２周目は鬼畜プレイで【完全版】

フィリス、レイラと友情を深める（上）

「――フィリス様は何と言っても由緒正しきアンダーソン家の血筋。父上は帝国そして女王国でも要職を歴任されてきたニール＝アンダーソン様」

「母上もマストヴァル家ご出身。補領でも随一の力はいまだ健在」

「やはり次期女王はフィリス様をおいてほかにない。……レイラ＝バーゼルなど論外！」

「しかしあの娘もターナー家という後ろ盾がある。いけ好かない上級貴族たちもあちらに肩入れしている。決して捨て置ける存在ではない！」

「厄介なことに、父親は軍人たちに影響力を持つロレントときた。そちらの呼び込みに関しては、我々の劣勢は如何ともしがたい」

「……しかも祖母はあのメルティーナ様。あの御方がその気になれば一気に流れが作られる可能性すらある」　

　私は階下から聞こえてくる騒音に気が滅入っていた。

　女王国平定から十数年が経って　帝国では表面上平和な日々が続いている。だけどきっと私にとって本当の意味での平和な日々なんて、一生来ない。

　騒いでいるのは定期的に屋敷に集まってくる私の支援者たちだ。父も母も私も敢えてその場には出席しないことになっている。ただ我が家の一室を提供しているということで何となく察しろという姿勢だ。

　階下の彼らは先程から実に威勢がいい。

　私の名前や父の名前を使ってようやく大きい声をあげられる程度の人間なのに。

　私を女王として担ぎ上げようとするのは百歩譲って許そう。

　だけど、一番の問題は彼らが肝心の私のコトなど何も知らないということだ。

　私がどんな性格なのか。

　どのような能力があるのか。

　そのような女王として大事なところは全くと言っていい程知らない。

　元宰相ニール＝アンダーソンと有力領主マストヴァル家の血を引くアンジェラ＝マストヴァルという帝国でも影響力のある血統を繋いだ娘。それこそがフィリス＝アンダーソン唯一無二の価値だと言わんばかりに騒ぎたてている。

　先程から腐していたレイラちゃんのことだって同じだ。

　ただロレント殿とケイト様の娘とだけ。

　それならばいっそ私とレイラちゃんから血を抜き出し、それらを飲み比べて彼らが美味しいと思う方を玉座に飾ればいい。

　レイラちゃんがどれだけ私に優しくしてくれたのか。

　今なおどれだけ彼女の存在が私を救ってくれているのか。

　そんなこと知らないし、知ろうともしない。

　ただただ、それが悔しかった。

「――そんなのタダの雑音でしょ？　気にすることないよ！」

　レイラちゃんはいつもこうやって、あっけらかんと私の悩みを遠くへ放り投げてしまう。そのたくましさが私に必要なものだと理解してはいるつもりだけど……。

　今日も天気がいいので中庭の芝生の上で一緒にお弁当食べていた。

　普段はお互いの取り巻きの人たちが何かとウルサイけれど、二人で一緒にご飯を食べる時だけは潮が引いたかのように去っていく。

「レイラちゃんってばもう。……でも私もそんな風に考えられるようになりたいなぁ」

「いや～、パパに似ちゃったんだろうねぇ」

　そう言ってアハハと大口を開けて豪快に笑ってから、美味しそうにお弁当を頬張った。

「ん～。おいひい！」

「口の中にモノをいれてしゃべらないの！　……行儀悪いよ。またクロエ様に怒られちゃう」

　私がそう窘めるとレイラちゃんは慌てて周囲を見渡し、すまし顔のお嬢様モードで食べ始めた。

　レイラちゃんは生まれて初めての友達だった。学校に入る前から仲の良い子はそれなりにたくさんいた……と思う。

　今のうちに近付いておくと後々楽になると考えた彼女たちの親世代の思惑だ。不自然なまでに祭り上げられて居心地が悪いことこの上なかった。

　勉強が好きだった私は、そんな輪から逃げるように政治や法律のセカイにのめりこんでいった。そんな現実逃避も大人たちは「さすがアンダーソン家の令嬢」などとほめそやす。

　私はそういった声を全て黙殺し、父に弟子入りしてせっせと知識を蓄えることを選んだ。

　やがて十歳になると幼年学校に通いながら、アリシア女王陛下のお仕事を手伝うことになった。レイラちゃんも一緒だった。

　以前から同い年のレイラちゃんの名前は聞くに堪えない罵詈雑言（ばりぞうごん）とセットで聞いていた。

　私自身、子供ながらにそれなりの想像力があったので、きっと同じようなコトをアチラ側にも言われているのだろうなと考えていた。

　だからと言っては何だが、少なくとも私だけは彼女のことを知りもしないうちから嫌わないでおこうと心に決めていた。

　実際会った彼女は本当に素敵な女の子だった。

　優しくて思いやりがあって。天真爛漫で。

　内気で頭でっかちなだけの私と比べるべくもない。

　レイラちゃんは、私がずっとなりたいと夢に見てきたような素敵な女の子だった。