第2話

ライトで床下を照らしてみたが何も見当たらない。

古い家なので、床は高くスペースは広い。暗闇の向こうに一直線に外の光が見通せた。


私は見つけたくなかったから見ようとしなかったのだろう。

帰宅した家人にも覗いてもらえるよう頼むと、ライトを持ったまますぐに戻ってきて

「思いっきり入り口のところで死んでる」

と言った。

(思いっきり死んでる)

と頭の中で繰り返す。


家人は軍手をはめて、猫が出入りしていた穴から腕を差し込み、亡骸を掴みだした。急いで小さめの段ボールを組み立てて表に走り出ると、その中にそっと横たえてくれた。


ツイッターで動物好きの方々をフォローしているせいか、季節の変わり目のせいか、ペットを亡くす方がいた。

供花のつもりで庭の花を摘みアップした画像があり、その花瓶の花をまとめて段ボールに入れた。白い花をほぼ摘んでしまっていたのでありがたく、このためにまるで用意したかのようだった。


気持ちは平坦だが目は蛇口のしまらないような状態になり、涙がたらたら流れた。

私は段ボールを抱えた家人の後ろを追いかけながら、チャルビッシュの姿を直視することを一瞬ためらった。悲惨な状態だったらと、怖かったからだ。


花を入れる時に垣間見た猫は、一人暮らしをしていた若い時に初めて亡くした猫と同じ顔をしていた。

あの時もたらたら泣いた。病院からの帰り道、段ボールを抱えてずっと泣きながら歩いた住宅街の夜道を思い出す。


手早く深く土を掘って葬り花も一緒に埋めた。

「石でものせる」

と言われてとまどいつつも、近くにあった小さくて白い丸い石を手のひらに包んで少し温めてから土の上に置いた。

チャルビッシュに触った家人は、きれいでふわふわでやわらかかった、と言った。


土葬についてさまざまな意見もあると思うが、亡骸が見つかってちゃんと土に埋葬できたことはよかったと思う。見つからないままでは虫やほかの動物が損壊したかもしれないし、こちらの気持ちもふらふらしたままだった。


チャルビッシュは野良猫だが人懐っこく、成長して身に着けたはずの警戒心がところどころ追い付かないような無防備さで、おそらく以前は飼い猫だったと思われた。

猫は死期を迎えると姿を消すといわれるが、人の気配がする床下で亡くなったのもそんなチャルビッシュらしいと思った。


あれから雨が降り晴れあがり、また風が強まって雨が降る。

土葬は生々しくリアルなので、どうしても妄想してしまう。冷たい湿った土の感触を思い浮かべてしまいごめんよ、と思う。

だがもう魂は肉体を離れ、一説には虹の橋のたもとにいるそうだ。

朝、丸い石の上に花を置いている。

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