第9話 クロエ、アリスの何かが変わったと直感する(二)
決起集会を受けて今晩、我が家にて――。
私たち大人三人とケイト、そして陛下の五人で食卓を囲んでいた。
「――美味しい料理をありがとうございました」
陛下が満足そうな笑顔を見せる。
対して
決起集会が終わり陛下と女王国公館に戻った後、「夜ゆっくりと話がしたいの」と耳打ちされた。行政府にある防諜対策完備の会議室は使いたくない、とも。
確かにあの会議室で話した内容は絶対に洩れることは無い。それはイチから監修した私が保証しよう。
だが、その部屋を使った事実だけはどうしようもない。
つまり陛下は何らかの、『隠したい内容の会談があった』ことそのものを知られたくない、と。
それならばと、私はウチを使うことを提案した。
ロレントとテオが女王国の公館に足を運ぶのは、それだけで政治的意味が生じる。何かあると大声で叫ぶようなモノだ。
その点、ウチならば。
陛下は今まで何度もこちらを訪ねてくれているから丁度良かった。
こうして、私と娘が料理を作ってお招きする簡単な夕食会とあいなった次第である。
食事も終わり女性三人で和気あいあいと洗い物をする。
表面上は――だが。
実に華やぐ光景だろうが、背中に突き刺さるのはピリピリとした視線。
もちろん陛下も感じているだろうが、何とも思っていない笑顔で洗い物を続けていた。そして食後の紅茶の準備を終わらせ応接間に移動する。
「――さて戦争の順序ですが」
一息つく間もなく陛下が切り出した。
前置きなんてあるはずがない。
基本的に陛下はいつも突然だ。
今日の決起集会の中で『ヴァルグラン領境まで軍を出してからレジスタンスへの合流を促す書簡を出す』というロレントのやや強硬な案を女王国として支持。そして上級貴族たちも賛同した。
ただ穏健派のテオやホルスたち領主陣営さらに日和見の教会らへの心情も考え、返事が来るまでは絶対に領境は越えないことも同時に決まった。
つまりまだ戦争はしない。
ロレントとしてはあちらから殴り掛かってくるように仕向けたい。
テオやホルスはまず話し合いがしたい。
では間に入った陛下と女王国は?
――その答えがコレってことね?
何てことはない。
既に陛下の中で、戦争は決定事項だった。
「踏み込んだ発言をさせてもらうと、女王国としてはこの際、ヴァルグランの返事を待たずに軽く領境付近で一戦交えても良いと考えています」
その言葉にテオが凍り付いた。
対して、発案者でもあるロレントは無表情を貫く。
私とケイトは陛下の真意を読み取る為、集中すべく深呼吸をした。
「戦争など避けることが出来ればそれに越したことはないのですが、貴族派や彼らの私兵団たちのガス抜きをさせておきたいというロレントさんの気持ちもよく分かるのです。彼らに領境で『おあずけ』させ続けるという状況は我々にとってよろしくない。何より私は彼らの理性を信じることが出来ない」
陛下は貴族派をバッサリ切って捨てた。
下手な罵声よりも辛辣な見解。
だが、彼らの危うさをよく理解していると思った。
「つまり睨み合った状況で不測の暴発を招くぐらいならば、いっそこちら側で手頃な戦場を用意して散発的な小競り合いをさせておいた方が健全だ、というコトですね?」
ケイトが今の言葉を補足すると、陛下はその通りと頷いた。
中々の大局観だと思った。
方針転換したとしても、戦争をスポーツのように扱い、人を人とも思わない、人命を消耗品として捉える部分は相変わらず。
――少しだけ安心したわ。
陛下の心の内が読み取れない日々が続いていたが、今の彼女なら十分射程距離内。
ロレントも我が意を得たりと言わんばかりに頷いた。
これが彼の本音だった。
ただでさえマストヴァル家とレジスタンスに参加している上級貴族たちは険悪な関係にある。 しかも領主アランは帝都の
――つまり、遅かれ早かれヴァルグランとは戦うしかない。
ならば割り切って暴力の矛先として利用すればいい。
ヴァルグランの軍は中途半端な補領より大きいが帝都よりは確実に小さい。レジスタンスの現有戦力を量る為にも手頃な大きさの器、これ以上ない相手だった。
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