断章2話 マール、アリス投入はズルだと理解する。
2周目勇者を投入するのはフェアとは言い難い。
本人の意思ならともかく勝手な投入はズルだと言っても過言ではないだろう。
前のセカイの記憶を引き継ぐというのはそれだけで有利に働くモノ。
それが最高傑作であるメイスならば尚更。
そんなことは百も承知だ。
それでも、そうでもしないとこの退屈から逃げられそうになかった。
もはや自ら課したルールでさえ横に置いた。
より大きな刺激。
より大きな波乱。
我の目的はそれを求めることへと完全にシフトしていった。
だからといって、もう一度アリスを投入させたところで簡単に思い通りに進むこともなかった。
本当に彼奴は一筋縄ではいかない。
順調に進めていたかと思えば、そのときの気分で簡単に道を外す。
相手を必要以上に挑発し、必要ない怒りを買って自滅する。
せっかく上手くいったとしても、命を賭けて分に会わない博打を仕掛ける。それもハイリスクハイリターンの、どこか破滅的な賭け。
その結末は大抵悲惨なモノだった。
時に上手くセカイを手に入れる寸前までいくものの、最後の最後で裏切られ暗殺される。
時にセカイを混乱に陥れる毒婦として捕らえられ、衆人環視の中で処刑される。
時に教会の敵として指名手配されながら逃げ惑い力尽きる。
時に一人で突っ込んで戦死する。
失敗の理由は明らかだった。
クロエが登場していないからだ。
結局彼女がポルトグランデを離れたのはあの一回きり。
彼女がいないからどうしても攻略が単調になる。
簡単にメッキが剥がされる。
アリスはクロエを得てこそのアリスだったと知った。
あの一回が最初で最後の奇跡の一回だったのだと。
それだけあのときの彼奴は運に恵まれ、そしてそれをきっちりと使いこなしていたのだ。
だからあれ程の興奮する展開を繰り広げることが出来たのだ。
悲劇的な結末のオンパレードに初めのうちは大笑いさせてもらったものが、次第に我の中に何か違う感情が芽生えてくるのも感じていた。
確かに退屈は
次はどんな結末を迎えるのかと心が躍った。
毎回毎回派手に散っていく彼奴は時間を忘れされてくれた。
しかし我はそれとは別に思うところがあったのだ。
彼奴は思い通りにいかないコトに悶え苦しみながらも、セカイを楽しみ尽くしていた。
毎回毎回、1周目では得られなかった新しい出会いに興奮し、策を巡らす。
彼奴は死ぬ寸前、最後の最後まで目を輝かせていた。
全力で生き抜いていた。
そしてそのときが来れば笑顔で散っていった。
――悔いなしと言わんばかりに。
我はそんな彼奴に嫉妬した。
そして冷静に自分を顧みて、一方で我は一体何をしているのかと自問自答する。
しかしながら、不思議と我にそんな思いをさせたメイスを憎いとは思わなかった。
むしろ、もどかしさすら感じる始末。
一度メイスの思い通りにさせてやりたいとさえ思った。
憎いはずの彼奴に肩入れしたくなる自分に驚くも、心のどこかでは納得していた。
どうせなら彼奴の実力を存分に発揮できる環境を整えてやりたい。
その上で失敗するならもう諦めよう。
そう。
……諦める。
我は残していた『最後の一手』を打つことにした。
おそらくこれが我の最後の挑戦。
失敗したらもうこのゲームをやめる。
このセカイで望むものはもう何もないはず。
こうして『最後の一回』が始まった。
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