みたいな拳銃を

 市内でぶっぱなす犯人を、絶

 対に許すことはできひん。

 必ず、全員捜査で、検挙して

 ご遺族関係者の皆さんの無念を

 少しでも、晴らして差し上

 げるんや。』

全員が、一斉に立ち上がった。

数分後、下村杏菜の両親が捜査本部に到着した。

『今回は、娘の遺体を回収して

 いただき、ありがとうござい

 ます。

 私は、杏菜の父親で、海上

 自衛隊舞鶴基地1等海将

 下村健斗と申します。』

とてつもない人物である。

海上自衛隊の日本海艦隊の旗艦である、ヘリ空母の艦長であると共に、日本海艦隊の総司令官である。

昔にたとえるなら海軍大将である。

戦艦大和か武蔵のどちらかの艦長を勤められる位の人物である。

話しを聞きつけた。京都府警察本部長真鍋源次郎が、駆けつけた。

勘太郎の祖父である。

ただ、誰にも明かしてない。

『下村海将、ご無沙汰しており

 ます。』

さすがに、府警察本部長ともなると面識がある。

『この度は、なんと申し上げ

 れば良いのか。

 本間君、しっかり頼むよ。』

姉小路家にしても下村家にしても、京都が誇る名家である。

こちらはと、姉小路母娘を

 見た。

 先の被害者の奥様とお嬢さ

 んです。』

本間の説明が終わるか終わらないかというタイミングで、下村の妻が、声をあげた。

『あなたが、姉小路須美香

 ちゃん。

 杏菜と仲良しって聞いて

 ます。

 そしたら、こちらのお嬢

 さんは、 高島萌ちゃんで

 すか。』

2人のことは、仲良しの友達と話していたらしい。

『ハイ・・・。

 はじめまして、おじ様、

 おば様。』

2人がハモった。

『姉小路須美香の母でござい

 ます。

 娘が、大変お世話になって。

 高島萌ちゃんも、京都府警察が

 誇る、先々代の名警部さんの

 お嬢さんですのよ。

 そして、こちらの若い刑事さ

 んと婚約中ですのよ。』

そこで、真鍋源次郎本部長が口を挟んだ。

『勘太郎、頑張っとるな。

 下村海将。

 こいつは、私の孫なんで

 すわ。』

捜査本部が、驚愕の声で埋め尽くされた。

あまりに唐突なカミングアウトである。

『ということは、警察庁刑事局

 長真鍋勘一さんの息子で、京

 都府警察本部長、真鍋源次郎

 の孫かいな。

 勘太郎、お前とんでもないエ

 リートやんけ。』

木田警部補が、すっとんきょうな声をあげた。

勘太郎、何か考え込んでいる。

『種田所長・・・

 えらい遅れましたが、質

 問が。』

『おっ・・・

 勘太郎君、気付いたか。』

オートマグは、通常マグナム弾が

装填される。

つまり、本来散弾銃なのである。

『心臓の貫通弾痕は、接射で説

 明がつきますよね。

 頭蓋骨で止まった弾って。』

『その通りや勘太郎君。

 えぇところに気がついた。』

オートマグの爆発力から考えると、よほどの至近距離から撃たないと貫通はしないので、頭と胸の撃たれ方が違うのである。

つまり、胸は身体に銃口をくっ付けて射撃していることがわかる。

頭は、散弾が弾ける距離で、再度射撃していることがわかるのである。

ただでさえ、珍しい銃撃音なのに、とびきり珍しいオートマグの音。

プロの殺し屋が、そんなヘマをするだろうか。

銃声が2発、それも時間差で。

それだけ、目撃される危険性が上がる。

拳銃のプロではないと考えられる。

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