断章3話 マール、メイスは恐ろしいと心から笑う。
何故あの2周目のメイスの生き様を見終えた後で止めなかったのだろうか?
別に金になる訳でもないのに、何故我はこんな苦しみを味わっているのだろう?
試行錯誤を続けながらそんな自問自答を繰り返す日々だった。
――だが最後の最後で、我は賭けに勝った。
彼奴が交渉しようと持ち掛けてきたあのとき。
例の笑顔を見た瞬間。
我はまたしても
そしてあのときのクロエの言葉の意味を理解した。
彼女は隣の夫にも聞こえないような小声でこう呟いたのだ――。
『何故今この場でこの話をするの? どうしてもこの場が必要だったの? ……もしかして本当は和平の内容なんて全く関係なくて、全員を集めることだけが目的だったの? ……陛下は何かが起こるのを待っているの?』
もっと彼女の言葉を掘り下げておけば良かった。
結局彼奴がやったことは、前回謁見広間でやったことと同じだった。
あの時は
我はその真意に気付けず可愛いなどと高笑いしたのだが、ヒステリックに叫んだからといって『必ずしも本心を語っている』かどうかは別問題だと思い知らされた。
今回もそう。
メイスが自身の過去を白状したことで、あの場の誰もが彼奴の考えを理解した気になっていた。……我も含めて。
彼奴は平和を望んでいるのだと。
帝国を欲している訳ではないのだと。
ただ仲間と笑っていたいのだと。
ずっと隠し続けていたことを
当然ながら本心は別にあった。
あの『アリスの失敗を
彼奴の狙い。
それは我をあの場に引きずり出すこと。
神の声をこのセカイの主要人物に聞かせ、神の存在とこのセカイのルールを認めさせること。
魔王や戦争以上など比にならない創造神という名の脅威を前に、堂々と交渉する女王アリシアを見せつけること。
誰も持ちえなかった圧倒的な指導力、交渉力、カリスマ性でもって穏便にセカイを手に入れる。
あの場の人間が騙されるのは仕方がない。
だが我は?
同じ落とし穴に二度もハメられたマヌケだ。
確かに彼奴は前回から学んでいた。
――神たる我と交渉できるということを!
ついでに言えば神の声を聞く資格、ひいてはこのゲームのルールの『あやふやさ』なども見切っていた。
メイスの独白は最初で最後の交渉を成功させるための
それ以前のヴァルグラン無血開城、いや、そのもっと前のクロード一行との会談の時点から我との交渉は始まっていた。
『どうすればより安全に、より確実に帝国を喰らうことが出来るのか?』
『我はこのセカイを通じて何を望んでいるのか?』
皇帝の処遇も含め、残していた必要なピースをあの場で集めきる。
そして満を持して交渉に入った。
結果は御覧の通り。
彼奴は欲しいモノを全て持って行った。
権力に求心力、そして人類の未来さえも。
彼奴は上手く我を言いくるめたと悦に入っているやもしれない。
しかしながら歴史を眺めるゲーム自体は、我のセカイにおいて特に『新しいモノ』ではない。
ただ、それを彼奴が言い出したことに意味を感じた。
メイスもアリスもずっと嘘ばかり吐いてきた。
我だけでなく仲間や部下たちにも本心を見せることなく、いつも何とも思わない風の笑顔ですべてを飲み込んで。
だけど、あの提案は、あの提案だけは紛れもない本心から来るものだったと確信している。
どうやら本気であのセカイを気に入ってくれたらしい。
それが何より嬉しかった。
妙な達成感があった。
だからあのセカイの存続を認めた。
何より我も新しい楽しみを手に入れることが出来た。
この先、セカイはどのように移り変わっていくのか。
最悪、上手くいかなければ、また『夢』と言う形で介入すればいい。
効果はアリスで立証済だ。
彼奴を主人公に据えて本当に良かった。
おかげで貴重な経験を得ることが出来た。
我マリスミラルダこと、わかやまみかんはノートパソコンのモニタをパタリと閉じ、大きく伸びをした。
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