第3話
チャルビッシュがいつから居ついたのかはよくわからない。
先住のミケ子に嫌がられ威嚇されながらも、いつのまにか周辺をうろつくようになった。
ミケ子は私たちが越してくる前から居た猫で、近所の人にも知られている多産な牝だ。
チャルビッシュはしばらく性別が知れなかったが、一度ミケ子に覆いかぶさっているのを見て驚いたので牡だと思う。後ろ姿で睾丸が確認できず、耳にキリかけがあったため、野良猫として捕獲され去勢手術をうけたのではないかと推測した。
最初は痩せて薄汚れてみすぼらしく、警戒心もかなり強くてごはんをかすめとっていくようだった。やがて少し安心できたのか、本来のちょっと抜けた性質のせいか、人がいない時には玄関脇で昼寝するようになった。
ふっくらし始めるとお腹にうずまきが浮かんできて、アメリカンショートヘアの雑種じゃないかと思われた。
野良猫とは思えない人懐こさで、お腹が空いていてもごはんに口をつける前に、まず器を差し出した手に顎を摺り寄せるしぐさが可愛かった。
朝起きてくるのを待ちかねて、さえずるように鳴きながらごはんの場所まで先導する姿が、ふっくらした毛に覆われたお尻が忘れられない。
調子を崩してからも、しっかり撫でたら嫌がらずに目を細めて体をゆだねてくれていた。痩せる風でもなくあまり様子が変わらなかったので、油断したところがあったと思う。
チャルビッシュはブラッシングも好きだった。
天気のいい日に表で犬をブラッシングしていると、少し離れたところからじっと見ていた。
その後なぜか、ブラッシングする音に合わせて地面をころころ左右に転がり「エアブラッシング」をするようになった。
試しに近づき、ブラシを持った腕をのばして背中をすっと撫でてみたら、その場でぴょーんと飛び上がって逃げたのがおかしかった。
それから何度か試すうちに体の強張りがなくなり、すっかり慣れた。自分から腕の届くところまで近づき、すり寄り、とうとう背中を向けてブラッシングの順番を待つようになった。
体が小さく手触りも柔らかいので、ブラッシングの力は犬よりも控えめで。途中でひっくり返って腹を見せるから、表裏じっくりと。時折甘噛みをしながら恍惚とした顔をする。
ブラシに絡まる毛は犬の何倍も多く、細くしなやかですぐにいっぱいになった。その毛をていねいに剥がしてボールに丸めると、必ず飛びついて食いちぎって遊んだ。
犬の真似をしているようなところもあったと思う。
家人が犬の散歩に行くとついてきて、同じ場所でおしっこをして見せたという。
表に出したクッションや敷物に、犬と一緒にくつろいでいることもあった。
お尻を嗅がれても嫌がらなかった。たぶん猫よりも犬と相性がよかったのだろう。
「一緒に散歩に行ったねー」
「チャーちゃん死んじゃったよー」
と家人が犬に話しかけていた。
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