第12話 クロード、アリスと潜入戦に参加する(上)


 アリスちゃんと仲直りをした。

 そう仲直り。

 お互いに行き違いがあったことを認め合って握手して。

 これからは協力してセカイを守っていこうと約束した。

 何より嬉しかったのは神の声の存在を認めてくれたことだ。

 

 ――今まで誰も信じてくれなかったのに!


 パーティのみんなは触れようともしなかった。

 ……サファイアでさえ。

 それなのに面と向かって僕から宣戦布告されたアリスちゃんがそれを真剣に受け止めてくれた。

 神の声を真実とした上で、何故自分がセカイの敵だと言われているのかの推論まで立てて見せた。一生懸命考えながら。今までの自分の行動をかえりみて。

 


 やっぱり器からして違うのだろうか。

 普通なら敵である僕の顔なんて見たくもないだろうに。

 もちろん僕だって本当はアリスちゃんにあんなキツい言葉を投げたくなかった。

 成り行き上、本当に仕方なくそうなってしまっただけ。

 アリスちゃんはそのこともきっちりとんでくれた。

 そしてマール神もアリスちゃんの言い分に納得したのか、なんと『敵』だというのを取り下げてしまう。

 あの面倒臭いと言っては語弊ごへいがあるが、機嫌を損ねてしまうと少々扱いづらいマール神と取引までしてしまった。

 女王というのはそんなにも凄いのかと、ただただ感心するばかりだった。



 何が凄いと言って、やっぱり気配りだろう。

 あの場ではまだ敵だった僕たちの為に衣装まで用意してくれた。

 そのおかげもあって、あの決起集会でも悪目立ちせずに済んだ。

 部屋に入った瞬間、あまりに煌びやかさに目がくらみそうになった。

 顔見知りのバトラーさんも普段と違う、いかにもな恰好と雰囲気でビックリ。

 国内有数の大貴族というのは本当だったと否応なく理解させられた。

 最初にあの姿で現れていたら気軽に話しかけることなんてしなかった。

 あの口うるさく絡んでくる取り巻きたちが、バトラーさんに『敬意を払え』と言っていた意味がようやく分かった。

 何より、決起集会の本当の意味を知った。


 ――これは集会の名を借りた、お互いの陣営をだったのだ、と。


 サファイアとルビーの衣装も派手過ぎるだと思っていたが、あれぐらいではないとダメだった。

 貴族たちの後ろに控える騎士たちの煌びやかな鎧は実用的とは思えなかったけど、それでもあの場にふさわしいものだった。

 もし僕たちが普段の恰好で出席していたら――。

 それを考えるだけで腹の奥の方がきゅんと痛んだ。



 最初は牽制する冷ややかな雰囲気の中で始まった会議もアリスちゃんが色んな陣営に気を使い、最終的には穏やかな空気で閉会することができた。

 今までずっと出てこなかったレジスタンスのリーダーが実はあのパックさんだったことも明らかになった。

 それは偽名で本名はロレント。

 以前皇帝の親衛隊長をしていたそうで、生きていることを隠していたそうだ。

 風格があると思っていたが、やはりそれなりの大人物だった、と。

 ちなみにどのような経緯でリーダーになったかは集会の後でパーティのみんながしっていることを繋ぎ合わせて結論を出した。 

 会議が終わって帰ろうとする僕たちを、ロレントさんが皆の前で呼び止めると、注目される中で昔使っていたという魔法剣を渡してくれた。

 この前、イーギスで一緒に遊んでくれた礼だ、と。

 これからも期待している、と。

 本当に誇らしかった。

 ここまで冒険者として数々の偉い人にも会ってきたけれど、誰かの前でちゃんした形で褒美をもらうことなんてなかった。

 子供の頃からずっと憧れ続けていた光景だった。

 僕はそれを丁寧に受け取る。

 感激のあまりちょっと芝居がかっていたかもしれない。

 ロレントさんは僕の気持ちを察してくれたのか、満足そうな笑顔で優しく僕の肩を叩く。

 それだけで終わらなかった。

 からも期待しているとの励ましの声。

 サファイアやルビー、トパーズの皆が武器防具が渡された。あくまで試作品の実戦使用調査名目としてだったが、実質トパーズの拳装具のときのようなプレゼントだと考えていい。

 更に貴重な魔力回復のクスリなどの無償提供が約束される。 

 そんな光景を皆が遠巻きで眺めていた。

 まるで僕たちがセカイの中心にいるような感覚になる。

 まさに順風満帆。その言葉がピッタリだった。

 


 

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