断章1話 創造主マール、刺激不足を嘆く。
我はあれから、このゲームを一体何千回程繰り返したのだろうか?
だがどれだけ待ってもあれ以上の興奮する展開は
我はこのセカイの創造主ではあるが、特に平和を望んでいる訳ではない。
このゲームを通じて、我の中に燻り続けるこの
だからセカイを作っては消し、作っては消す。
それに伴い、いろんな勇者を作ってはセカイに投入してみた。
本当にいろんな勇者を作った。
もはや魔王の討伐は勇者に対する号令でしかなかった。
あれだけ拘っていた成否にすら興味が持てなくなった。
考えることはたった一つ。
どうすればあれを過去にしてしまえる程の楽しい展開を作り出すことが出来るのか。
ひたすらそれだけを追求した。
しかしそんな涙ぐましい努力の甲斐もなく、彼らは実に中途半端な結果ばかりを生み出していく。
特に彼らが悪いとは思わない。
ただ、相手が悪過ぎただけ。
我は改めて痛感させられた。
メイスの居ないこのセカイこそ、我が忌避している退屈のそのものなのだ――と。
仕方なく我は今まで封印していた彼奴を勇者として投入することにした。
だが本来のメイスは勇者としては最高傑作。
他の追随を許さない程に優秀な存在。
彼奴は例によって文句一つ言わずただ愚直に勇者とはかくあるべしという王道を
おそらく胸の奥に相当な量のドス黒い何かを抱えているのだろうが、それを信頼する仲間にも欠片すら見せず、笑顔で目の前の難事を処理していく。
そしてそのまま魔王討伐を成し遂げた。
しかしながら我はそんなモノを見たいのではない。
もっと刺激的な展開を望んでいるのだ。
もっと破天荒に。
もっと時を忘れる程の盤上の変化を!
だが何度投入してもメイスは淡々と勇者の役目をこなす。
挙句、期待していた2周目への挑戦もしてくれなかった。
そこで我は思い切ってメイスを調整することにした。
まず最初の試みとして我に対する憎しみを足すことから始める。
何せ彼奴の原動力だ。何かしらの動きを見せると踏んだ。
神の声が聞こえた瞬間から我に対する嫌悪感を露わにするメイス。だが仲間の前ではそれを取り繕うのは流石だった。
表面上はちゃんと我に従い、メイスは魔王復活の為に皇帝を殺す。
しかし皇帝と魔王関連、さらにセカイの仕組みを知った途端、彼奴の中で何かが始まった。
まず苦楽をともにした仲間を魔王城で裏切り殺す。
そのまま回れ右して魔王の配下であるモンスターを陽動に使い、自らの手でレジスタンスの主要人物たちを片っ端から殺して壊滅させ、最後にはセカイをも滅ぼした。
あのセカイのクロードが出来なかったことをあっさりとやってのけ、狂気の高笑いをするメイスに鳥肌が立ったが、それだけだった。
別に楽しくも何ともなかった。
……退屈こそしなかったが。
それならばと今度はメイスに底意地の悪さを足してみた。
彼奴には欠かせない要素だ。
そこを更に伸ばせばどうなるのか。
データという意味でも非常に楽しみな試みだった。
しかし底意地の悪さを足したメイスは我の予想に反して普通のメイスと同じように、これと言って何かに迷う様子も見せず、淡々と皇帝を殺し魔王をも討伐する。
だが今までと違ったのはそこからだった。
彼奴に宝具の使い方を教えると表情を一変させ、真剣に何かを考え始めたのだ。
うわの空のまま仲間たちに引っ張られるように魔王城を後にし、レジスタンス主催の祝勝会に参加しているときもずっと何かを考え続けていた。
宿屋に戻り、上機嫌で酔っぱらった仲間たちが眠ってからも。
それはあまりに鬼気迫る表情で。
一晩考え抜いた彼奴は2周目に挑戦する決意を我に伝えた。
我は喜んだものの、それは始まるまでの話だった。
新しいセカイに生まれ変わったメイスは同じ名前同じ職業を選択する。
同じ装備を纏い、同じ仲間ではないものの同職業同性別体格も似たような冒険者とパーティを組んでマインズを旅立った。
そして全く同じルートを辿って同じようにレジスタンスに賛同し、同じように皇帝を殺し、同じように魔王を倒す。
……見事な『リプレイ』だった。
退屈凌ぎのでやっているゲームから究極の退屈を与えられるという、とんでもない意趣返し。
更にこちらが問うまでもなく3周目に突入する意思を見せるという念の入れよう。
完全に『我が一番嫌がることは何か?』を見切っての行動だった。
――何という底意地の悪さ!
怒りを通り越して笑いしか出てこなかった。
もちろんそんなセカイは問答無用で消してやったが。
背に腹は代えられない。
我は今までのルールを破ることを決断する。
これが2周目勇者であるアリスをひっぱり出すに至った経緯である。
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